地縛霊
私は地縛霊だ。
それも普通の地縛霊ではない。体が半分以上地面に埋まっている地縛霊だ。
しかも生前の記憶がまったくない。
一体どうやって死んだのかすらもわからずに、私は長いことこの土手の上にいる。
今日もいつもとかわらない毎日が過ぎる。
早朝、いつものようにランニングをしている少し年をとった女性や、お昼休みの会社員。
夕方には毎日のように仲良く一緒に帰っている学生のカップル。
いつもと変わらない。そんな毎日が過ぎていた。
体の半分以上が地面に埋まっているため、視線は限りなく低いが、その分空は大きい。
私は空を見つめるのが好きだった。
なぜ私は死んでしまったのだろう。なぜ私は体の半分が埋まった状態の地縛霊なのだろう。
生前の記憶がないため、考えても無駄だった。そんな私を受け止めてくれるのが唯一
空だけだった。
変わらず空を眺めている毎日を過ごしていると、一人の少女が通りかかった。
少女は私の事が視えるようで、笑顔で駆け寄ってきた。
体が半分埋まっているにも関わらず、少女はニコニコと笑顔を作り、私を見つめていた。
私も精一杯の笑顔を作り、見つめ返した。
ふいに少女は地面から少し出ている私の体をむしり取り息を吹きかけた。
何をしているのかわからなかったが、私は少しだけ嬉しかった。
もう長いことこの場所にいるが、こういうことは初めてだったし、なにより生前の記憶が
無いため、初めて人と接した気がするからだ。
体が浮く。ああ、ついに成仏できるのか。私は安堵した。
しかしそれもつかの間、ある程度の高さまで浮かぶと急に落下し始めた。
天国とやらにはいけないのか。私はこのまま地の底まで落ちてしまうのかと嘆いた。
私は近くの川に落ち、ゆっくりと水に溶けていった。




