ブラック企業ですわね
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シャリル王子の執務室で書類を片付けながらエバンスと私は雑談を交わす。
執務室に通うようになって今日で一週間、ようやくエバンスは変なテンションから普通の状態に戻り、私を仕事の神と崇めることをやめて同僚程度に認識してくれるようになった。
「来週はまた王家主催の舞踏会ですね。準備手配や予算組みはリゼル王子側の担当ですのでこちらは関係はありませんが」
「王宮の舞踏会ってそんなに頻繁に開くものなの? 国費使いすぎじゃないの?」
「おやおや、グラデュラス公爵令嬢からそのような言葉を聞くとは!」
あれほど舞踏会好きでしたのに、とエバンスが明るく笑う。
エバンスは以前のアンジェリカを毛嫌いしていたようだが、今の私についてはそれほど嫌悪されていないようだ。多分ね。
執務の邪魔にならないようにシンプルなドレスに身を包み、髪を高い位置で一つに結い上げている軽い装いがエバンスの警戒を解くのにも役立っているのかもしれない。
これまでのアンジェリカは盛大に着飾り、化粧に香水、細くて高いヒールを身に纏っていた。
それは彼女なりの戦闘服だっただろうし、もちろん似合ってもいたけれど、まだ十七歳のうら若い乙女、しかも元々輝く美貌の持ち主であれば化粧や香水などなくても良くない? とアラサー女子は考えるのですよ。
しかも仕事場で香水の匂いをまき散らす人は元々大の苦手だったのに、自分がその立場になりたくない。
最初は少し遠めに位置を定めていたエバンスの、アンジェリカとの距離感が近くなっているのは確かだ。
しかしゲームではイベントとして舞踏会がすぐに開かれるのも自然に思っていたけれど、現実となると舞踏会を開くにはかなりの費用と準備と時間が必要になってくる。
つい先日にリゼル王子の誕生会が開かれたというのに、また来週には王宮での舞踏会があるなんて時間と国費の無駄遣いではないかと常識を疑う。
「王の不在に若手貴族の絆を深めるのが目的なんだとか。兄上は堅物そうに見えて人と交わるのが案外好きなんだよ。だから舞踏会も欠かさずに出るし主催もするんだ」
少しだけ眉を下げて笑う成瀬の顔がシャリル王子と被って見える。
実直で朴訥なリゼル王子。だからこそ他の人になど目もくれずヒロインただ一人を真っ直ぐに愛し大切にするところが売りのはずなのに、その実、意外と舞踏会好きで人と交わるのが好きだったとか、そりゃびっくりでしたわ。
でも、それより何より……
「仕事しろって感じよね」
好きな仕事だけやってんじゃねー! と叫びたい。
ぼそっと呟いた私の言葉に執務室内の二人が苦笑する。
この大量の仕事がギリギリなんとかなっているのは、補佐官エバンスはもちろん軽薄そうなキャラのシャリル王子も相当仕事の出来る男だからだ。成瀬として接していた元の世界でも感じていたことだが彼は有能だ。
だからこそ王様になんてなりたくない、とシャリル王子が王権にも政略にも興味を持たないのも納得できる。
このブラックな仕事量を見れば絶対になりたくないだろう。私も王妃とか絶対に嫌だ。
だからリゼル王子よ、必ずヒロインをものにしてくれと切に願う。




