魔王様なんて大っ嫌いです!
【魔王様なんて大っ嫌いです!】
街から離れた洞窟のさらに奥、地下深くの魔素が濃い場所に魔王城はある。魔王城は壁という壁にパイプが巡り、いつも金属を削る音と溶接の熱気に包まれ、城というよりも工場のようだ。魔王の手下たちは今日も精錬から溶接をこなし沢山の武器や道具のパーツを作る。
なぜこんなことをしているのかというと、魔王城から離れた場所にある町と貿易を行うためである。魔族だってお腹が空くが、魔族は農作や料理は上手くすることができないので人間の作った物を食べたい。そこで人間に化け、食料を買う代わりに部品や鉱物を提供する。このように円滑な貿易を行うことで今日も平和な魔王城運営を行なっているのだ。
そんな一生懸命働いてる手下に内緒で魔王様はこれから眷属の召喚を行うそうですよ?
-魔王城【広間】-
「エナよ」
「なんでしょうか魔王様」
魔王様は秘書のエナに話しかけていた。
「我はこれから眷属詠唱を始める」
「はぁ、魔王様に眷属いりますか?」
エナは怪訝そうな顔で続ける。
「それより書類の処理をした方がよろしいかと。隣国の関税がまた上がるらしいので確認書類が多々きてますが…?とりあえず承認していただけないと貿易を続けられないので」
「う、うん。あとでやりますから。とりあえず眷属召喚の準備したからやってみたいのだ」
3日前から一生懸命書いてた魔法陣がついに完成した。魔王様は今日一日ウキウキなのだ。朝食を済ませすぐに準備に取り掛かっていた。
「わかりましたよ。ではとりあえずそれ終わってから仕事してくださいね。部下のものはみんな仕事しているんですからね?」
「はい、重々承知しております」
魔王は楽しみだった眷属詠唱に横槍を入れられて少しだけ気分が落ちる。しかし、ここまで頑張って準備してきた。エナとの会話を終え、完成した魔法陣の前に立つと自然と気持ちも舞い上がる。
詠唱をはじめる。
「我が名は魔王ヴォイド」
「我の声に応えよ」
魔法陣が光る。魔法陣を縁取る輪郭は二重に重なっているように見えた。
「我の力にふさわしきものよ。我が眷属となり、ここに力を顕現せよ」
魔法陣は動き出しさらに激しく光を放つ。
その光につられるように地面は揺れ、動いた魔法陣からは甲高い音が鳴る。
キュイィィィィィ…
「時は来た。偉大なる力の元へ光よ魂となり宿れ!」
次第に光は輪郭を描き、人の姿が浮かびはじめる。
「成功だ…っ!いでよ!我が眷属よ!」
ピカッ!!
ゴゴゴゴゴ…ッッ!
しばらくするとあたりに包まれた光は消え、そこには人が座っていた。
「…。」
「…。」
大きな猫目に長いまつ毛。整った顔立ちに幼なげながら気品のある顔。少しだけ癖っ毛の目立つ赤茶色の髪。小ぶりな身体に何やら冒険者のような服をまとった、10代前半くらいの少女が魔法陣からあらわれた。
「え…ええと…」
「…。」
魔王は召喚した眷属がもっと禍々しい魔物を想像していたため、言葉に少し詰まっていたがとりあえず名前を尋ねることにした。
「これが我が眷属か…?名をなんという」
「…。」
目が合う。少女は無言のままこちらを見ている。
とりあえず警戒心を解くために魔王から名乗ることにした。
「我が名は魔王ヴォイド。お前を召喚したものだ」
「…まお…う?」
「そうだ、魔王だ。ここは魔王城。今日からお前は眷属だ」
少女の目つきが変わった。泣きそうな顔を浮かべたあと、強くこちらを睨みつける。
(眷属が嫌なのかな…。)
「魔王…」
「そうだ、魔王だ」
「悪は…」
「悪?」
『悪は…滅する!』
いきなり丸腰で飛びかかってきた少女。
咄嗟のことで驚いたがすぐに臨戦態勢に入る魔王。
急展開、戦いが始まった。
シュッ!シュシュシュ!
人間の素人とは思えない速さでパンチを繰り出す少女。しかし、相手は魔王。難なく翻しながら少女に話しかける。
「いきなりどうしたのだ?我はまだ何もしてないではないか」
シュシュ!
「魔王は悪いやつ!あたしは学校でそう教わったもん」
ブォン!シュシュ!
「学校?お前は人間なのか」
スカッ!シュシュ!
「そうよ、あたしはシャルロット。勇者見習いのシャルロットよ!!」
パァンッ!
お互い一旦下がり間合いを保つ。
「勇者だと?我は勇者を召喚したというのか」
「召喚?知らんけどあたしは勇者になるもの!ここで魔王のあなたを倒して勇者になってやる!くらいなさい!!!」
「【光魔】ライトニング・ソード」
シャルロットは渾身の一撃を放つ。
ドガガガッ!!!ズゴォン!
眩い閃光が魔王へと直撃した。
「これであたしの勝ちね。」
黒い煙が立ち込める中、シャルロットは勝利を確信していた。
【光魔】ライトニング・ソード
この世界の中級魔法にあたる。光属性魔法攻撃でありながら物理値、つまり斬撃値が高く、主に術者の物理攻撃力値と魔法攻撃力値の両方に依存する攻撃。潜在的なポテンシャルだけは高いシャルロットの必殺技だった。
しかし、相手は魔王。最強の魔王なわけで…
「いくら魔王でもあたしの必殺技を喰らったらひとたまりもないんだから」
「いい加減にしろ」
ドコッ!
そんなに上手くはいかないのである。
魔王はシャルロットの首元にチョップをした。シャルロットはそのまま意識を失った。
-魔王城【寝室】-
「ん…。」
「目が覚めたか?」
シャルロットは目を覚まし、あたりをキョロキョロと見回した。そして…
「体調はどうだ?てか大丈夫か?」
「…ぐすっ」
「おい、どうし…」
「ふぇ…ひっく…」
シャルロットは次第に顔をぐしゃぐしゃに歪め、そして…
「ぶえええええええええええええええ!」
急に大声で泣き出した。思わず魔王は驚き後ずさる。
「なんでよ!ねぇどうしていきなり魔王と戦わなきゃいけないのぉ!」
「おい、落ち着けって」
泣き出したシャルロットは止まらなかった。
「勝てるわけないじゃん!あたしまだ3レベよ!始まりの街すら出てないのにどうしてよ!武器だってまともに持ってないのに!!ばかばか!魔王のバカ!!!」
「いいから落ち着けって」
「てか勇者なのにインファイトで戦うって何!!どちらかというと勇者より武術家じゃない!!主人公じゃないでしょ女武術家なんて!どうせ冒険の中盤くらいで強い魔法使いが仲間になったら一軍からは外されちゃうんだから!!!!」
「なぁ、落ち着こう?な?」
少女の癇癪に魔王は狼狽える。
「魔王に負けたあたしはもう勇者にはなれないんだ!!そうよ、どうせ成績だって中の上!!!!主人公じゃないなら勇者にもなれないわよ!!!」
「頼むから…」
「てか!!このままあたしは!凌辱されて犯されて、綺麗な身体じゃなくなっちゃうんでしょ!そんで散々遊ばれた挙句に殺されて食べられちゃうんだ!!うわああああああああん、もういやだあああああああ」
「落ち着けって言ってるだろ!!!」
「怒ったあああああ!!!びえええええええええええええええ!!!!」
怒鳴る魔王。目を張らして泣く女の子。側から見たら親子に見えるかもしれない。はたまた女の子をいじめているようにも見えるのかも。
少しして、入り口のドアが開いた。
「ロリコン魔王様、失礼いたします」
「おい、エナ」
めんどくさいのが入ってきた。エナはニヤニヤしながらこちらに寄ってくる。てかノックくらいしろよ、仮にも上司だぞ。
(…魔王って上司だよね?)
「魔王様が急遽眷属の召喚をしたいっていうから気にはなっていたけど、まさか眷属ってこんなロリ…幼い女の子だったとは」
「これは予定外だ、こんな小娘だとは思わなかった」
「ふぅん…。まあ魔王様の性癖に口出しする気はないですけど(ニヤニヤ)」
「だから違うって…」
「それより、魔王様…」
エナはニヤニヤした顔をやめ、真面目な顔をした。
「なんでこの子泣いてるんですか?」
「なんかいきなり泣き出して、よくわからないんだ」
「もしかして眷属にされるの嫌がってるとか?」
「わからないんだ。我が犯すとかなんとか」
「つまり魔王様は振られたと」
「それは違くないか?」
「迫ったら拒否られたんでしょ?」
「迫ってないしそういう気もないが…」
「…変態ですね」
「ほんとやめてくれって…なぁ…」
「やーいやーい、ロリコン魔王が振られた振られた!」
「びえええええええええええ」
「ああ!どいつもこいつもうるさいなぁ!!」
あの秘書は煽りの前振りで真面目な顔をしたのか…と頭を抱える魔王。ここぞとばかりに上司をいじり倒し騒ぐ秘書。その声に負けじと泣き叫ぶ勇者見習い。
魔王城は今日もとても賑やかです。
15分後〜
「えぐっ…ひっく…」
一通り叫んで泣いて落ち着いたシャルロット。鼻水ダラダラ目は腫れまくりでとてもかわいそうな状態だ。エナはシャルロットを慰めている。
「よしよし、怖かったよねぇ。あのおじさん」
「…。」
「エナ…」
「あんなに泣いて、シャロちゃんお腹すいてない?」
「うん…(こくり)」
「よ、よし!それならご飯にしようか」
「そうですね魔王様。シャロちゃん立てる?」
「立てる…」
エナに手を引かれて食堂へと向かおうとする魔王達。その時シャルロットは思い出してしまった。
(魔族とは血肉を好み、人間の肉を喰らうのだ。もし魔族と出会った時、貴様らが戦う術を持たぬのならすぐに逃げなさい。貴様が魔族の餌になりたくなければな)
「魔族のご飯って…」
「なんですか?」
「いえ、なんでもないです…。」
(あ、敬語使えるんだ)
-魔王城【食堂】-
魔王たちはお盆を取りカウンター前に立った。
「お勤めご苦労様」
「あら、魔王様、さっきぶりだね。いらっしゃい、何にするんだい?」
魔王は朝食を済ませたので2回目だ。
「我はカレーにしようかね」
「あいよ。エナちゃんと初めて見るね、小さい娘さんは何にする?」
「私はサラダパスタを胡麻ドレッシングで。シャロちゃんは何にしますか?」
「あたし…いらない…」
「そうですか…?わかりました。とりあえず座ってまた決まったら来ましょう」
お盆をもって受け取り口に移動するとご飯の入った容器が置かれていく。シャルロットが想像していたものと少し異なり食器ではなくプラスチックの使い捨て容器が多いようだ。
その後、配膳されたお盆をもって空いている席に着いた。
「やっぱりカレーはお○さん食堂プレミアムのビーフカレーに限るなぁ!」
「魔王様。野菜も食べてください。はい、野菜スティック」
エナはカウンター横の冷蔵庫にある野菜スティックを取り、魔王に押し付けている。
「あの…そのお肉って…」
「ああ!これはビーフだぞ!牛100%のお肉だ。美味しいぞ」
「ビーフって牛ですか?」
「シャルロットはそんなことも知らんのか」
「いえ…」
シャルロットは食欲をそそられる匂いにあたりお腹が空く。しかし、人間を食べるということを聞いたシャルロットは魔王たちと同じ食事を取ることはできない。
「シャロちゃん、野菜なら食べれる?」
エナがにんじんを差し出す。シャルロットは首を横に振った。
「お腹すいてないの?それとも朝からこういうものは食べない?」
「魔族って…」
シャルロットは聞くか悩んだ。触れてはいけないものに触れてしまったらあたしは食べられてしまうかもしれない。でも、当然お腹は空くわけで。
ぐう…
シャルロットのお腹が鳴った。
「やっぱりお腹空いてるじゃない。何か食べましょう?」
「魔族の方々の食事は…」
「うん?」
「人間を食べるんですか?」
「…?」
「…。」
(私もこのまま食べられるのかな…聞かなきゃよかった)
周りの空気が張り詰めたように感じ、シャルロットの心拍数が上がる。変な汗が垂れ口の中が乾いていくのがわかった。
だが…実際は
「えっと…もう一回言ってもらえる?人間を食べる?」
「はい、あたしの先生がそう聞いたので」
「我々は人間なんて食べないぞ?断然牛とか豚の方が美味しいらしいしな」
「あれ?」
緊張で張り詰めていたシャルロットは少しだけ緊張を緩め、疑問に首を傾げる。
「そうよ、シャロちゃんを食堂に連れてきたのに同族を食べさせるわけないじゃない」
「そうですか…」
「そもそも・・・」
この後、魔王による説明があった。昔は人間を食べていた魔族も多かった。しかし、時代が経つにつれ酪農産業や食品加工技術が発展し、人間を食べる必要がなくなったのだ。今では魔族は人間とさほど変わらない食事をする。
「というかこの食事作ったのは人間だしな?」
「そうなんですか?」
「うちの魔族たちは料理が苦手でな、これは全部人間が作ったものを買って保存しているのだよ。人間はほんとうに素晴らしい」
「魔王様はレトルトカレーばっかり食べるんですよ。それも1日に4,5回も」
「美味いだろうにカレー」
「そっか…そっかそっか。よかった…」
「シャロちゃんそれで悩んでたのね。やっと笑ってよかったわ。何か食べましょう?」
「うん!」
エナが再びシャロの手を引いてカウンターへと向かった。さっきまで不安そうな様子はなくなり笑顔でエナに話しかけている。これなら上手くやっていけるだろう。魔王はそっと胸を撫で下ろした。
少しするとシャルロットが親子丼を持って戻ってきた。
「お、シャルロットは親子丼にしたのか。美味いよな親子丼」
「(プイッ)」
「あれ?」
「シャロちゃん、卵好きなんだよね」
「うん!」
「あれ、もしかして我嫌われてる?」
「(プイッ)」
「ちょっと、我の眷属よ、こっちを向きたまえよ」
「(プイッ、プイッ)」
「いいからこっちを向け」
魔王はシャルロットの顔を抑えて無理やり目を合わせた。するとシャルロットは笑いながらこう言った。
「魔王様なんて大っ嫌いです!」
「ええ!なんでよ!」
魔王ヴォイドは魔王なのに威厳がない。それどころか恐れられず、部下との距離も近い。人間も食らわないし平和な暮らしを求めてる。彼がどうして人々からも魔王と呼ばれ、人間からは恐れられているのか。それはまた今度語るとしよう。
「そういえばシャルロットよ」
「…なんですか」
「おお!返事してくれた(ニヤニヤ)。我もシャロって呼んでもいいか?」
「(プイッ)」
「そんなぁ…」
これは魔王が眷属に勇者(見習い)を召喚してしまったことで始まる物語である。
読んでいただいてありがとうございます(泣)
作者のRLと申します。初投稿です!
普段はイラストを描いたりしています。今回の作品はノベルゲームを作ろうと思って考えた原稿です。ただ思ったより時間がかかるのと内容がゲーム向きじゃないかなってことでここに投稿させていただきました。
初めてで拙い文章で内容も薄いですが、皆さんの反応が良ければ続きを書こうかななんて思っております。
何かあればコメントを。またどうしたら文章に肉付けできるのかとかも教えていただければ(笑)