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鼻歌がこぼれましてよ

 今日の送迎の馬車だって王宮専用の乗り心地抜群の馬車を用意してくれた。もう王子の婚約者になることが決定しているも同然の扱いだと思えば気持ちがいい。


「ゲームよりも好感度上げるの簡単なんだぁ。やっぱり可愛いから? それとも中身が私だからかな? ゲームのヒロインよりも甘えるの上手だもんね、私ってば」


 上機嫌で鼻歌がこぼれる。

 ふう、と自分の可愛らしさにうっとりする。


 この見た目で甘え上手だなんて無敵だわ、あの高慢ちきな女なんて目じゃないわ。

 明日にはもっとアンジェリカからの嫌がらせを受けて、可哀想なヒロインを全力で演じ、リゼル王子との好感度を上げるのよ、と鏡の中の自分に微笑む。


 騎士のガゼルや第二王子にも目一杯同情をしてもらうの、と鏡の前から立ち上がると柔らかいベッドにゴロリと転がる。


「もう、最っ高。このヒロインってやっぱりゲーム内の女の子の中で一番可愛いわ」


 王子と恋仲になってこんな初期設定のドレスじゃなくて華やかで美しいドレスを贈ってもらい、そして次の舞踏会ではエスコートをしてもらうの。


 ゲームではガチャを何回も引いて出したエメラルドとダイヤのネックレスとイヤリングのセットも、ここでは王子が贈ってくれるはず。


「それから靴ね。あれもガチャだったけど、やっぱりドレスとセットだから王子様が贈ってくれるわよね。んんん、楽しみだわ」


 この可愛らしさにはしょぼいドレスは似合わないわ、と呟いてココア・モスドナルド子爵令嬢は足先に引っかかっている地味な色の靴をペッと投げ出す。

 ヒールも使い古されてかかとがすり切れかけている、いかにも安物の靴だ。


 ゲームの中で見た、舞踏会でリゼル王子のエスコートを受け、誰よりも素敵なドレスに最高級の宝石で着飾り、貴族たちからの注目を一身に浴びるシーンを思い返す。


 あのシーンは最高だった。


 突然現れた下位貴族の令嬢が王子を射止めたと、他の令嬢たちの悔しそうな顔ったらない。その中でもあの高慢なアンジェリカの憎しみに満ちた顔。


「あー、もう笑いがとまらないわ! 早くあの舞踏会の日にならないかなぁ。それであの女を追い出して、私のイケメンパラダイスの逆ハーを極めたいわぁ!」


 この先の出来事が全部わかっているだけに、上手く立ち回るだけで男たちが好意を抱いてくることは決定事項なのだ。楽しみで仕方ない。

 どうすれば男たちが自分になびくのかの手管も全部承知済み。

 それにはあの邪魔女のアンジェリカからの虐めが必要だ。あの女をいかにして最大に苛立たせるか。


「どうやってあの女を苛つかせようかなぁ。まあ、普通にしていてもすぐに嫉妬してくるはずなんだけど、やっぱり最大限に嫉妬させたいもんねー」


 グレーの瞳を煌めかせた愛らしい令嬢は、明日の王宮での予定に心を躍らせていた。

 

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