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アデューなのですわ

 はああああ、と大きな呆れたため息をこぼし、左手で額を押さえる。


「公爵家の後ろ盾が欲しいと思っているのでしたら、残念ながら手に入らないですよ?」


「なっ! わ、私はそんな……つもりでは……ない。心からアンジェリカ嬢を……その」


 わかりやすく目を泳がせる王子に思わず笑いがこみ上げる。


(ポーカーフェイスとか全然できないの、笑える! 少しは腹黒弟王子を見習ったほうがいいのに)


 ある意味愛すべきキャラクターかもしれない。


「リゼル王子殿下」


 私は最大限に穏やかな笑みを浮かべつつ落ち着いた声でリゼル王子の名を呼ぶ。

 ハッとしてリゼル王子が私を見つめる。青い瞳の中で困惑が揺れている。


「王子殿下の幸せは、きっと私の隣にはありません。どうかご自身の心を信じて伴侶を選んでください。公爵家の後ろ盾など些細なことです。公爵家はグラデュラス家だけではないと、お心に留め置きください」


「いや、だから後ろ盾などと……そんなつもりは……」


(ない、とは言わないのよねぇ)


 きっと根が正直なのだろう。上手く立ち回れば好きではない相手であるアンジェリカを惚れさせることなど簡単なのに。後ろ盾なんて感じさせずに惚れさせてしまえばいいのに。

 腹黒の第二王子ならばそれくらいの駆け引きは笑顔でやりそうなのに、この王子様ときたら本当に朴訥で根が真面目なのね。

 結婚なんてまっぴらごめんだけど、愛すべきキャラクターかもしれない。


「リゼル王子殿下、今一度よくご自分の心の中と向き合ってくださいませ。きっとそこに私はおりません。あなたには計略や策謀などに振り回されず心から幸せになっていただきたいのです。王が幸せになることが民のために良い政治ができると、私は信じております」


 愛しい息子を思うような(息子いないけど)慈愛に満ちた気持ちで微笑み、ソファーから立ち上がりゆっくり歩いて扉に手を掛ける。


 アデュー、愛しの推し王子。

 さようなら、ちょっとムカつくけど真っ直ぐな王子様。


 心で呟いて、一度振り返り最大限の丁寧なお辞儀をしてから踵を返して部屋を後にした。


 アンジェリカ嬢! と呼ぶ声がしたような気がしたが、無視して歩き出した。



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