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魔法少女契約  作者: 烏山瑞稀
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始まりの朝に

それは突然のことであった。

今から数十年前、突然、世界各地に異形の怪物が現れた。

謎の怪物たちは俗に言う「魔法」のようなものを使い我々を苦しめた。

成す術無く、怪物たちによる蹂躙が行われる中、ある町工場の青年が対抗手段を生み出したのであった。

その名もマギアフォン。

一般的なスマートフォンと同様の形をしたそれは、怪物達の使う魔法を分析し、人類が利用できるように変換するための機械であった。

これにより人類は辛くも怪物たちを退けることに成功したのであった。

時は経ち2050年

魔法省は現在流通されているマギアフォンを認可制にし、免許なしでの魔法の使用を禁止した。

これにより魔法免許制度が出来たのだったが。

この魔法免許の取得者の99パーセントが女性という事態に陥った。

残る1パーセントの男性も満足に魔法を使えるわけではなく。

魔法を利用する事のできる人々は女性、という常識が出来上がっていくのであった。


「こんな、アニメとか漫画みたいな話、想像できないよね」

私は今日届いたマギアフォンを開封し、その中に付属していた『現代魔法の歴史』という薄っぺらい冊子を眺め呟く。

16歳の誕生日をついこの前迎え、憧れであった魔法機能付帯携帯電話――マギアフォンの認可試験を親にねだり、試験から三か月。

ついに手元に届いたそれを見ては、自然と頬が緩んでくる。

幼いころからテレビの向こうで戦ってた魔法使いに仲間入り出来るのだと、実感はまだしっかりとはないのだが、その手の重みが現実であった。

「これで私も魔法少女契約を結べるわけね……」

魔法少女契約。

魔法を使用できる25歳以下の女性が企業と契約し、企業のPR、要人の護衛等を行う、いわば企業お付きの魔法少女になれる契約だ。

魔法少女契約を結びたがる者たちは数知れず、かくいう私もその一人ではあるのだが。

「まずは面接かぁ……」

魔法少女契約は企業に所属することになるため、仕事と同義。

面接もあれば入社式なんてものもある。

学校に通いながら、仕事を行う。ハードな職業でありながらもその人気は高い。

企業も自社のブランドを傷つけないために慎重に人を選ぶため狭き門となっている。

「どこの面接受けるか考えなきゃな。」

ひとまず、マギアフォンを手に入れることの出来た喜びと安堵から、重くなる瞼。

抵抗は一切せず、そのまま目を閉じ、眠りにつく。

明日からの新しい生活に期待を込めて。

私は、魔法が大好きだ



「……やっばぁ」

カーテンの隙間から差し込む光を顔に浴び、慌てて体を起こす。

時計を見れば起床時間を約20分過ぎている。

完全に遅刻。

狭いアパートの中をばたばた駆け回り、支度を進めていく。

朝食も簡単に済ませて、最低限の容姿だけ整えて家を出る。

いつも自分を見送ってくれるアパートの大家さんへの挨拶もそこそこに、学校までの道を走る。

魔法は私的な目的での利用を禁止されているため、魔法で瞬間移動、空を飛ぶ、みたいなことが出来るわけでもない。

マギアフォンの認可をいくら受けていたとしても、私利私欲の為に使うことは厳禁。

それほどこの魔法というものの力はとてつもないものなのだ。

「あ……バス行っちゃった。」

目の前で走り去るバスを見て、項垂れる。

遅刻確定、今から次のバスを待ったとしても電車に間に合わない。

「もう、最悪」

次のバスを待つよりは駅に向かったほうがまだ間に合う可能性は高い。

私は再び足を動かし、駅までの道を駆けていく。

15分程走ってようやく駅へと着く。

この時間は通勤ラッシュに巻き込まれるためあまり利用したくない、というのが本音だが、言ってもいられない。駅の入口へと駆け込もうとしたとき。

突如悲鳴が響く。

声の方を見ると巨大な怪物が佇んでいた

普通の人間の三倍はありそうな巨躯に、頭部から生えた大きな角。

大木よりも太い腕や足はこの駅も人も全て破壊してしまいそうにも見える。

この町は比較的怪物が出てくることもなく安全であったが、見ただけで分かる、あの怪物は明らかにランクの高い危険な怪物だ。

人々が逃げ惑う中、私はポケットからマギアフォンを取り出す。

怖くない、と言えば嘘になる。

マギアフォンを手にして初めての相手がこんな大きな怪物だとは思っても見なかった。

試験で散々使い方は学んだ。大丈夫。

マギアフォンの電源を入れ、ホーム画面が表示される。

普通のスマホと変わらないその画面の中に一際目立つ鮮やかな色のアイコンをタップする。

『システムマギア、起動』

機械音声が流れ、私の体は強い光に包まれる。

『初めての起動を確認。』

光が晴れ、私の手には魔法により生成された武器が。

その体は魔力による障壁で大きな衝撃にも耐えられる耐性、人を超えた身体能力を手に入れた。

「これがマギアフォンの力……」

漲る力を自身に宿した私は目の前の怪物に目を向ける。

手に持った武器は刀のようなもの。私の適正に合わせたマギアフォンが送られてきているのだから当然と言えば当然なのだが。

「私が、やらなきゃ。」

足がすくむ。だが、今この状況であれを抑えられるのは自分しかいない。

私は自身を奮い立たせ、怪物へ向けて跳躍する。

刀を腰に構え、間合いに入った瞬間、その刀身を怪物に向けて振る――

ぐしゃあ。と何かがひしゃげる音が耳に響く。

音の発生源は自分の体だ。

刀を振るうその瞬間、怪物の拳が私を殴り飛ばしたのだ。

その強大な力により、一瞬で魔法の障壁も破壊され、生身同然の体で壁に叩きつけられる。

上手く呼吸ができない。マギアフォンはいつの間にかスマートフォンの姿に戻っている。

システムマギアが解かれているようだ。

「なん……で……?」

システムマギアが解かれる条件も確かに学んでいる。だからこそ漏れた言葉。

システムマギアは使用者が意図的に解除する、もしくは、使用者が生命活動を維持できない状態になったときに強制的に解除される。

「嘘……」

マギアフォンに手を伸ばそうとするものの、腕が上手く動いてくれない。いや、違う。腕が付いていない。

腕だけじゃない。今、私の、視界に、吹き飛んだ足、胴体、も、写っ――


怪物が雄たけびをあげ、先ほどまで果敢にも、無謀にもその怪物に立ち向かっていた人だった物を踏みつぶす。

朝ののどかな風景は鮮血に染まっていく。

あたしは、目の前で散っていった命を、助けることができなかった。

助ける手段を持っていなかった。

いや、持つつもりもなかった。

マギアフォンなんかがあるから、若い女性が次々怪物の餌食になって死んでいくのだ。

あたしの妹も、友達も。みんなそれで死んでいった。

現代に蔓延る怪物はこいつらなんかじゃない。

あたしたちをコンテンツとして消費する今のこの世界だ。

吐き気がする。

香り立つ血の匂いと、目の前に飛んできたマギアフォン、ほとんど壊れたそれは、潰された彼女が唯一生きた証になるのだろう。

それを拾い上げ、あたしは忌々しい電話機を眺めつつ心の底から思うのであった。

あたしは、魔法が大嫌いだ。

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