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嬉しくない二人きりですわ

(確かミキール・タニターノ侯爵令嬢だっけ)


 有名体重計の会社と似た名前の侯爵家だったので印象に残っていた。そして彼女のこともどこかで見たことが。


(すごーく既視感あるんだけど……)


 明るい茶色の髪を綺麗に整え、長いまつげに縁取られた黒に近い瞳は大きくて、綺麗にネイルを施している彼女。


「なに? ではココア・モスドナルド令嬢が嘘をついたと?」


「はい、わたくしにはそう見えておりますが」


「いいえ! 確かに私はアンジェリカ様から虐めを受けました! 他の皆さんも私のことが気に入らないので、そんなことを言うのです!」


 私が記憶の底を探っている間に話が進んでいた。


 ミキール嬢以外の令嬢は下を向いたまま一切口を挟まない。先ほどまでのおしゃべりな口は縫い付けられたように閉じられている。

 王子に睨まれたら家門がどうなるかと考えれば、迂闊に口を挟めないのは理解できる。

 だからこそミキール令嬢がどれほどの勇気を持って異議を唱えてくれたのかがわかる。


 リゼル王子は少し考えた後、自分にしなだれかかり目に涙を浮かべているヒロインに着替えるようにと告げ、それからアンジェリカに厳しい視線を向けた。


「アンジェリカ嬢は私と来てもらおう。あなたとは少し話をするべきだな」


 王宮の侍女と共に去ろうとしていたヒロインが、振り返ってこちらを見ながらうっすらと笑った。



 リゼル王子に連れて行かれたのは以前に通してもらった応接室だった。

 広い部屋は落ち着いたアイボリーの色調で整えられ、淡いブルーのソファーセットが目に優しい。今日は忍者文官など他の人はいなかった。


 二人きりで対面してソファーに座った後もシンと沈黙が落ちて気まずい空気が流れる。

 やがてリゼル王子がため息と共に口を開いた。


「アンジェリカ嬢、あなたに一つはっきりと言っておく」


 もうリゼル王子と二人きりだなんてはしゃぐ気にもならなくなっていた。

 推しだなんだとリゼル王子へ向かっていた熱烈な気分はすっかり失せてしまったようだ。

対面しても仕事の取引先の人程度にしか感じない。イケメンだけど。


 彼はアイスブルーの瞳で私を真っ直ぐに見つめる。


「私はあなたを婚約者に選ぶつもりだ」


「え?」


 んなはずないよね?


 ゲームではヒロインが婚約者として選ばれ、邪魔者アンジェリカがおっさん国王の下へと嫁がされた後、二人の盛大な結婚式が行われ、国中から祝福されるのだ。


 だからアンジェリカを選ぶはずはないのに。


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