独身貴族は焼き鳥を作る
ロックバードの肉を買って帰宅した俺は、早速と焼き鳥作りをすることにした。
精肉店で買ったロックバードの肉をそれぞれ部位ごとにわけると、包丁で食べやすい大きさに切る。
まずは皮だ。こちらはそれほど手間ではない。串に刺しやすい大きさにカットしていく。
その際に余分になる部分はカット。
少しでも大きくすべてを使ってあげたい気持ちはあるが、綺麗に成形してあげないと串に刺す時に汚くなってしまうし、食べにくくなるからな。
それが終わると次は砂肝だ。まずは横側にある柔らかい無駄肉に包丁を入れて切り落とす。
それから裏返し、まな板と砂肝の間に銀皮がくるようにし、すきとるようにして包丁を入れて銀皮を剥いでいく。反対側も同じようにして半分に切ると一本分の砂ずり処理の完成だ。後はこれを繰り返すだけ。
この際に柔らかな無駄肉と銀皮が余ってしまうが、これは湯引きしてポン酢なんかで食べると美味しくいただけるので捨てたりはしない。
砂肝が終わると、次はハツだ。
心臓にくっついている大動脈の部分、ツナギ、ハツ落ち、ハツ元……といった無駄な部分を切り離していく。
この作業で注意するべき部分は脂を落とし過ぎないことだ。
脂を全てカットしてしまうとハツのジューシーさが無くなってしまうので、いい塩梅を見極める必要があるのだ。
包丁で切り離す際に、左手で開きながらやると効率的だ。
だが、その際に刃を入れ過ぎると傷が入るので注意だ。さらに下にある丸みの部分は繋げておくべきだ。そうしないと焼き加減にムラができやすくなってしまうからな。
あの店主はこういった知識も無しに適当にカットしていたのだろう。そうでもないとあの味の悪さと口当たりの悪さは説明できないからな。
こんな風に焼き鳥として美味しくいただくための手間をかけながら、モモやせせりもカットしていく。
それらが終わるとカット作業は終わりで、いよいよ串打ちとなる。
まずは皮だ。こちらに関しては福岡流でいこうと思う。
理由は前世で一度作ってみてからそちらにハマったからだ。
鶏皮のツルリとした部分が表になるように串に巻き付けていく。そして、反対側の端っこに串を打って締めるようにして下ろす。
この時にポイントになるが火の通りにくい根元などは小さくすることだ。逆に日の通りやすい中央を厚くするように巻くとまんべんなく焼き上げることができる。
ただの串打ちといえど、気が抜けない。意外と奥が深いのが串ものの特徴だ。
後はこれを繰り返すだけ。面倒くさいように見えるが、慣れると意外と楽だ。
「意外と多く作れたな……」
バッドに並んだ皮串を見ると、十本あった。
普通の居酒屋では焼き鳥に使われる肉は一本で三十グラム程度だ。
大体五本ずつ程度になるだろうと予想していたが、店主は専門店のような大きめでカットしたらしい。そのせいで想定していた数よりも倍近い数の串ができてしまった。
「まあ、多くて困るようなことはないな……」
焼き鳥なら何本でも食べられるし、余れば次の日に焼いて食べればいいだけだ。
皮が終われば、次はハツだ。
まな板の手前側を使うようにして身を持ってきて打つ。
肉を押さえている親指の下を通すように串を入れると裏から串が出ずに綺麗に打てる。
ハツは開いてしまうと身が薄いからな。意外と串を通すのが難しいのだ。
ちょっとしたポイントではあるが、先端までしっかりと巻き込むようにして打つといい。
先端を余らせると垂れてしまい、火にもろに当たってしまって焦げやすくなるのだ。
二個目、三個目、四個目と丁寧に先端まで意識して打つ。
そして、すべて打ち終わると右端を軽く切断して揃える。
こうすることで焼き上がりのビジュアルが良くなるからな。
ハツが終わるとネギマの串打ちだ。皮と同じように根元は小さめの肉を選ぶ。
肉を押さえて、皮がしっかりと張るように打つ。
そうすることで焼き上がりがジューシーに仕上がるのだ。
モモを打つと、次はネギを打ち、そして、またモモを打ってネギを打つ。これでネギマの完成だ。
「……綺麗なアーチだな」
横から眺めた時にモモ肉が綺麗なアーチを描いていると、しっかりと皮が張っている証だ。
美しいネギマのシルエットに自然と頬が緩む。
「最後はせせりだな」
まずは切り分けた際に残った小肉を根元で打つ。
せせりには細かい肉の筋がたくさんある。そういったものを打ってやらないと必ず小さな肉が残ってしまい、火を通す時に焦げ付いてしまう。
それに見た目も良くないので、しっかりと芯を捉えて打ってやるといい。
「厚みも完璧だな」
他の串と同じように厚みをしっかりと揃えると火も通しやすく見栄えがいいのだ。
せせりが追わると、同じように注意しながら砂肝も打っていく。
「よし、これで串打ちは終わりだ」
最後の砂肝串をバッドに置くと、ふうと息を吐いた。
気が付けば昼食の時間はとっくに過ぎていた。
肉の下処理と串打ちに夢中になるあまりまったく気付かなかったな。
昼過ぎにいきなり仕込みをし始めたのだ。そんなすぐに出来上がるはずもない。
しかし、目の前ではたくさんの串が並んでいる。
数にして十本ずつが五種類で五十本だ。これだけの数が並んでいると中々に壮観だ。
自分でこれを作ったのだと思うと達成感がすごい。
露店で食べた串が一本百ソーロ。五十本も注文すれば、五千ソーロもかかってしまう。
しかし、自分で買って作ってしまえば、その半額以下の値段で作ることができる。
「こっちの方がお得だな」
満足感のこもった笑みを浮かべると胃袋がぐうと音を立てた。
昼食を食べていないから空腹感を感じはするが、食べる気にはなれないな。
順調にロックバードの焼き鳥を作り上げている最中なのだ。休憩を挟む気にもなれないし、焼き鳥以外のものを食べる気にはなれなかった。
俺の胃袋はもう焼き鳥の気分なのだ。
「このまま続行して焼き作業だな」
今から焼き作業をしていては夕方になってしまうだろうが、それでも構うものか。
俺は台所にある換気扇の下に移動して、そこに長方形型の七輪を設置。
「やっぱり、焼き鳥は炭火でないとな」
きっちりと火が付きやすいように炭を置いて、着火の魔道具で火をつける。
その上に金網を載せると、そこに皮串を十本置いた。
まずはしっかりと火を通して余分な脂を落とす。そうすることで皮がカリっと仕上がるのだ。
本場である福岡の専門店では、皮串を六日間もの時間かけてこの工程を六回繰り返すと言われている。
が、俺は焼き鳥のプロでもないし、特別な工程をしなければ六日間も皮がもたないだろう。
そういうわけで、本場焼きはせずに時短焼きで進行だ。
七輪の上で焼かれる皮串をじっくりと焼き上げる。
一か所ばかりで焼いていると焦げてしまうので串を回して面を変える。
さらに火力の高い中心部分と、端にある串を入れ替えたりしながら火加減を調整。
意外と気が抜けないが、俺が一から手間をかけて焼いただけあってか全く苦にならなかった。甲斐甲斐しく肉を世話してやるのがとても楽しい。
人間にはこんな感情は抱けないが、食べ物になら抱けてしまう。
人間だとどれだけ相手に尽くそうが、それが自分に帰ってくることもない。逆に裏切られることだってある。
しかし、食べ物というものは尽くせば、尽くすほどに美味しさというメリットを返してくれる。しっかりとした手順さえ踏めば、それは裏切ることはない。
そういう差があるからなのだろうな。
じっくり焼いていると皮から脂が出てきて香ばしい匂いが漂う。
「いい匂いだ」
しばらくすると、表面が少しパリッとしてきたので一旦火からあげて休ませる。
これを後五回繰り返せばいい。
「にしても、煙がすごいな」
部屋を見渡すと若干空気が白っぽくなっている。
「……換気するか」
もう部屋には匂いが染みついているとは思うが今からでも遅くはない。
慌てて窓を解放しておく。
ベランダに出て新鮮な空気を取り込むが、まだ匂いがする。
少し襟を持ち上げて匂いを嗅いでみると、服に匂いが完全に染み付いていた。
やらかしたな。外出用の服だけあってそれなりにいいものだったのに。
これ以上、服に匂いを染み付かせるわけにもいかないので、俺は汚れてもいいラフな部屋着に着替えた。
『転生したら宿屋の息子でした』のコミック1巻が本日発売。よろしくです。




