独身貴族たちは交友を深める
「にしても、女に興味を示せばいくらでも結婚できるのに変わっている奴等だな」
「あなたが言わないでよ」
「お前が言うな」
レナードとグレアスを眺めてしみじみと言うと、二人から激しく突っ込まれた。
「見た目よし、家柄良し、収入良しなのに、ジルクってば一度も恋人を連れている姿を見たことがないのよねー」
「一人で過ごす方が気楽でいいだろ。結婚すると嫁や子供だけでなく、さらに嫁の家族と背負い込むものが何倍にも増えていく。そんなのはごめんだ。自分の人生なんだ、誰にも干渉されることなく好きに生きたいと思うのは当然だろう」
「そうね。個人の幸せを追求するのであれば、独身でいるっていうのも一つの道よね」
どこか憂いを帯びた瞳をしたレナードが考え込むように頬に手を当てる。
顔の作りがいいからか、そのような仕草であってもレナードには違和感がなかった。
「どうせ最後に信用できるのは自分だけだからな」
どこか冷めたような顔で吐き捨てたのはグレアス。
「グレアスが言うと言葉の重みが違うな」
「その言い方はやめろ」
「まだ、女性不信は治らないわけ?」
「治るわけねえだろ」
実を言うと、グレアスには結婚を前提として付き合っていた婚約者がいた。
しかし、グレアスは精霊と対話できるスキルのせいで、愛する婚約者の暗い胸の内を知ってしまい、それ以降女性不信になっているのである。
結果としてグレアスと婚約者の中には致命的な亀裂が入ってしまい、それが修復されることはなかった。
それ以降、彼が特定の恋人を作っている姿を見たことがない。
実家もグレアスの才能を惜しんで後継ぎを作ってほしいみたいだが、本人の気持ちがわかっているが故に強くは強制できないようだ。
「俺には女なんか必要ねえ。俺には愛すべき魔剣がいる!」
そんな暗い過去を払拭するかのようにグレアスが拳を握り込んで言う。
「でも、魔剣って消耗すると砕け散るわよね?」
「だから、絶対に壊れない魔剣を作るのが俺の夢だ!」
……トラウマがあるとはいえこいつもまた拗らせているな。
とはいえ、しっかりとした生き甲斐があるのはいいことだ。仮に一人で生きていくことを寂しく思う瞬間があっても、夢中になれる仕事や趣味があれば平気なものだ。
前世では女性に対してはあまりいい思い出のなかった俺なので、今はすっかりと平気そうにしているグレアスを見て安心した。
「レナードは仕事の方はどうなんだ?」
互いに恋愛関係の変化はないので、仕事のことを尋ねてみる。
「順調よ。立ち上げたファッション店も軌道に乗って、売り上げが大きく出るようになったわ。私のデザインした衣服もドンドン売れているしね」
レナードはファッション店を経営している傍ら、自らが衣服のデザインをしている。
彼の経営している店舗のほとんどの服は、彼がデザインしたものだ。
自分も魔道具師というモノづくり稼業をしているので、業種が違えど自らクリエイトしたもので利益を出しているレナードには素直に尊敬の念を抱いてしまうな。
俺は基本的に自分の暮らしが良くなるための魔道具しか作らないので、彼とは大違いだな。
「だけど、最近ビビッとくるモデルがいなくてね。私のインスピレーションを掻き立てる子がどこかいないものかしら?」
自信満々の表情から一転、物憂げな表情でため息を吐くレナード。
「それは悩ましいな」
「あるよなー。作りたい気持ちはあるのに、創造性が付いてきてくれないことが」
クリエイターにとって、そういった悩みはつきものだ。
自分のことのように共感できる俺とグレアスは神妙な顔で頷く。
「……ねえ、二人とも。一日百万ソーロで私に買われてみない? 大丈夫、二人は何もしなくていいわ。言われるままに立っているだけでいいのよ?」
「断る」
「絶対やんねえ!」
レナードの提案に俺とグレアスは即座に拒否。
「じゃあ、二百万ソーロでどう?」
「金の問題じゃねえんだよ!」
「ちょっと着せ替え人形にするだけじゃない! あなたたちが協力してくれれば、衣服のデザインが何百パターンも思いつくこと間違いなしなのに!」
レナードに着せ替え人形にされたくはない。
一日、何十もの衣服店に連れ回され着せ替え人形にされるのだ。文字通り、彼に目をつけられて泣かされた女がどれだけいることか。
誰よりもそれを傍で見てきただけに俺たちが請け負うことはないだろう。
「やっぱりダメなのね。こうなったら二人の弱みでも握って……」
「おい、心の声が漏れてるぞ」
「やあね、冗談よ」
「絶対冗談じゃねえだろ」
レナードはそのように答えると、グレアスがすぐに突っ込みを入れた。
そんな会話が心地よくて俺たちは自然と笑い合う。
レナードとグレアスはこの世界でも独身を維持している仲間であり、互いの仕事や価値観を認め合える仲間だ。
基本的に一人での行動を好む俺だが、こいつらといる時間だけは悪くないと思う。
●
「兄さん、そろそろ他の人とも交流をしてよ」
レナード、グレアスと絡んでいると、アルトがそのようなことを言ってきた。
「おい、アルト。主催者が楽しげに談笑しているところに割って入るのは失礼だぞ」
「いや、僕は身分が下じゃないし身内だから。それに今は三人ともワイン呑んでるだけじゃないか」
無粋な令嬢共のように追い払おうとしたが、アルトは動じることもない。
俺が鋭い視線を向けても平然としている。
「……パーティーに参加しろとは言われたが、他人と交流を深めろと言われた覚えはない」
「なに屁理屈こねてるの。こういう時くらいアルトの力になってあげてよ。本当は兄さんの役目なんだから」
イリアがしゃしゃり出てきたが、そのように言われるとぐうの音も出ないのが俺の立場だ。
俺がこのように独身で自由にやっていられるのは、アルトが家を継いでくれたお陰だからな。
「そうね。周りの人たちもジルクが気になっているようだし、ずっと独占しているのも悪いわね。アルトちゃん、連れて行ってもいいわよ」
「ありがとうございます。行くよ、兄さん」
「わかったから腕を離せ。自分で歩ける」
俺はペットじゃないんだ。
腕を振り払った俺は、アルトとフィーベルの後ろを黙って付いていく。
しかし、その目的地がどうも雲行きが怪しい。
テーブルの側には華やかなドレスを纏った女ばかりだ。男性は一人もいない。
「まあ、ジルク様だわ!」
「近くから見ると、本当にカッコいい!」
俺が近づくと、きゃいきゃいとした黄色い悲鳴を上げる女たち。
甲高い悲鳴が重なると耳がうるさい。
「……おい、女ばかりだぞ?」
「どなたもジルクさんの作った指輪に興味を示されている方ばかりです」
「結婚指輪を作った兄さんの話が是非聞きたいそうだよ。ちなみにここだけじゃなく、まだまだいるから」
フィーベルとアルトのにっこりとした笑みを見て、これが逃げられない定めであることを俺は理解する。
「ジルク様、私たち結婚指輪というものに大変興味がありますの。製作者であるジルク様のお話を是非ともお聞きしたいと存じます」
「わかりました。それではお話させていただきましょう」
俺は外向け用の笑顔を精一杯浮かべて、貴婦人たちに指輪の話をした。
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