どうも、喧嘩に巻き込まれた挙句、ギルド長に呼び出しをされました
「で? あれはいったいどういう事なんですか? アルクさん」
ギルドに戻り席に座ったと同時に真面目な顔のメリッシュに、アルクはそう問われた。
「あれは……『呪い』だ」
「『呪い』、ていうのはその……何なんですか?」
真面目な顔でメリッシュがさらに問う。
「……あまり言いたくないんだけど」
「まあ説明したくないというならいいんですけどぉ? 気にはなりますねぇ?」
「私も気になるから説明してほしいかな、ほら、申し訳ないって気持ちがあるんだったら教えて欲しい」
「……メリッシュ、クズ……」
「コープルがひどい!」
アルクは人目を気にしながら言う。
「そうだな、言いたくないですましちゃダメなことだもんな。説明するよ」
「え? 全然冗談だったんだけど、教えてくれるなら聞くね」
「……やっぱクズ……」
「あれは、十年前のことだったかな………………」
「十年前とか言い出すんだったら長くなりそうだからいいや、私報酬受け取って来るね」
そう言ってメリッシュはギルドの受付へと走りっていく。
「え? 俺の覚悟どこ行くの?」
「……あれはあれで気を使ってる……」
「恐らくですけどぉ、喋らせてしまったら傷口をえぐると感じたからぁ、話を打ち切ったんだと思いますぅ」
「そうなのか?」
「恐らくと言ったでしょぉ、メリッシュの考えが分かる人なんて一人しかいませんものぉ、私達では無理ですわぁ」
そう言ってマシットは席を立ちメリッシュの方へと歩いていく。
「まあ覚悟っていうのはぁ、過去の清算っていうのはぁ、自分にもっとしっかり見つめ合ってからにしなさあぃ」
と、言い残して。
「……人は大なり小なり、言えないことはある、急がなくてもいいんじゃない……?」
でも、と何かを言おうとしたコープルだったが、何も言わずにマシットを追いかけ走っていく。
「(俺は、俺は一体どうしたらいいんだろうか。過去に決着をつける為に)」
しばらくしたころにギルドの扉が開いた、キリオン達だ。その後ろには大量の荷物を抱えた商人達が続いてぞろぞろと入って来る。
「うおおおおおおおおお!!!!!!!! キリオン達が帰って来たぞおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」
キリオンの姿を見たギルド内にいる冒険者が、職員が、立ち上がり、キリオン達の周りに集まる。
実はアルク達がギルドに帰って来た時にすでにキリオン達が龍種の頂点の一撃を防ぎ、街を守ったという話が周りに回っていた。
「ふーははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!! キリオン様のお帰りだあ! 酒を用意しやがれえ今日は俺様が奢ってやるぜええええエ!」
キリオンは周りに集まる人を掻き分け、席に座りそう叫ぶ。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」
周りもその言葉に大声で騒ぐ。
アルクはその騒ぎに巻き込まれるのはごめんだと席を立とうとした時キリオンが言った。
「お、クズじゃねえか! まだこの街に居やがったのかよ寄生虫野郎!」
アルクは無視をして受付にポーションを受け取りに行く。
その態度が気に入らなかったのかキリオンは……。
「無視してんじゃねーよ!」
昨日の夜と同じようにガラスのジョッキを投げつけた。アルクはとにかくこの場から離れることだけを考えていたため反応が遅れ、それを躱すことが出来なかった、ぶつかるその直前に………………唐突にメリッシュが割り込まなければ。
「ッグ!」
メリッシュが割り込んでアルクの頭にジョッキが直撃するという事は避けられたが、その代わりにメリッシュの頭に直撃してしまった。
「だ、大丈夫か!?」
アルクがメリッシュへと駆け寄る。
「大丈夫、私石頭だから」
メリッシュの頭をよく見てみると、出血どころか赤くなってもいない。
「そんな事より、何であなたアルクさんにジョッキ投げつけたんですか! 当たりどころが悪かったら死んでたんですよ!」
「いやそれは言い過ぎだとは思うんですけど」
「アルクさんは黙って!」
「えぇ?」
メリッシュの後をついてコープルとマシットがアルクのもとにやって来た。
「一体これは何の騒ぎですぉ?」
「……またメリッシュが何かやらかした……?」
「いや、キリオンの投げたジョッキからかばってくれて」
「あぁ、なるほどぉ」
「……そういうことか……」
メリッシュはキリオンに詰め寄ってさらに問いただす。
「あなたアルクさんの元パーティーなんでしょ!? 仲間じゃなくなったからって何で攻撃するの!」
「うるせえ! てめえには関係ないだろうが!」
「関係ある!」
メリッシュは大声でそう宣言した。そしてこう続けた。
「だって、アルクさんは私達のパーティーメンバーだもん!」
「………………フォエ!?!?!?!?!?!?!?」
余りの唐突さにアルクから変な声が出た。
「やっぱりぃ、こうなりますわよねぇ」
「……だと思った……」
キリオンもあまりの唐突さにしばらく呆けていたが。
「あーはっはっはっはっはっはっは! こりゃ傑作だ!」
すぐさま大声で、滑稽なものを見る目で、笑い出した、それに続くように。
「ふふふ、あんなゴミを拾うなんてあなたよっぽどの綺麗好きなのね」
「あんな気持ち悪いのを押し付ける形になってごめんねお嬢ちゃん!」
「パーティーをやめさせられた次の日に鞍替えをするだなんて、いつ裏切っていてもおかしくないような行動です。キリオンはあのクズの軽薄さを見抜いていたということですね素晴らしい」
あふれんばかりの悪口をクシル達がぶつける。それに対してメリッシュが言い返そうとしたところでマシットが動いた。厳密には腰のハンマーをキリオンの顔面に向かって投げつけた。
「「「危ない! キリオン避けて!」」」
「ッツ!?」
キリオンはギリギリのところで避けることが出来たが、そのハンマーは後ろの壁に突き刺さった。それを見たキリオン達は顔を青くした。
「てめえ! 何しやがる」
「あらあらあらあらぁ? あなたもやろうとしたことではなくってぇ?」
悪い顔でそう言うマシット。
「悪意が違い過ぎるだろうが!」
「……悪意に大きいも小さいもない……」
コープルはいつもと変わらない調子でそう言う。
「……でも悪意を向けたんだったら、向けられたときに怒るのは筋違い……」
それを聞いたキリオンが剣を手に取り構えた。
「だったら、だったら俺達がてめえらに向けても文句ねえよなぁ!」
キリオンはマシットに向かって走り出した。
それに続いてクシル、カリーナ、ケアンも武器を手に取り走り出した。
「何でコープルは喧嘩を売っちゃうのかな!」
メリッシュはキリオンの放つ剣を腰の剣で受け止める。
「ッチ! なかなかやるじゃねえかよ!」
メリッシュとキリオンの競り合いに割って入るのはケアンの魔法だった。
「炎の弾!」
メリッシュの頭を目掛けて飛んでいく火の玉だが、飛んできたハンマーに打ち消された。
「一体どういうことですか!?」
「あらぁ? 何かやってしまいましたかぁ?」
そう言いながらマシットはケアンに近づいて大きいハンマーを振りかざす。
「潰れなさぁい!」
「ッツ!?」
マシットが振るったハンマーはケアンに直撃したが頭が潰れてしまうことはなかった。
「あっぶない! 威力泥棒!」
カリーナが威力を盗んでいたからだ。
「この威力は自分でくらいなさい!」
その威力をマシットに向けて球体として撃ち放つ、が。
「……威力消滅……」
コープルが打ち消した。
「ッツ!? 高位魔法ですって!?」
ギルドの中で七人が大暴れしたせいで滅茶苦茶になってしまった。流れ弾が机を吹き飛ばし、衝撃が階段をぶち壊した。それに巻き込まれた冒険者は地獄を見たような顔になっている、まさに阿鼻叫喚。
「貴様等ああああアアアアアアアアアアア!!!!!!!! 何してやがんだああああああああ!!!!!!!!」
そこにギルド長がギルド長室から出てきた……魔法を撃ちながら。
「何で余計に荒れる様な事するんですか」
眼鏡の受付のお姉さんが死人が出ると思いギルド長を呼んでいたのだ、呼んだが余計に荒れる様な事をしていた。
「だが見てみろ、最適な攻撃だろ?」
ギルド長は別に場を荒そうとして魔法を放ったわけではない、それこそ最小限の被害に抑えるためにしていたことだった。全ての魔法を暴れていた七人に向けて当て、全員を気絶させていた。
「これは失礼しました」
「ところで……」
ギルド長はギルド内を見渡し鋭い目つきで言う、ブチ切れながら。
「この騒動の発端は誰だ?」
アルクの周りにいた冒険者がスススス、と離れていく。
「よーし貴様かアルク、チョット来い」
「何でぇ!?」
アルクはギルド長に連れられてギルド長室へと収容された……招待された。
ギルド長は仕事机へと座り腕を組む、その前にアルクは立たされ問い詰められる。
「さてアルク、事のあらましを聞こうじゃないか」
「えっとですね、僕がですねキリオンに絡まれたんですよ」
「そうか、で? お前はどうしたんだ?」
「無視して受付に行こうとしたんですけどジョッキを投げつけられまして」
「ほう」
「それをメリッシュがかばってくれたんですけど、メリッシュに直撃したんですよ」
「ほほーん、それで?」
「で、そっからメリッシュとキリオンが僕について喧嘩になって、そっから魔法の打ち合いになりました」
「あーメリッシュが関わってるという事は大体のことは理解した、マシットが何かしたな」
透かしたようにギルド長は言い当てる。
「擁護をするとキリオンにはすでに酒が入っていたので、マシットが何もしなくてもああなっていたと思います」
ギルド長は顎に手を当てて考える。
「理解はしたが関わっている人間が人間なんだ」
「というと?」
「それは言えない、が、だいぶ面倒くさいことになっている」
ギルド長はアルクに指を指してこう言った。
「少し協力しろ、そしたらタダで高級馬車で故郷まで届けてやる」
「え?」
「そうだな、と言っても口裏を合わせるだけでいいんだがな」
「だったら全然協力しますギルド長」
アルクは二つ返事でそう言った。
「よしオッケーだ、そうとなったら急ぐぞ。受付嬢が急いで片付けの支持をしていると思うからシナリオを考えるぞ」
「しかしその、面倒くさいという事は何なんですか?」
「奴が帰って来るんだ」
「奴というのは一体?」
「十のSランクパーティーの第五位、聖徒界のリーダーが帰って来る」
「やばいじゃないですか」
「ああやばい、綺麗好きのあいつが見たらとんでもないことになる」
「よりにもよって聖徒界ですか、あの惨状を見たら暴れるでしょうね」
「本当にまずいぞ、この建物を設計したのは聖徒界のリーダーだからな。一番キレたら何するかわからん奴だ」
アルクとギルド長がそう言って現状の危険度を確認し合った瞬間だった、ギルドの建物が大きく揺れた。
「ギルド長、一ついいですか」
「ああ、俺も一つ言いたいことがある」
「「嫌な予感がする!!!!!!!!」」
アルクとギルド長は一階に向けて走り出した。