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山際がウザいのですわ

「ちょ、何を言い出してんの? 私、一人で帰るから。本当に山際ってば、何を考えているのか、ねえ。成瀬君にも迷惑でしょ」


 顔が引きつっているがわかるが、それでもなんとか笑顔を作れただけ褒めて欲しい。


 気が利かない山際は、(ここは俺に任せろ)的な目配せをしてきている。

 きっと彼氏もここしばらくいない私を案じての行為なのかもしれないが、一言言いたい。


(ま――――ったく的外れだから!!)


 リアルな男なんか、これっぽっちも求めていない!

 どうせ世話する気なら戦国武将連れてこい! もしくは異国の王子だ!

 私の一押しは片倉小十郎と優しくて木訥キャラのリゼル王子だ!!

 ギリギリと外聞を気にせず山際を睨み付けたが、鈍い彼はグッと親指を立てた。


(わかってなぁぁぁい!)


 しかも成瀬は「わかりました。ご命令とあればお送りします」なんて畏まっている。


「あのね、そんなのパワハラだから。送らなくていいからね」


「いえ、女性一人で帰るのは危ないですよね。送りますよ」


(いやいや、一人にさせてよ。今まで生きてきて襲われたことないから、心配いらないから)


 しかも受付女子がめちゃくちゃ睨んでるからね!

 あの獰猛にも見える瞳は、帰り際に鳶が油揚げを(さら)う素早さで成瀬を捕獲する気満々だ。


 よし、大丈夫だ、と心でつぶやく。


 あの女子のギラギラした目は、確実に獲物を捕獲するだろう。

 若くて美人の受付嬢と、お局間近の先輩社員ならば、どちらに成瀬がなびくかなど一目瞭然だ。


(よし、頑張れ、えっと、マキちゃん! いや、ミキちゃんだったかな?)


 まあどっちでもいいから、確実に成瀬を物にしてくれよ、と願いながらコップのビールをおっさんのように煽った。



 結論から言おう。


 負けた。いや勝ったのか?


 鳶が油揚げを攫うことに失敗したのだ。


(マキちゃーーん! いや、ミキちゃんだっけ? どうして油揚げ成瀬をかっさらってくれなかったのよーーー!)


 泣きたい気持ちでタクシーに乗っている。


 9時を過ぎた頃には私は気が気でなく、そわそわしている私をどう勘違いしたのか、同期の山際は「おい成瀬、柴崎が帰りたそうだ。送ってってやれ」なんて耳打ちしやがった。


 帰りたいのは確かだが、ひ・と・り・で! 一人で帰りたい!


 なのに、超絶気が利くばかりに、入ったばかりで先輩の意見を無下にできない成瀬は、律儀にそしてスマートに私を店から連れ出して素早くタクシーを止め私を押し込み隣に乗り込んだ。


「ちょっと! 本当に送らなくていいから! つかタクシーもったいないでしょう!」


 電車もまだまだ元気に軽快に動いている時間にタクシーとか、どこの御大だよ、と突っ込むと、成瀬は隣でクスクスと控えめに笑う。


(うおおおおっと、危ない)


 無防備な笑い顔はやけに幼く見え、それでいて色気を含んでいた。



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