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独身貴族は誰とも組まない


 今日は休日だ。


 差し迫った魔道具の納品作業があるわけでもなく、用事があるわけでもない。


 家でゆったりとクーラーの設計図の構想を練る。なんていうのも悪くはないが、今日は軽く身体を動かして外に出たい気分だった。


「久しぶりに外に出るか」


 外というのは家の外ということではなく、王都の外という意味だ。


 これだけ人で賑わっている王都であるが、街を囲う城壁の外では雄大な平原や森が広がっている。


 王都は前世の都内のように人が多いわけではないが、それでも窮屈さのようなものを感じる。定期的に人の少ない平原や森に行って、のんびりとした時間を過ごすのは俺のルーティンとなっていた。


 外には当然、人を襲う魔物もいるが、それを跳ね除けられる程度の実力は備えているので問題はない。


「まずは冒険者ギルドだな」


 冒険者ギルドというのは、主に魔物の討伐を生業とした者たちが集まる組織である。


 そこでは数多の冒険者が所属しており、魔物討伐の依頼や、採取依頼、街の雑用などといった幅広い依頼が集まる。


 久し振りに外に出る時は、必ずそこに立ち寄って周辺状況の確認をすることにしている。


 大概の魔物は倒せるようになったが、面倒な魔物が徘徊しているところに行きたくはない。


 それに依頼書にある魔物の討伐証明部位を持って帰ったり、素材を持ち帰れば、ギルドで換金してもらうことができ金にもなるからな。顔を出しておいて損になる場所ではない。


 いつもの私服からしっかりとした冒険者装備に着替えると、俺は家を出て中央区にある冒険者ギルドに向かった。


 中央区の広場の傍にある緑色の屋根をした二階建ての建物。


 それが王都にある冒険者ギルドだ。


 常に解放されている扉の中をくぐって入ると、たくさんの武装した者たちがいる。


 剣を腰に佩いた人間、巨大な戦槌を手にしたドワーフ、長弓を背負っているエルフ。


 多種多様な種族と年齢のものが掲示板を前にして依頼書を眺めていたり、テーブルに座って話し合っていたりした。


 中には朝っぱらからにもかかわらず酒を呑んでいる輩もいるが、冒険者はフリーランスや個人事業主のようなものだ。彼らの好きなタイミングで働くことができるので、誰もそれを咎めるようなことはしない。


 ただ、依頼を受けずに呑んでばかりだと白い目で見られるがな。


 テーブルの脇を通っていると席に座っていた男性が立ち上がろうとしてふらついた。


 素早く反応して身を引いた俺だが、彼の手にしていた杯の中身が少し零れて、俺の靴が濡れた。


 外に出るのである程度汚れることは覚悟していたが、こんな風にギルドで汚されるとは思わなかった。


 相手の様子を見たところ悪気があったわけでもないが、うんざりとする。


「おっと、すまねえ」


「……気をつけろ」


「あ、ああ」


 不機嫌そうな顔がモロに出ていたのだろう、男性は酔いが覚めたように青い顔をしていた。


 ああ、早く人のいない外に向かいたい。


 呆然と突っ立っている男性の脇を抜けて、俺はギルドの端にある掲示板を眺める。


 ここには王都周辺に出没する魔物の情報や、討伐依頼なんかが貼り出されている。


 この情報を眺めていれば、外がどうなっているか大体わかるものだ。


 掲示板に貼られているのは主に魔物の討伐依頼や素材の採取依頼。その次に掃除や荷物運びといった雑用依頼が多かった。


「……特に変わったところはないな」


 要注意なのは普段出没しない魔物が出現したとか、ゴブリンが巣を作ったとかであるが、俺の目的地である東の森にそういった情報はない。


 その情報が絶対であるという保証はできないが安全度は高いだろう。


 目的地の環境状況を確かめた俺は、キルク草の採取とボタンキノコの採取依頼を引き受けることにする。


 それらの素材であれば、道すがら採取できるだろうしな。


 掲示板から依頼書を剥がすと、俺は奥にある受付に向かう。


 そこには容姿の整った受付嬢たちがおり、依頼の手続きなどの業務を行っていた。


 その中で俺は比較的空いている列に並ぶ。


「次の方、どうぞ!」


 やがて、自らの番になり、呼ばれたので受付へと進む。


「ジルクさん、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 長年ギルドに所属しているからか、俺の顔と名前もすっかり憶えているようだ。


 ちなみに俺はこの受付嬢のことは知らない。


 ギルドにはプライベートで顔を出す程度であり、覚えなくても支障はないので別にいいだろう。


「採取依頼の手続きを頼む」


「東の森でキルク草とボタンキノコの採取ですね」


 依頼書を確認するなり受付嬢が何か言いたげな視線を向けてくる。


「あの、ジルクさん。もし、よろしければパーティーを組んでみませんか? ジルクさんの腕前であれば、より人数がいた方がたくさん稼げると思います!」


「結構だ」


「どうしてですか? ソロでBランクの腕前を持つジルクさんなら、仲間がいればもっと上を目指せますよね?」


「生憎と俺は高ランクの冒険者になりたいわけじゃない。だから、パーティーを組む必要はない。それがわかったら、早く作業を進めてくれ」


「わ、わかりました」


 きっぱりと断ると残念そうにしながらも手続きに入る受付嬢。


 確かにこの受付嬢の言う通りであるが、俺は別に強い冒険者になりたいわけでも、冒険者稼業で生計を立てたいわけでもなかった。


 命を張ってまで、高難易度の依頼をこなす必要も、高ランクの魔物を倒す必要もない。


 稀に魔道具の素材として高ランクの魔物の素材が必要になるが、その時は金を払って高ランクの冒険者に採ってこさせる方がよっぽどいい。


 停滞を良しとしているわけではないが、それで命を落としたり、怪我をして本業に響いては意味がないからな。


 単純に一人の方が楽でやりやすいという個人的な好みもあるが、俺にはそれ以外の特別な事情もあったりする。


 外に出るからといって、俺がパーティーを組むことは今後もないだろな。






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『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
[一言] ボッチ\(^-^)/万歳っ! 本当にこの作品に共感を覚えるよ。ジルクにしてみれば「淋しい?なにそれ美味しいの?」って感じだろ。羨ましい生活だわ。
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