三日目の夜は更けるのですわ
「でも貴族のほとんどが政略結婚なんだから、そんなこと言ってたら結婚できなくなるよ?」
「結婚なんて出来なくてもいい。できればしたくない」
おっさん国王に嫁ぐのも嫌だから、できるだけリゼル第一王子にもヒロインにも関わらないようにしないといけないのに、第二王子との婚約とか更に面倒を抱えたくない。
「アンジー、わかってる? 公爵家はあなたが安心して過ごせる場所じゃないんだ。結婚しないことにはあなたが安心して住める場所などない。だから僕と婚約すれば兄上のことも家のことも全て解決する」
それに、と成瀬は私の髪を一房すくいとり、そこに唇を近づけて続ける。
「僕ならアンジーを幸せにする。政略的な意味で申し込んでいるけど、この気持ちは本当のもの。だから僕と婚約しよう」
こ、この国の男たちは……いちいち髪の毛に口づけしないと話を進められないのか!?
成瀬、あんたは日本にいたくせに、こんな素振りをみせて語弊と誤解が生じると思わないのか!?
(勘違いしてまうやろ――――!)
この国の男たち、危険。
勘違いさせる気満々なのか、これが素なのか……怖い。
「と、とにかく、婚約とかは今は考えられないの」
「どうしても、ダメ?」
まるで子犬のような上目遣い。膝の上の手に手を重ねてくる。
くっ……可愛い!
仕方ないなあ、もうそれでいいからそんな目で見ないでよ、なんて言いたくなる。
ダメダメ! 私は元の世界に戻りたいし、結婚なんてしない。
ここでうっかり流されている場合じゃないの!
「あああ、もう! 色々聞きたかったのに全部吹っ飛んでいったじゃ無いの! こうなったら、もう飲み明かすしかないわね、付き合いなさいよ!」
半分以上、照れ隠しだったかもしれない。
けれど二人でワインを一瓶空けてちょっと楽しい気分で三日目の夜は更けていった。
握られた手が、いつの間にか指と指が絡まって恋人つなぎのようになっていたのは、気がつかないふりをし続けたままで。




