夜のお時間ですわ
気がつけば完全に日が暮れてしまっていた。
以前ならまだまだ働いていた時間だが、この世界ではあまり遅くまで仕事をすると侍女の方や護衛の方々に多大なる迷惑がかかるらしいので、私たち三人は簡単に夕食を摂ってから仕事は切り上げることになった。
補佐官として有能さを発揮したエバンスは、今日は家で眠れると眼鏡の奥で半分泣いていた。
私も王宮内の与えられた部屋で、三侍女の皆様にお世話をされながらお風呂にも入り、アロマオイルでマッサージしてもらい、至れり尽くせりで就寝の支度を調えた。
部屋に一人きりになり部屋の明かりが落とされ淡い間接照明だけが残された頃、トントンと扉が遠慮がちに叩かれた。
(もう就寝時間なのに、誰?)
不審に思っていると扉の外から「部屋にお邪魔してもいいですか?」と聞き馴染んだ成瀬の声が聞こえたので、私は急いで扉を開けた。
聞きたいことがたくさんあるのになかなか二人きりになれなかった。
ようやく話す機会ができたと、私はいそいそと彼を部屋へ招き入れた。
「こんな夜更けに簡単に男を招き入れたらダメですよ、先輩」
「そういうのいいから、さあ、座って座って」
淡い光だけの部屋の中、ソファーに座るように勧めると、成瀬は後ろに隠していた手を前に回した。
その手にはワインのボトルが握られていた。
「おお! ワイン!」
ちょうど飲みたかったの! と満面の笑みを見せると、成瀬はいたずらっ子のようにニヤリと口元を歪めた。
「と思った。夕食の時に仕事中だからと水が運ばれてきた時、すごくがっかりしてたもんね」
「バレてちゃあ仕方ないわ。私のポーカーフェイスもまだまだね」
いそいそと部屋のキャビネットからグラスを二つ運んで来る間に成瀬がワインの栓を抜いてくれる。
芳醇な赤ワインの香りが仄かに広がる。
「どうぞ、愛しいご令嬢」
「ほらぁ、そういうことを軽々しく言う……で、なんで隣に座るのよ」
注がれたワイングラスを受け取る私の隣に座った成瀬に口をとがらせると、奴はふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
やけに甘い笑みに戸惑ってしまって、慌ててワインを口に運んだ。




