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私、何かしましたか?

(もしや……徹夜?)


 輝くエバンスの顔と対照的な王子の顔を見て哀れを催してしまった。


「ではエバンス卿、手分けして仕分けを行います。何よりもそれが最優先ですので。王子殿下はひたすらご自身の仕事を続けてください」


「畏まりました! では何なりとご指示を」


(あなた、いきなり変わり過ぎてない!?)


 眼鏡エバンスもコツを掴めば優秀さを発揮して、どんどん仕分けを進めていく。

 彼はわからないことはすぐに聞いてくれる。きっと補佐官としてのプライドも大いにあるだろうに、ポッと出の令嬢に聞いてくる素直さには感服する。これは以前会社で成瀬を指導していた時にも感じたことだ。主従そろって仕事に対する真剣さに好感が持てる。


 重要度、緊急度、不要書類などをエバンスと相談しながら仕分けを進めると書類はみるみる綺麗にいくつかの山になっていく。成果が見えるのは気持ちのいいものだ。

人手不足感はあるけれど、順調に進む仕事にやりがいを感じてくるから私もワーカーホリックを発症しているのかもしれない。


 そんなワーキングタイムが楽しかったと思わせられるのは、現在のこの時間が苦痛だからに他ならない。


「まあ、ではマリアン様があの噂のブルーダイヤのブローチを手に入れられたのですね」


「うふふ、少しご縁がありまして父が手にいれたのですわ」


「ランデル伯爵も相当ブルーダイヤにご執心だったと聞いていますわ。クロエ様、伯爵は残念でしたわね」


「いいえ、父も噂ほどにはそのダイヤに執心しておりませんでしたのよ。他にも素晴らしい宝石がたくさんあるのですから、そこまで執着するほどのものでもありませんしね」


 ふふふ、おほほ、と上品そうに紅茶を片手に笑いながらマウントを取り合っている。


 穏やかな王宮の昼下がりの美しい庭園の一角。

 リゼル王子の婚約者候補の令嬢によるお茶会が開かれている。


 爽やかな風と柔らかな光、テーブルの上には意匠を凝らした美しいお菓子と香り高い紅茶。色とりどりのドレスを纏う着飾った令嬢たち。

 当のリゼル王子は出席していない、女だけの巣窟だ。


 なぜか令嬢たちは発言する度にチラッチラッとこちらへ視線を投げる。

 まるでアンジェリカの機嫌を損ねていなかを確認しているかのように。


(戻りたい……切実に仕事に戻りたい。書類地獄の方がこの地獄よりマシだわ)


 聞いているだけで居たたまれないし、いちいちこちらを伺うような視線を向けられることに気が滅入ってきて思わずため息がこぼれる。


「あらアンジェリカ様はお疲れなのかしら? あのリゼル王子殿下襲撃事件から王宮に押しかけていらっしゃると聞いておりますわ。さぞお疲れなのですね」


 うわ~、こっちに来た、やめてよ~。


 極力会話に入らないようにしていたのに、小さいため息一つでも聞き漏らしてもらえないなんて、貴族女子の敏感さに脱帽する。


 あああ、面倒だわ~と思った瞬間、突然「きゃあ!」と私のすぐ隣後ろから可愛らしい悲鳴が聞こえて振り返る。


「あ、あんまりですアンジェリカ様……このようなこと……酷いです」


 意味不明な非難をしながら涙を浮かべているのはヒロインのココア・モスドナルドだ。

 彼女の初期設定のドレスには紅茶がべっとりとこぼれている。


「い、いくら私が嫌いでも、こんな風に紅茶をかけるなんて……私、何かしましたか? これほどまでに憎まれているなんて」


 可愛くて華奢な彼女が肩を震わせる。


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