その言葉、傷つきましてよ
「じゃあ兄上の婚約者候補から外れてもらいましょう。それでいいですね、兄上」
「え、あ、いや……少し待ってくれ。何か話がこじれている。それに婚約者の件については議会での承認が……」
急に歯切れの悪くなったリゼル王子に、成瀬はグッと眉根を寄せた。
「あれほどアンジェリカ嬢を避けていたではないですか。アプローチが迷惑だとも言っていたでしょう? 迷うことはありませんよ。この機会に婚約者候補から外れてもらいましょう。ご本人も望んでおられるようですし」
うわー、本人を目の前にして避けてたとか迷惑だったとか、そんなこと言う?
アンジェリカじゃないけど、なんか傷ついたわ。成瀬、営業していたくせにデリカシーの欠片もないな。できる男と思って評価値高かったのに、がっかりだよ。
いや、しかし、などと迷うリゼル王子に構わず、成瀬ことシャリル王子は宣言した。
「ではこの時を以てアンジェリカ・グラデュラス公爵令嬢はリゼル・フォン・ジェストライザー王子の婚約者候補より外れる。そして彼女の身柄は、私、シャリル・フォン・ジェストライザーの秘書官として王宮にて住まわせることとする」
「「はあああ!?」」
リゼル王子と私の素っ頓狂な声がかぶった。
「以上を正式な書面にして議会承認を得るように」
「はい、畏まりました」
って、いつからいたのか私の背後の壁際に文官みたいな人が机に座って何かの書類を書き付けていた。
(最初からいたの!? 気配なさ過ぎ、王宮の役人は忍者レベル?)
「いや、待てシャリル、話が違い過ぎる。婚約者の件もだが、おまえの秘書官とは……どういうことだ?」
頭を片手で押さえて苦悶の表情を見せるリゼル王子も素敵! いやいや違う。そう、そこ、秘書官ってなによ? 私も聞きたい。
だが成瀬、いやシャリル王子は事もなげに紅茶を一口飲む。余裕が憎たらしい。
「いくら婚約者候補から外れたとしても今後も悪どい手で兄上や他の令嬢を困らせないように、僕が責任を持って彼女を監視するんですよ。けれど僕も執務があるので、監視のためには秘書官として働いてもらって側で見張ったほうがいいでしょう? それに彼女ならきっとどんな雑務……んん、仕事もこなしてくれると確信していますから」
おい、雑務って言ったな。雑務させるつもりだな?
これでも総務課では仕事のできる女だったのに、雑用係にするつもりだな?
「いや、公爵家の令嬢に王子が抱える仕事などできるはずがない」
「大丈夫ですよ、兄上。ね、ア・ン・ジェ・リ・カ・嬢」
わざとらしく音を区切り、あの可愛さを含んだ笑顔を向ける。
確信犯め……。




