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エマージェンシーですわ

 極力顔には出さないように気をつけていたつもりだったが、隣のガゼルがフッと笑った。


「アンジェリカ様、なんだか今日は目が輝いていらっしゃいますね」


「え、そ、そうかしら?」


 ギクリとして空いた手で頬を押さえる。堪えようのない喜びに鼻の下がだらしなく伸びているのが自分でもわかるだけに、「んんんっ」と咳払いをした。

 その間も視線だけはテーブルの上に並べられたゴージャスなスイーツや王子がいそうな上座へと泳がせてリサーチは怠らない。


 残念ながら王子はまだお出ましにはなっていない。主役は最後だよね、と頷いてガゼルへと視線を動かすと、なぜかガゼルは優しい笑顔でこちらを見下ろしていた。


(ぬおおおおお! ぬおおおおお! 反則です、反則です! 注意してください!)


 私のエマージェンシーサイレンがウワーンウワーンと鳴り響く。


 推しキャラの優しい笑顔……危険水域を越えてきていますよ、これ。

 これってガゼルルートの最後で見られるスチルレベルの笑みじゃない? なぜ今この時点でこの笑顔!?


 ……まあ、細かいことは気にせず、今はこのガゼルの麗しい笑顔を目に焼き付けよう。


 そう考えて、さも見つめ合うのは不自然じゃありませんよ~と主張するように上品に薄く笑みを浮かべながらガゼルを見つめた。


 この時の私はすっかり舞い上がってしまっていて自分の立ち位置のことをすっかりと忘れてしまっていた。


 そうなのです、私ことアンジェリカはヒロイン(プレイヤー)の恋路を邪魔する悪役なのです。いちいち目障りな邪魔をしてきては余計な試練を与えてくる嫌な女なのです。

 その邪魔はヒロインと攻略対象との関係を深めるためのスパイスなんだけど、それが本当に嫌な邪魔なのよね。


 最終的にはヒロインを愛する攻略対象の男たちから疎まれ、隣国のおっさん国王に売られるように無理矢理結婚させられていく悪役、それがアンジェリカ。


 それを思い出したのは、リゼル王子たちがようやく会場に姿を見せた時だった。


「王国の若き太陽、リゼル・フォン・ジェストライザー皇太子殿下、シャリル・フォン・ジェストライザー第二王子殿下のご入場です!」


 これまた大仰なご紹介に預かりまして、いよいよお目当ての王子様の出番だ。

 ワクワクが止まらないのは仕方ない。


「うっ、ちょっ……心臓が痛い……」


 ワクワクと緊張と期待感が大きすぎて心臓が痛くなる。


 さすがに皇族、私たちが入ってきた扉ではなく、部屋の奥にある舞台のように数段上がった場所の扉がゆっくりと開かれ、そこから王子が二人並んで出てきた。


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