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心の中が揺れましてよ

 そう、奴は待っていたようだった。私からのその申し出を……。


「うわ、嬉しいかも。先輩、有能だったから絶対に戦力になるって思っていましたよ」


 そんな言葉に視線を向けると、そこには成瀬ではなくシャリル王子の笑顔があった。


(えっ?)


「……それに、ずっと側にいてもらえる」


 ささやくように言った言葉は風にさらわれてはっきりとは届いてこなかったが、彼は笑みを浮かべながら手を伸ばすと私のうなじ辺りの髪を緩やかに撫でた。

 それはとても大切そうに、壊れ物を扱うような優しさで心の中が一瞬ザワリと揺れた。


 思わず息を詰める。


 宝石のようなミントグリーンの瞳が柔らかく細められ、その視線に耐えられず顔を伏せた。


「この深紅の髪、綺麗だ」


 ――深紅の髪? 


 その一言にハッとして顔を上げると、先ほどまでキラキラ金髪王子の顔は、見慣れた成瀬の顔に変わっていた。


 今はもう、いつもの茶髪の成瀬が可愛く見える笑顔を浮かべながら、もう一度髪を優しくするりと撫でてから手を離した。


(な、なんで人の髪の毛を撫でるの――!)


 変に赤面している気がして目の前の男前を睨み付けた。


 

 休憩後からは遠慮無いほど書類を回してくる。容赦ない!

 ついさっきの休憩の時に感じたちょっと優しげな雰囲気など、あれはまぼろしだったな。


 各領地の収穫高に税収問題、公共工事や貧困や治療院に関することなどの最終決定の認可のサインと王印を押すのが主な仕事だが、それまでの経緯や全ての資料も提出されており、その全てに目を通してからサインと印をするのだ。

 それも雑多に様々な案件が混在していてカオス状態。


 そりゃあこれでは時間がいくらあっても足りないわとため息がこぼれる。


「頂点にある者が全ての細かい資料を読み込む必要はないと思いませんか? 資料は担当者か補佐官が精査し読み込み、要約と鑑を作成しそこに決済印をするのはいかがですか? それにこの量をお二人でこなすのは所詮無理があります。人材配置がおかしいです」


 王子に対して遠慮無く意見を言う姿を見て、補佐官のエバンスが目をむいてのけぞった。


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