第2話 州都レーフェンスシティ
【州都レーフェンスシティ 外周部】
白く染まった平原に、ゆっくりと航空ヨットを着陸させる。私はコックピットから出ると、獲物の鎖をパイプ官から外し、彼女の胸ぐらをつかんで立ち上がらせる。そして、扉を開けると、冷たい空気に満ちた外に連れ出す。
外に出ると、巨大な城壁が視界に入る。城壁の上から掛けられている巨大な布。黄色に白色の幾何学模様が描かれている。世界統治機構「ルミエール政府」の国章だ。
「ひぇっ、ほ、ほんとに引き渡すの?」
「……ルミエールの法廷で喋る内容を考えておくんだな」
私は獲物の手枷から繋がる鎖をつかんで薄く降り積もった雪原を歩き始める。向かう先には、開かれた城門がある。城門の前では、道路に沿って無数のスピーダー・カーが並んでいる。あの城門の内側にあるのが、州都レーフェンスシティだ。
[この先はレーフェンスシティです。通行される方は、『個人コード』をご準備ください。個人コードをお持ちでない方は再発行手続きが必要となります]
私はスピーダー・カーを横目に、歩行者用の検問所に向かっていく。検問所の前には、白地に黄色のラインが入ったアーマーを纏う兵士たちが待ち受けている。ルミエール政府の兵士だ。
「個人コードを」
検問所につくと、男性兵士に呼び止められる。私はメモリカードを差し出す。彼はメモリカードを受け取ると、小屋のような建物の中にいる別の兵士に渡す。その兵士は手に持っていた小型端末に、メモリカードを挿入する。
「……ギルド経由『公共・公益任務』遂行途上と確認。大丈夫だ。よし、通れ」
小屋の中にいる女性兵士はメモリカードを抜き取り、男性兵士に渡す。受け取った彼は、私にメモリカードを返す。私は鎖を引っ張って検問所を通り抜けようとする。だが、――
「個人コードを」
男性兵士が再び呼び止める。私は後ろを振り返る。どうやら、彼は私が連れてきた獲物の個人コードを求めているらしい。
「ああ、こいつは持っていない」
「でしたら、C4ブロックで再発行手続きをお願いします」
「いや、個人コード自体がないんだ」
「その場合は、個人コードを作りますので、その手続きをお願いします」
「おいおい、作るも何も、この女は政府指定戦犯だ。これからギルドに引き渡すのだから、なくてもよかったはずだ」
「え? いや、ここは個人コードがないと通れません。まぁ、護衛をつけますので、C4ブロックへお願いします」
「そんな手間かけられるか。大体、個人コードの作成手続きに一週間はかかるだろ」
「しかし、そういう決まりですので……」
男性兵士とそんな会話を繰り返していると、小屋にいた女性兵士が出てくる。
「『公共・公益任務』での通行だったな。彼女の個人コードは、ギルドからの引き渡し後にこちらで作る。速やかに引き渡しをお願いする」
「ああ、助かる。そこの兵士は新人か?」
「……案内に誤りがあった。申し訳ない。公益任務の参加に感謝する」
そう言って女性兵士は敬礼をする。私は鎖を引っ張って、先に進む。おそらく、あの男性兵士は新しく雇った人間兵士なのだ。彼はあとであの女性兵士から指導を受けるのだろう。
レーフェンスシティの内周部に入ると、再び雪の降り積もった平原が視界に入る。
「どっひゃぁっ、まだ歩くのか?」
「はやく法廷に行きたいと?」
「そ、そういう意味じゃない!」
「まぁ落ち着け。あと数十分後にはレーフェンスシティ市街地だ。雪で見にくいが、建物群がもう見えている」
「あ、本当だ」
城壁の内側にすぐ町が広がっているわけではなく、レーフェンスシティという地域そのものが、あの城壁に囲まれている。
見ることはできないが、城壁の内部の空はシールドが張られ、一般の航空機での侵入はできない。一般航空機はレーフェンスシティ外周平原に停め、こうやって歩いてくるしかない。
「ふう、やっと市街地だ。普通の街だったら航空機で一気に市街地に行くことができるのに」
「……これもお前たちのおかげだな」
ここまで厳重なセキュリティ体制になっているのは、このレーフェンスシティだけだろう。まだ数年前の『ルミエール=ヴァルハラ戦争』のことを警戒しているのだろう。
「ヴ、ヴァルハラ帝国はもう存在しないじゃないかっ! 帝国崩壊から何年たってると思ってるのさ!」
「帝国復興のための『ルミエール=ヴァルハラ戦争』を起こしたのは誰だったかな。またいつの日か、帝国復興のための戦争が起きるんじゃないかな」
「んなわけあるか!」
私も彼女と同じ意見だ。もう今更、ヴァルハラ帝国復興など起こそうとする輩はいないだろう。帝国の当時の指導者たちは全員死亡し、その帝国の復興を目論んだ高級将校たちも大半が死亡している。
だが、市民は戦争の再来があると信じ、そしてそれを恐れている。そうならないためにも、少なくとも帝国の将官は全員捕縛されることを望んでいる。
この小物獲物に1800万という懸賞金がかけらているのも、“かつて帝国復興勢力が首都に選んだレーフェンスシティ”の警備が厳重なのも、そういった理由からだった。
「さて、ギルドが近づいてきたぞ。おしゃべりなお前ともお別れだ」
<<とあるルミエール政府軍人の手記1>>
ヴァルハラ帝国を復興させようとする者たちが、大規模な反乱を起こした。
彼女たちは、レーフェンス州の州都レーフェンスシティを拠点に、レーフェンス北東部への進出を計画しているらしい。
ルミエール政府代表とルミエール議会は、私に彼女たちの討伐を命じられた。
よかろう。
『カタストロフィ』のときに、ヴァルハラ帝国の女軍人よって、刀で腹を刺された傷は癒えてないが、残党狩りの任務程度、軽くこなしてやる!
レーフェンスに流れる彼女たちの血が、私の栄光を飾り、この身を昇華させるだろう――。




