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05.聖女の家族とお役目

「お断りしますわ」


 聖女就任、ノーブル家の殿下との婚約。

 一通りの話を聞いたグレイシアの妹、フェリシア・ルベリオはきっぱりと断った。


「ダメだよフェリシア。我が儘言うんじゃありません」

「我が儘なのはあちらの殿下でしょう。結婚したくないってだけの理由でどれだけの人に迷惑をかけるおつもりですの?」


 父は返す言葉が思いつかなかった。

 本来は殿下が我慢して結婚してくれれば全て丸く収まったのを、気づけば国を騙すレベルの不正にまで発展している。

 こちらに正論で言い負かす手段はもうない……ならば情に訴えるしかないだろう。


「フェリシア……どうしてもダメか? 君には婚約相手もいない。殿下なら結婚相手としてこれ以上ないだろう」

「父さま? この際(わたくし)の婚約なんかどうでもいいんですの。むしろ姉さまがそんな失礼極まりない輩と結婚するくらいなら私が代わりますわ」

「? では何が嫌なんだい?」


 婚約に乗り気というわけではなさそうだが、断る理由はそれ以外にあるらしい。

 分からず聞いて見ると、フェリシアは間髪入れず反応する。


「そんなの決まっていますわ。姉さまの聖女解任です。姉さまほど優れた方が地位を失うなんてありえない。姉さまは誰よりも聡明で美しく慈愛に満ち溢れたお方です。国のため民のために自らの身を犠牲にして戦ってくれるほどに。そんな姉さま以上に聖女に相応しい人間なんているはずないのに……」

「ちょ、ちょっと落ち着きなさいフェリシ……」

「これが落ち着いていられますか! さっさと断ってこないと身投げして計画を台無しにしますわよ!」

「ひっ……」


 娘の凄まじい剣幕に圧倒されてしまう。

 そう、フェリシアは姉を溺愛してる。姉以上に優れた存在はいない、その姉が地位を奪われ不憫な思いをするのは耐えられない。

 そして行き過ぎた愛の結果、姉のために生き姉のために死ぬが彼女の生きる理由になってしまっていた。

 しかし父は思いつく、そんなフェリシアだからこそ打てる手段があると。


「そうだーーーーいいかい、落ち着いて聞いてくれ」

「嫌です。父さまの顔なんてもう見たくもありませんの」

「確かにフェリシアの言う通りグレイシアは聡明で美しい……筋肉状態でなければ」

「分かってるじゃないですか父さま。私は筋肉状態の凛々しい姉さまも好きですが、そこは人の好みもありますので良しとしますわ」


 やはりグレイシアを称賛する話ならば乗ってくる。

 自分の好きなものを語りたいお年頃なのだろう。

 その気持ちを利用するようで申し訳ないが、こちらも遠慮している余裕はない。


「ああ、だから彼女こそ聖女に相応しいというのも分かるが……グレイシアの素晴らしさを表すには聖女という地位では足りないのではないか?」

「……ほう、続けてくださいまし?」


 父の言葉にフェリシアは目の色を変えて詳細を聞いてくる。

 その変化を見逃さなかった父の心中はさながら大物の一本釣り。

 折角ヒットした獲物を逃さぬよう、慎重に言葉を選びつつ続きを話す。


「さっきも言った通りグレイシアは聡明で美しい。だがそれだけでなく彼女は強いんだ」

「その通りですわ! 姉さまは全てを併せ持った完璧才女ですの!」

「つまりグレイシアに本当にふさわしい地位は聖女ではない、そうーーーー剣聖だ」

「剣聖……国内最強の称号……」


 まるで甘美な響きに酔いしれるように嬉しそうな顔をする我が娘。

 これは行ける。あと一押しだ。


「そうだ。誇り高く戦うその雄々しき姿で軍を、民衆を導く。それが剣聖だ」

「人を導く存在……確かに姉さまに相応しい地位ですわ。つまり姉さまは聖女から剣聖に昇進する、ということですのね?」

「その通り。だがなフェリシア……そうすると聖女の席が空いてしまうんだ。姉のためにも、代わりを務めてくれるね?」

「姉さまのため……もちろんですの! 私なんでもしますわ!」

「頼んだぞフェリシア!」


 父は思わずガッツポーズ。

 これでグレイシア以外の全員が合意の元、計画を実行できる。

 ただ一つ問題が残っているとすれば……父は目の前の娘に聞こえないよう、小声でつぶやく。


「……勢いで言っちゃったけど、本当に剣聖にしてもらえるかな……」


 国には既に剣聖が存在する。その剣聖を娘と差し替えるなんて、そんなこと国が許してくれるだろうか。

 しかしその心配は杞憂に終わる。

 王族であるノーブル家の力添えとグレイシアの今まで培った実績により、めでたくルベリオ家は剣聖の地位を得ることができた。

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