手のひらを返すのですわね
すわ突然の乱心か、とガゼルが剣をスラリと引き抜いたが、すぐにエバンスが叫ぶように告げた。
「グラデュラス公爵令嬢を引き留めてください! 帰してはなりません、ダメです!!」
「は?」
素っ頓狂な声を出したのはガゼルで、成瀬はいつもの声音で「落ち着けエバンス」と諭すように彼の肩に手を当てた。
たちまちエバンスは魔法が解けたように落ち着きを取り戻し、スクッと立ち上がるや眼鏡を押し上げて咳払いをした。
さっきの醜態などなかったように冷静を装う。
「シャリル王子殿下、どうかグラデュラス公爵令嬢に仕事を手伝ってもらうことをお許しください」
一転して有能文官な雰囲気を放つエバンスにガゼルはまだ警戒を解いていないのか、アンジェリカを守るように抜き身の剣を構えたまま睨んでいる。
その姿はちょっと萌える。
エバンスの言葉に成瀬はくいっと片眉を引き上げて続きを促す。
「急にどうした? つい先ほどまでは邪魔しかしないとか追い出せと言っていたのに」
「それは……まあ高慢ちきで王子以外の人を見下して他の令嬢に嫌がらせをすると噂のグラデュラス公爵令嬢が暇つぶしに来られるのは邪魔と言うか、嫌悪すべき、いや唾棄すべきことだって思いましたよ」
そ、そこまで……。嫌われすぎてない? アンジェリカさん。
うん、でも日頃の行状のせいだな、代わりに謝っておきます、ごめんね。
そして誰も「そこまで言わなくても」なんて庇ってくれないところが切ない。
しかし、とエバンスが唐突に拳を握りしめて突き上げた。
「びっくりするほど書類が整理されていたんですよ! あんな的確で画期的な仕分け方法、令嬢の仕事の能力に驚いたんです! 一緒に働いてもらえば、私の徹夜の回数をグッと減らすことができる。私の休息の、いや命の危機回避のためにもグラデュラス公爵令嬢にぜひお手伝いしてもらいたい!!」
力強く言い切ったエバンスの眼鏡がなぜか光輝いていた。
休み、睡眠、休憩……そういったものへの希望を見いだしているようだ。
(時間もなかったしたいした仕分けしてないのに、そんなに期待されること?)
陳情書、報告書、計画書、予算申請、会議資料などなど、色んな種類の書類が混在していたからそれぞれ仕分けし、全てに目を通していないけれど緊急度が高そうなものと特に重要そうなものだけを別に仕分けしておいただけなのに、こんなに感動してもらえるなんて。
「あと不要資料を火で燃やしてもらえるのも助かります。貴重な人材です」
手のひら返し、すごい。
火で燃やすとか……って苦い顔をしていたのを忘れてないからな、エバンスめ。




