仕事に専念しますわ
*
翌日、意外と何事もなく私はシャリル王子の執務室で仕事をしている。
昨夜、ちょっとばかり成瀬というかシャリル王子と良い感じで飲み明かしたが、気がつけば私はベッドですやすやモードでした。
あの後、どうなったっけ? 成瀬はいつ部屋から帰ったのかな?
いまいち覚えていないが、まあ、男女のなんちゃらみたいなのはない、はず。
朝は少々緊張して執務室に入ったが、成瀬は何事もなく普通に接してくる。
(くっ……あいつ、全然普通じゃないのよ)
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけドキドキして部屋に入った自分が恥ずかしい。
あの恋人つなぎみたいな手の感触がまだ残っているのは自分だけだった。
(これだからたらしの第二王子様に翻弄される令嬢が続出するっての、あいつ、わかってるの?)
キッと睨み付けたが、すぐに昨晩のことは頭の片隅に追いやり、手に残る微妙な感覚を払うようにパンパンと手を払ってから仕事に集中することにした。
それよりもリゼル王子から前日の紅茶事件(プラスその後の話し合い)のことで何か言われるかもと身構えていたが、結局特に呼び出しもお咎めもない。
(確かゲーム内では紅茶事件がきっかけでリゼル王子とヒロインが急接近するのよね。王宮の舞踏会に出られるほどのドレスがないことを知った王子が自分の衣装と色を揃えたドレスを贈り、次の舞踏会ではそのドレスを着たヒロインを王子がエスコートするんだったよね)
アンジェリカにとっては自分が一番だった場所をポッと出の下位貴族の娘に取られたと、激しく嫉妬するようになる。
(それで嫌がらせも激しくなり、ヒロインを大事にするリゼル王子周辺の人たちから嫌われていくのよね)
アンジェリカ目線だと嫌われていく流れだけど、プレイヤー目線、つまりヒロイン目線だとここからどんどん王子との関係が深まりドキドキなシーンや甘い言葉が待っているという大事な始まりの時だ。
もちろん周囲にいるガゼルやシャリル王子からも好意を寄せられることになっていくので、あの紅茶事件は結構大切なシーンだったはず。
(ヒロインはきっとこの流れを知っているはずね。絶対に彼女はゲームのプレイヤーだわ)
そうでなければ無理矢理にあのシーンを再現して私を陥れるはずがない。
もしプレイヤーでないなら単なる嫌なやつだ。
どちらにしろ最大限に注意をしないと、この先ゲームのシナリオ通りに進んでしまいかねない。
そうなると……行き着く先はおっさん国王かぁ。
この先の出来事をしっかりと把握して回避するためにも思い出さなければならないことは多い。そのほかにも実家であるグラデュラス公爵家の内情も気になるところだ。うかうかして毒殺されてはたまらない。
グラデュラス公爵家に帰ることがあれば飲食には注意が必要だなと心する。
しかしアンジェリカって、生きるのハードモード過ぎる気がする。外れくじを引いた気分だ。どうせならヒロインが良かった。
(とにかく直近のイベントだと王宮舞踏会ね。リゼル王子がヒロインのエスコートをするけど嫉妬しなきゃどうってことないよね。できれば出席したくないから体調崩すことにするのはどうかな)
仕事の手は止めずに頭の中でこの先の対処を考えていく。
その時、ふと目についた数字に眉根を寄せ声を上げる。
「この数字、おかしくないですか?」




