これは、シュレッダーですの?
翌日からシャリル王子の執務室で仕事の手伝いが始まった。
現在、国王陛下と側近の執政官長が長期の視察を兼ねた地方執務に出ているため、王子二人には王子の仕事の他に国王の執務が回っているのでとんでもない量の書類が机の上に積まれている。
まあ、国王陛下と官長が不在だからこそ、令嬢を勝手に王宮に上げるなんて好き勝手が行われているのだろうが。
王子にはそれぞれ仕事を補佐する執政補佐官が付いているが、彼らはまだ慣れぬ仕事について行けていないようで、シャリル王子の執務室の自席に座る眼鏡の黒髪、エバンス・グリーティン伯爵令息は、疲れ切ったげっそりした顔をしている。
「アンジェリカ嬢、これは不要だから全部燃やしておいてくれる?」
「…………はい」
不要になった書類をシャリル王子の成瀬から手渡され、それを私が炎の魔法で燃やす。
朝からほとんど仕事と言う名の雑務をさせられる。
(私はシュレッダーか!)
しかも貴重な魔法をこんなことに使わせるなんて、あの男……。
憎々しげに睨むと、ニコリとカッコ可愛い笑顔で応える。
笑えば許されると思うなよ!
火で燃やす度にエバンスが「危ないな-」とでも言いたげに睨み付けてくるし。
「アンジェリカ嬢が疲れたようだから少し休憩にしよう。私たちは庭園でお茶をするのでその用意を頼んでくれ」
補佐官のエバンスにテキパキと指示を飛ばしているが、勝手に私をダシにするところとが姑息すぎる。
当のエバンスは私が執務室にいることが相当不服らしく、眼鏡の奥から迷惑そうな視線を何度も投げて来ていたが、「ご令嬢はすぐにお茶休憩が必要なのですね」と小声で文句を言っていた。
私じゃなくこのワガママ王子様に文句を言ってくれ!
「人をダシにするのはやめてよ。あと私必要なくない?」
二人並んで庭園へと向かいながら私は呆れてため息を零す。
「ダシ? そんなつもりないけど? あとアンジェリカ嬢は僕の監視が必要ですからねえ」
監視じゃないじゃん、と呆れながらも私は提案する。
「ねえエバンス卿もかなり疲れているようだし、私が手伝える書類があれば回してくれてもいいわよ。書類仕事なら割と得意だったからできなくはないと思う」
国の重要書類を見ていいのかの是非は置いておいて、疲労困憊の補佐官エバンスを見ていると、会社勤めの時の自分を見ているようでいたたまれない。
あの書類の仕事量を二人でこなすのは無理だろう。なぜ他にも文官がいないのかふしぎではあったが、王宮には王宮なりの事情があるのだろう。
総務課では細々した書類仕事に備品管理、社内広報その他諸々あらゆる雑多な仕事をこなす何でも屋だったので、それなりに仕事もできそうな気がするし少しでも助けになるなら、シュレッダー係をやるよりは有意義だ。
それこそこの成瀬の歓迎会まで差配するほど雑多な仕事も受け付けてきた。
(ああ、あの日が分かれ目になったんだった)
思い出して遠い目になっていたから、隣で金髪美形王子がめちゃくちゃ悪い笑顔を見せていたことに気がつかなかった。




