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火が、出ましてよ?

 この襲撃事件はイベントとしては必須なのかもしれない。チラッとそんなことも過ったが、けれど考えるより先に勝手に体が動いていた。


 推し王子が危ない! と。


「避けて――――!」


 叫びながらリゼル王子へと駆け寄る。

 ハイヒールもなんのその、ドレスの裾もはしたなくまくれ上がらせて走る。


 音楽と話し声でざわめく会場では、この程度の大声は周囲の人を驚かせただけだった。


 黒フードの男たちが銃のようなものを構えたのが見えた。リゼル王子に向けて。


 イノシシの如く猛ダッシュで王子へと駆け寄る私が、王子に被さるようにスライディングを決めた瞬間、無意識に黒フードたちを強くにらみつけながら手のひらを向けた。

 途端。


 ゴウウウ! と唸りを響かせながら紅蓮の炎が私の手のひらから渦巻き、そこから流星のように怪しい男たちへと一直線に炎が走る。

 男たちの銃がダダダン! と轟音を響かせたが、ほとばしった炎に銃弾が弾き飛ばされた。


 そして一人の黒フード男に炎が巻き付き、男は「うぎゃあぁぁぁ!」と獣のような叫びを上げのたうち回る。

 その瞬間に他の二人は踵を返すなりバルコニーへと走り出し、そのまま外へ飛び降りた。


 シン、と一瞬静まったあと、会場はすぐに蜂の巣をつついたような騒ぎになった。


 叫びながら助けを求める者、「追え!」と駆け出す者、会場から逃げ出そうと出入り口に走る者、ここぞとばかりに男に抱きつく淑女、そして淑女をこれ幸いと抱き寄せる紳士。

 会場はパニック現場のまっただ中の大騒ぎになる。


 ちょっ……え? 


 私の手から……めっちゃ火が出たんですけど!?


 こ、怖いんですけど!


 呆然と焦点の合わない瞳で見つめる先には、酷い火傷を負って苦しむ黒フード男が一人。


 あれは……もしかしなくても、私がやっちまった感じですよね……?

 火の令嬢設定で炎が出せるのは知ってたけど、あんなに勢いよく出てなかったよ?

 せいぜいライター程度のしょぼい炎しか出せなくて、それがコンプレックスだったはず。


 なぜに?


 そしてなんだか体が酷くだるく重たい。息も苦しい。

 まるでスライムの中に埋まったように。埋まったことはないけれど。


「アンジェリカ!!」


 どこかで私を切実に呼ぶ声が聞こえる。


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