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モノクロ世界  作者: 葉都菜・創作クラブ
プロローグ 白銀の氷晶が地に舞い降りる極寒の街
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第3話 新たなる依頼

 獲物をギルドに引き渡して報酬を受け取った私は、次の依頼を探していた。


「アザレア、また獲得賞金が上がったな」


 ギルド内にあるバーで、ささやかな祝いがてら、赤色のカクテルを飲んでいると、店主――コンドライトが声をかけてくる。コンドライトは赤茶色の髪の毛をした30歳前後の女性だ。彼女とは顔なじみで、こうやって話をすることがある。


「今回の依頼はどうだった?」

「たいしたことなかったな」

「ははっ、まぁ“アサシン・アザレア”の手にかかれば、ルミエール政府代表でさえも捕まえられるもんな」

「バカ、そんなことできるか。ルミエール政府軍の将校やエージェントは化け物揃いだ」


 人と喋ることは苦手だが、彼女は別だ。こうやって気軽に会話できるのは、彼女しか、今はもういない。


「でもさ、今年は去年の獲得賞金を超えられるの? 賞金単価は年々減っていってるじゃない?」

「ヴァルハラ絡みが減っているからな。2年前の獲得賞金と去年の獲得賞金じゃ、2年前の方が多かった。今年の獲得賞金は、去年を下回るペースだ」

「他州に進出はしないの? 世界は広いんだよ? アポカリプス州やシリオード州なら、まだ依頼だって豊富にある」


 コンドライトのいうことはもっともだった。政府系の依頼は、レーフェンス州以外にも数多くある。活動範囲を広げた方がいいということだろう。


「私はまだレーフェンスでいい」

「そう。ま、気が変わったらまた声かけて。他州の仕事も探してあげるからさ」

「わかった」

「じゃ、これね。1000万以上、レーフェンス州内の高額依頼。一般公開から非公開まで」


 コンドライトが小型端末を渡してくる。ギルドに寄せられている依頼一覧だ。私はカクテル飲みながら、スワイプさせながら内容を流し読みしていく。


「……コンドライト、これはなんだ?」

「んー?」


 私はひときわ目を引く依頼を彼女に差し出す。


「この、成功報酬7000万の依頼だ」

「あー、それね。高難易度の依頼だよ。サキュバスの海賊団――“ムーンライト海賊団”にいる人間を連れてきてほしいってやつね。請負可能対象は、去年の獲得賞金が5000万以上のみ。それ以下の獲得者は請負不可指定」

「人を連れてくるだけで7000万? そんなことあり得るのか? そもそも海賊による誘拐なら、ルミエール政府保安軍の仕事だ」

「いや、誘拐ではない……みたいなのよ。まぁ、興味があるなら、クライアントから直接話を聞いてみたら?」

「……わかった。それを請負う」


 私は依頼を受諾すると、残っていたカクテルを一気に飲み干す。7000万の超大型案件ならば、去年の獲得賞金を今年は超えられるかもしれない。そんな期待が胸に、ギルド内のバーを出て、中央玄関から施設を出る。

 クライアントは幸い、このレーフェンスシティ内にいるようだ。他の受諾者がいないとも限らない。――兵は神速を貴ぶ。すぐに行動するのが吉だ。





 ギルドを出て、小一時間ほど経ったか。レーフェンスシティの裏町のようなところを進み、狭くごみが散乱する路地を潜り抜け、一軒のバーの前に立つ。電球の切れかかったネオンの明かりが不気味だ。私は意を決して、怪しげなバーへと足を踏み入れる。


「おや、ようこそ。見かけない方ですね……」


 カウンター席だけで構成された店舗の奥では、一人の少女が座って本を読んでいた。客は誰もいない。私はうっすらと埃をかぶった丸椅子に腰かける。


「お前がヒヤシンスか?」

「ええ、そうですよ……。この『紫冷殿しれいでん』の店主です」

「そうか。依頼を受諾したい」


 私は単刀直入に話を切り出す。赤茶色の髪の毛をした少女は分厚い本に目を落としたままだ。


「依頼はギルドに送った内容の通りです。今、私の友達がムーンライト海賊団に攫われています。どうか、彼を助けてください」

「ああ、いいだろう。だが、解せぬことがある。――誘拐なら、ルミエールの保安官に通報したらどうだ?」

「…………。依頼を断るのですか?」

「詳しい話が聞けないなら、そうさせてもらおうかな」


 私は意図的に揺さぶるような発言をする。彼女は同意しないだろう。なぜなら、――この任務はすでに7名の賞金稼ぎが失敗している記録があった。7名の高位賞金稼ぎが失敗していながら、公的機関には誘拐と話せない。かなりややこしい話があるのだろう。


「ターゲットは、『CFT-000417』。彼の存在は、――」


 少女は少しばかり言葉を止める。だが、分厚い本からようやく目を離し、意を決したように私に目を合わせて言った。


「旧帝国でレーフェンス州長官――ネモフィラの恋人なのです」





 私は日が落ち、人通りの少なくなった州都レーフェンスシティを歩く。


 依頼の救出対象はヴァルハラ帝国時代、この州都の長官だった女――ネモフィラの恋人だった。これで誘拐事件としてルミエール政府に届け出られない理由がようやく分かった。

 あの少女――ヒヤシンスは子細には語らなかったが、おそらく、ルミエール政府の捕縛対象になる可能性があると見ているのだろう。


 だが、そのネモフィラはすでに亡い。帝国の復興をかけた『ルミエール=ヴァルハラ戦争』で戦死したはずだ。それに、彼自身が帝国の公職に就いていた記憶はない。そもそも、ネモフィラに恋人がいたなんてことが驚きだ。そんな話は聞いたこともない。

 ネモフィラは死んだ。ルミエール政府に彼を捕縛する理由はない。では、なぜ届け出ない? なぜ大金を積んでギルドに依頼する?

 そもそも、ヒヤシンスが私に偽りを言った可能性がある。でも、なぜだ? 私に偽りを述べて、何の得がある……?


「……まぁ、考えるだけ無駄か」


 私は呟くようにして胸に抱いた違和感を、一抹の不安をかき消し、レーフェンスシティ城外へと足を向けた。

























 それが、私の、――私たちの運命を永久とわに変えてしまうことになるとは、思いもしなかった。

 <<とあるルミエール政府軍人の手記2>>


 思い上がった愚かなるヴァルハラの残党どもは、幻想の夢を叶えようとしたことに、張り裂けんばかりの後悔と絶望を味わっただろう。


 ヴァルハラの黒き軍艦の艦隊は、我らの白き艦隊によって、無残に砕かれ、レーフェンスの大地へと炎に包まれて消えていった。


 陸路から進んだ者たちも、ことごとく我らの兵団の前に滅び去った。



 今、私の眼下に広がるのは、残党どもが新たな首都としたレーフェンスシティ。


 無数の白き軍艦に包囲された残党どもの街。



 さぁ、選ぶがいい。


 正義の業火に焼かれて骸となるか、輝ける光の前にひれ伏すか――!

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