ノックは上品にですわ
ゲーム内のアンジェリカはわがまま令嬢の嫌な女とのイメージしかなかったから、きっと家でも甘やかされ好き放題お金も浪費する貴族令嬢だと思っていたのに!
(でも、確かに父親の視線は冷たかった)
いくら王宮から呼び出されたからと、倒れた娘を食事もさせずに送り出すのは確かに愛情のある親のすることではなさそうだ。
「きっとアンジェリカ嬢がいなくなれば、己の息子、つまりあなたの義弟にその魔力が引き継がれると現公爵夫人は考えているらしい」
「そんな……」
「今まではあなたもそんなに大きな魔力見せてこなかったけれど、これだけの魔力保持者だと判明した以上、あなたが次期公爵家を次ぐことは決定的になるだろう。だからこそ焦りを感じて今まで以上に露骨に命の危険に脅かされることが想定できた」
なんて迷惑なことを!
アンジェリカはどうか知らないけれど、公爵家の跡継ぎとか興味ない。勝手に義弟が引き継げば良いのに、まあ迷惑なこと!
「それで嫌疑がかかっていると呼び出し、保護を目的として王宮に滞在をしてもらい僕の秘書官としたんだ」
どやぁ、と自分の立てた策に自信満々な成瀬、と言うよりシャリル王子が胸をはる。
いや、ならば変な嫌疑とかじゃなく、もっと別の方法あったでしょうよ……と呆れる。
公爵家では完全に犯罪者見る目つきで見送られましたからね、あんたのせいでね!
それなのに「僕えらい!」とでも言いたそうな顔をしている成瀬が憎らしい。
そこへガゼルの声が頭上から降ってくる。
「ならば僕の屋敷にアンジェリカを引き取ろう。王宮に不自然に留めておくより親戚の我が家の方がいい。アンジェリカもここよりも気が楽だろう。できもしない仕事などするふりをせずともいいのだから」
「出来もしないって!」
酷くない? と続けようとしたが、突然扉をけたたましく叩く音が響いた。
ノックどころではなく、ドドドンドンと和太鼓もかくやの叩きっぷりだった。
お待ちください! なんて制止する侍女の悲痛な叫びにも似た声が響いたが、直後、バアアアアーンと激しく扉が開かれた。
そこに立っていたのは、若干目が血走ったシャリル王子の補佐官エバンスだ。
そしてシャリル王子の足下に縋り付かんばかりにズザザザーっとスライディングを決めた。眼鏡までずれて滑稽な土下座状態だ。
「ダメで――す! 王子、早まってはダメですぅぅぅ!」
「なっ!?」
そこにいた全員が目を丸くして絶句する。




