歓迎会などするのですわ
思わず顔が素に戻りそうになり、急いで笑顔を取り繕う。
「成瀬君の歓迎会ですか」
「そう、彼には早く慣れてもらいたいからね。そのためにはやっぱり酒でしょう。これが一番、飲みニケーションでしょ」
くいっと酒を飲むようなジェスチャーをする課長に、一瞬だけ顔が素に戻る。
(飲みニケーションとかいつの時代の言葉!? 今時の若者はお酒嫌いも多いのに、この人は本当に昭和の頑固親父のままで思考停止してるんだから!)
直属の上司である課長は、ただ今五十五歳のおやじ盛り。
頭は涼しくなりすでに数年を経過しているのに、まだ抵抗を諦めていない。
お酒好きのせいでお腹は見事なメタボ。そして隙あらば飲み会を開こうとするから始末に悪い。
お酒を飲むなら家で一人で飲みたい。ワイワイ飲むのはもう面倒なのだ。
それに今は王子とのラブイベント期間中なのだ。残業だって迷惑なのに、飲み会など!
けれど歓迎会と言われてしまえば仕方がない。
心で盛大な溜息をこぼしながら、いつもの愛想笑いを浮かべ、私はまたいつものように頭を下げる。
「わかりました。お店、手配しておきますね」
「人数確認もよろ~」
(よろ~、じゃねえよ!)
思い切り突っ込めたらどれだけ心地いいことか。
(私が一緒にいたいのは、おやじじゃなくて王子だよ!)
半分泣きたい気分で課長のデスクを後にした。
*
翌週、総務課だけでなく、受付の女子二人も加わり、成瀬春人の歓迎会が開かれた。
お店は昭和課長のおすすめ「うまい魚が食えるんだよ~」とありがたくもない推薦により、これまた昭和の香りが濃厚な個人経営の居酒屋に決定していた。
「今時こんな店?」
「ちょっと古くさいよね~」
受付の美人たちは不服のようだが、気に入らないのならば、帰ってもらって結構です。
それでも彼女たちのお目当ては、おいしい魚でもお酒でもなく、成瀬春人なのだから、引き下がるわけもない。
「あ、成瀬さ~ん! 隣に座ってもいいですかぁ?」
「あ、ミキちゃん、あたしも隣に行きたいのにぃ」
甘い声は色とりどりのキャンディのようで、辺りに広がり場が華やぐ。
「いいねえ、若い綺麗どころが入ってくれると」
なんて課長は鼻の下を伸ばしているが、独身男性は新入りに女子を奪われちょっと涙目だ。