独身貴族は呪いの宝具を見つける
焼き鳥を自作した翌日。俺は宝具店を巡っていた。
今、立ち寄っている場所は行きつけであるアルデウスではない。個人経営の比較的小さな宝具店だ。
王都にはアルデウス以外にも多くの宝具店がある。
有名な大きな店から、それこそここのような個人経営の小さな店まで。
アルデウスはどちらかというと中規模のお店だが、有名店でも仕入れることのできない希少な宝具を仕入れているので俺の行きつけになっている。
多分、店主であるグワンの人脈だろう。一体どのような繋がりを持っているのか謎だ。
まあ、俺としては宝具が変えれば文句はないので特に詮索するつもりはないがな。
冒険者なので自分で探すという道もあるが、明らかに労力と時間が見合わないし、命の危険も大きいからな。
金が稼げる以上、冒険者が持ち帰ったものを買い上げるのが一番いい。
【妖精の指輪】
妖精の力が込められている指輪。幻惑効果があり、身に着けているとあらゆる生き物から視認されにくくなる。あくまでされにくくなるだけであって、認知されなくなるわけではない。
【蒼炎の守石】
強い炎のオーラを纏った不思議な石。あらゆる炎のダメージを軽減してくれる。
軽減するだけで無効化するわけではない。
実験では中級魔法を受けても、装備者は軽い火傷で済んだ。
【雷撃槍】
雷の力が込められている長い槍。雷魔法を吸収し、それを刃先から放つことができる。
天気の悪い時に地面に刺しておくと避雷針代わりになる。
いつも通り、ショーケースの中に収納されている宝具を眺める。
「……どれも持っているな」
「そりゃこれだけ頻繁に来て買ってたらそうなるぜ」
宝具を眺めながら唸っていると、店主のおやじが呆れたように肩をすくめた。
「いや、三日に一回きて二つ、三つ宝具を買ってくだけだろ?」
「普通の客は三日に一回の頻度で来ねえし、数百万ソーロ以上する宝具を調味料感覚で買っていったりしねえよ」
この店にはそこまで頻繁に来ているわけでもないし、そこまで多くの宝具を買っているわけでもない。それなのにこのように言われるとは心外だ。
宝具との出会いは一期一会。本当は毎日でも覗きにくるべきなのだが、忙しいせいで来られていないくらいなのにな。
世の中の宝具マニアは一体、どれくらいの頻度でやってきて買い物に来ているのやら。
「なにか面白い宝具は入っていないか?」
「あるとすれば呪いの宝具くらいだ」
「呪いの宝具か……」
あれも一応は宝具ではあるが、装備者に適性がないと全く使うことができないしな。
軽度の呪いであれば装備はできたが、その日からしばらく悪夢を見せられるようになった。
それによる大きなストレスで体調を崩したことがあったので、俺には恐らく適性がないのだろう。
それだけなら装備せずにマニアとして買うのだが、呪いの宝具は物によって怨嗟の声を上げたり、動いたりすることもあって管理が大変だ。
買い上げた宝具マニアが呪い殺された事件もあると聞く。さすがに俺では保管しておくのは難しい。
それに身近には呪い宝具マニアがいるからな……。
「ちなみにどんな宝具だ?」
「【黒触手の手甲】に【不死者の杖】だ」
「どんな能力だ?」
何となく察しはつくが一応尋ねておく。
宝具マニアとして呪いものでもあっても効果は気になる。
「簡単に言えば、黒い触手を生み出す手甲と、低位のアンデッドを生み出す杖だな」
「間違いなく届け出が必要なやつだな」
前者はまだしも、後者の方は若干倫理観から外れている能力だ。
強力な呪われた宝具を所持する場合には、国に所持の申請を送っておく必要がある。
そうしないと事件が起きてしまった時に、いらぬ容疑をかけられてしまうからだ。
たとえば、街がアンデッドなどに襲われた時は間違いなく、この杖の所持者を国は疑うだろうからな。面倒ごとを避けるためにも、呪われた宝具を所持する場合は申請しておくに越したことはない。
まあ、悪い奴らや後ろ暗い過去を持つ者は申請したりしないがな。
「とりあえず、二つとも予約させてくれ。予約金は払っておく」
「ああ、アルデウスの警備人が買いに来るんだな。わかった、こいつは誰にも売らねえでおく」
こういった事をするのも一度や二度ではないので店主もわかっている。
無駄なやり取りは好きではないので、話が早いのは助かる。
警備の奴とは別に深い仲ではないが、同じく宝具を集める同志だ。だから、このようにアイツが気に入りそうな宝具を見つければキープしておくのだ。
逆に俺が気に入りそうな物を見つければ、アイツが金を払ってキープしてくれる。
互いに欲しいものを確実にゲットできるwinwinな関係というやつだ。
他の宝具店も回って、次はアルデウスに行こうとしていたのでちょうどいいな。
予約金に必要な金を店主に渡すと、俺は宝具店に出て移動した。
●
「……またお前か」
アルデウスにやってくるとグワンが眉をしかめながら言う。
客がやってきたというのに相変わらず接客態度が悪い。
いつもならそれに文句の一つも言うところであるが、今日は用事があるのでスルーしてやる。
入り口の側には今日も凶悪なヘルムを被り、禍々しい全身鎧を身に纏っている警備がいた。
顔が見えないので今日も何を考えているのかさっぱりわからない。
「西区にある宝具店で呪いの宝具が売っていたぞ」
しかし、そのように告げるとただ突っ立っていただけの警備が、勢いよくこちらに身体を向けた。
その大きな反応から、やはり知らなかったようだ。
ヘルムで隠れて顔は見えないが、どんな宝具かと尋ねてきているのが不思議と伝わった。
「売っていたのは【黒触手の手甲】に【不死者の杖】だ。黒い触手を生やす手甲に低位のアンデッドを生み出す杖らしい」
「ッ!」
ビクンと大きく震える反応からして、やはり警備の琴線に触れる宝具だったらしい。
「いつものように予約しておいたぞ。空いたタイミングで取りに行くといい」
俺がそのように言うと、警備はペコペコと何でも頭を下げた。
宝具マニア同士、助け合いだ。
「今日はいい宝具は入ってるか?」
「お前ってやつは毎回良いタイミングでやってきやがるな。ちょうど特級の宝具が入ってきたところだ」
「それは本当か!? 見せてくれ!」
グワンがそこまで言うほどの宝具というのは本当に珍しい。
一体どれほどの宝具が入荷したというのか。思わず大きな声が出てしまい、胸が高鳴る。
「ああ、見せてやる。だが、その前にーー」
グワンはそのように言うと、鋭い視線をずらした。
後ろに何かあるのかと振り返ると、そこには警備がとてもソワソワとした様子で歩き回っていた。
恐らく、呪われた宝具を早く買いに行きたくて仕方がないのだろうな。
同じマニアとして彼の気持ちが痛いほどわかる。俺も宝具の鑑定待ちやオークションの開催前なんかはソワソワとしてしまうからな。
「宝具が気になるならさっさと買ってこんか! 鬱陶しい!」
グワンが声を張り上げると、警備は嬉しそうに頷き、軽やかな足取りで店を出ていった。
「いいのか? あいつ警備だろう?」
「ふん、臨時でBランクの冒険者が入ってきたんじゃ。十分じゃろ」
この爺、客を警備扱いするつもりだ。まあ、俺がいる限り宝具への狼藉は許さんから、別に文句を言うつもりはない。
「まあいい。それよりも宝具だ。早く見せろ」
新しい宝具に比べれば些末な扱いなど最早どうでも良かった。
「わかっとる」
いつも通り不機嫌そうな声を出すと、グワンは奥の部屋から一つの箱を取り出す。
そして、箱を開けると柔らかなクッションの中には長方形の黒い箱が埋まっていた。
ただの黒い箱にしか見えず首を傾げるが、グワンが前面部分を持ち上げると、そこからレンズが出てきた。
「ッ!?」
「【写し出す世界】という宝具だ。ここにある小さな穴を覗くと、レンズに映った景色が見える。そして、ボタンを押すと、覗いていた景色を特殊な紙に写しとることができるというとんでもない逸品だ」
説明しながら宝具をこちらに向けてボタンを押すグワン。
小さなフラッシュが起きて、数秒後には宝具から写真が出てきた。
そこには呆然とした顔をしている俺が映っており、その後ろにはアルデウスの内装や外の風景までも細かく映っている。
通常のものであれば、現像するのに時間がかかるものであるが、この宝具は一瞬でできるようだ。
紛れもなく、これはカメラだ。




