後は任せましてよ
黒フード男から動かしづらい視線をずるりと引き剥がすと、こちらへ駆け寄るガゼルと成瀬第二王子が見える。
必死に叫びながらこちらへ向かう彼らの姿を認めた途端、私は「やっちまいました……」と呟きを残して、そして意識を手放した。
突然の魔力全開解放に体がついていけなかったようだ。
後始末はヒロインちゃん頼みますよと願いながら、リゼル王子を下敷きにしたままでガクッと意識を失う。
*
中身年齢二十九歳、柴崎菜央は目覚めてすぐに確認する。
ゴージャスな天蓋付きのベッド、ツルッとした肌触り抜群の高級感丸出しの寝具、なんだかヒラヒラと無駄なレースの施された柔らか素材のネグリジェ、そして中世ヨーロピアンな装飾の部屋。
うん、まだアンジェリカだわ。
御年十七歳、絶世の美女、公爵令嬢アンジェリカのままだったわ。
もしかしたら元に戻っているかな、なんて期待したけれど戻っていなかった。
ここは見るからにアンジェリカの部屋っぽかった。
高級感溢れる装飾過多の女性用調度品。カーテンもベッドもソファーも、アンジェリカの髪と同じ赤色が差し色として使われている。
舞踏会でぷっつりと記憶が途切れたが、あの後家に連れ帰ってくれたのだろう、誰かが。
ベッドに半身を起こしたところ、すぐに重そうな木製のドアが開かれて一人の女性が入ってきた。
あまりにものタイミングの良さに驚く。
あの分厚い扉の向こうでこちらの動きを察知したのだろうか。なんか、怖い。
お目覚めですか、と問いかけながらベッドサイドに置かれた水をコップに注いで手渡してくれた。
「ありがとうございます。喉が渇いていたから助かりました」
常温の水にはレモンのような柑橘が入っており寝起きの体に優しく染みこむ。
やけに喉が渇いて体が熱っぽかったのが一瞬でスッと引いていく。
だからニコッと営業スマイルで丁寧にお礼を言ったのに、彼女は大きく目を開いて驚いている。
「なにか……おかしかったですか?」
首を傾げて聞いた途端、彼女は「ひいっ!」とおののいて、背を向けるなり走り出して部屋から逃げ出してしまった。
「ちょっと!」と呼び止めようとしたが、すぐに彼女の行動に心当たりがあることに気がつき、はああ、と盛大なため息を零して額に手をあてる。




