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6 スベリと猫背

「ご注文はお決まりですか、お嬢様」


 未だに口がひん曲がりそうになる。こんなところをクラスメイトに見られれば、嘲笑され、動画を撮られ、拡散。ただでさえモテない俺の学校生活は破滅へ向かう。


「へ、へいっ!」


 なぜ江戸っ子。


 突然声をかけたのが悪かったのか、少女の肩は飛ぶ。本気で取り外し可能なそういう兵器なのかと思った。


「あ、えっと、その……わ、私初めてで、よ、よく分かんないんですけど……」


 弥生さんの予測は見事的中していた。少女は目を泳がせながら、恐る恐ると尋ねる。


「し、失礼ですが……トールさんは女の子、何ですよね……?」


 名札を確認し、問われる。


 罪悪感を感じないわけではないが、ここはイエスと答えるしかないのだ。


「そ、そうですけど」


 生憎嘘は得意ではない。声は上ずっていなかっただろうか。バクバクと鳴る心臓を感じる。あと、チラチラと不安そうな目を向ける真澄も。


「で、では……お願いがあります……!」


 そんなことは露知らず、覚悟を決めたらしい少女は急に前のめりに、俺をじっと見つめた。


「な、何なりと、おじょうさ」


 言いかけてハッとする。こ、ここで素直に了承するのはツンデレとしてどうなのか……?


 視線は真澄だけではない。サッと後ろを向くと、ホラー映画のワンシーンのように、戸に首を挟んだ弥生さんが真顔でこちらを見ていた。ビビりの少女が見たら、肩どころか上半身が飛び立ってしまうだろう。


「え、えっと……あ、あんたのいうことなんか、き、聞きたくないんだけどねっ!」


「……へ?」


 滑った。完全に、滑った。


 断片的なツンデレへの情報(偏見)を元に見せた俺の魂の演技は間違えらしい。


 お客さんどころか、あのます、完璧執事レイがお盆を落とす始末。お嬢様もといちびっこ少女も唖然としている。


 ただ一人。弥生さんだけが笑いをこらえていた。


「……で、お願いって何でしょうか」


 何事もなかったように、少女の言葉を反芻する。そのことを察したのか、少女は慌てて空気をただした。


「は、はい……! え、えっと……私、茉莉と言います……!」


 そういえば来店時に名前を聞くんだっけ。この子が初来店でよかった。常連だったら文句をつけられていたかもしれない。


「茉莉、お嬢様」


「……その、お嬢様ってやめて貰えません、かね? 茉莉で、いいので……」


 遠慮がちに尋ねる茉莉お嬢様。それはこっちのセリフだ。出来るのならば俺もやめたい。けど、背後から痛い視線が飛んでいるのだ。


「も、申し訳ありません。執事である私めがお嬢様を呼び捨てにするなどとんでもないことです」


 体の良い言い訳は案外すらりと思いついた。


「で、でも……」


「……茉莉お嬢様は、何かお願いがあるのですね?」


 猫背で、もじもじと俯く茉莉さん。更にチビに見える。


 言いたいことを堂々と言えない。その姿はどっかの誰かさんと重なり、俺のお節介が働いてしまった。


 弥生さんの痛い視線など忘れ、俺は彼女が怖がらないようその場にしゃがんだ。


「俺は、茉莉さんの味方です。どうぞ、何なりと」


 




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