独身貴族たちは塩対応
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「レナードさんとグレアスさんは、兄と同じく独身のままなのですか?」
各々が軽い挨拶を済ませて落ち着いたタイミングで、イリアがそのようなことを尋ねた。
交友レベルによっては失礼といえる言葉ではあるが、レナードやグレアスとの関係は長いために今さらそんなことを気にする者はいない。
というよりも、俺たち三人が揃うと真っ先に上がりやすい話題の一つだ。
「そうね、独身のままよ。私はいつでも結婚したいと思ってるんだけど……ねえ、ジルク?」
「そこで意味深な視線を向けてくるな。俺にそっちの趣味はない」
男であるレナードから流し目を向けられた俺は、背筋がぞわりと泡立つのを感じた。
俺と同じく高身長、高学歴、高収入、容姿も端麗であり、将来性も高いレナードであるが、男色の気がある故に独身だ。
「やっぱり、レナードさんも変わらないんですね」
「女に興味なんてないからね。それに結婚なんてしなくても養子を迎え入れればいいだけの話よ」
レナードのきっぱりとした言葉にイリアが頭が痛そうな顔をした。
レナードは当主として養子や養女を迎え入れているので戸籍上子供はいることになっている。
しかし、自らの伴侶はおらず、血を分けた子供もいない。貴族としての義務を果たしながらも独身を謳歌している貴族だ。
「あっ、でも仕事としては興味ありありよ。イリアちゃん、うちのブランドのモデルにならない? イリアちゃんに似合う服がたくさんあるわよ?」
「い、いいえ、結構です!」
「そう? でも、モデルをやりたくなったらいつでも言ってちょうだいね?」
「は、はい」
ぐいぐいと言ってくるレナードに対して若干引き気味の妹。
強気な妹にして珍しくそうなっているのは、過去にちょっとした小金稼ぎ程度で安請け合いしたせいだ。
一日、服のモデルになるという簡単な条件だったが、その説明の通り一日中、服を着せ替え続けられたらしい。最後の方は最早、ただの着せ替え人形だったとか。
その一件以来、イリアはレナードの仕事にトラウマ的な想いを抱いているようだ。
「グレアスはどうなんだ?」
「俺も独身のままだ。いつも通りに素材を集めて、魔剣を作るだけだ」
グレアスは魔剣鍛冶師だ。魔剣というのはこの世界に存在するファンタジー武器。
精霊や英霊の魂などを宿し、超常の力を発揮する剣だ。
グレアスはレクスオール家だけに伝わるスキルのお陰で、精霊や英霊の魂と会話できると言われている。
おとぎ話の中では魔物の大群をたったひと振りの魔剣が薙ぎ払ったと記述されているが、俺は彼の作り出した魔剣の効果を目にしたことがあるので、それがおとぎ話ではないことを知っている。
レクスオール家の中でも、そこまで高いスキルを有しているのはグレアスだけのようで、実家としてはその才能を継承したいようだが本人にその気は一切ないようだ。
「というか、それはジルクも同じだろ?」
「ああ、俺もいつも通りに魔道具を作り、素材や宝具を集める日々だ」
俺は独身のまま生きていくと決めているんだ。結婚なんてするはずがない。
俺の追求する幸せというレールに結婚なんてものは存在しない。
「結局全員独身のままじゃない」
レナードの纏めた言葉に俺たちは笑い合う。
この年齢になっても結婚していないというのはこの世界では異常とされる。家の発展を至上とする貴族ならば、それは尚更だ。
そんな異端な道の中で、志を同じとしている独身仲間がいるというのは心強いものだ。
レナードやグレアスならば、結婚しないという主張を否定することは。むしろ、認めてくれる。
だからこそ、俺たち三人はこの年になっても仲良く絡んでいられるのだと思う。
「……失礼いたします。私たちも会話に混ぜてもらってもよろしいでしょうか?」
三人して心地よく笑っていると、そこに聞き慣れない女の声がした。
声の方に振り返ると、そこには三人の令嬢がいた。
年の頃は十三歳、十四歳程度であろうか。
レナードやグレアスに視線を向けてみるも、それらしい反応はない。
誰も三人組のことを知らないようだ。
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
ひとまず、相手の出方を伺ってみることにしたのかレナードが普通の言葉遣いで尋ねる。
「フロン男爵家が長女、マリエールと申しますわ」
「リュクロム男爵家が次女、ソフランと申します」
「フェーベル男爵家が次女、アシリアと申します」
「……そう」
正式に名乗り終えたところでレナードだけでなく、俺たちの瞳の色がさらに下がった。
しかし、目の前の令嬢たちはそのことに気付いていないのだろう。どこか高揚とした様子で口を開いた。
「アクウィナス家の当主であり、有名なデザイナーであるレナード様にお会いすることができて光栄に存じ――」
「マナーがなっていないようね」
が、レナードが最後まで言葉を言わせることはなかった。
彼の冷たい言葉が笑顔を称えた令嬢の言葉を両断する。
「え?」
「貴族の交流の場では、身分が下の者が上の者に気安く話しかけてはならない。ましてや、主催者が楽しげに話しているところに割って入るなど言語道断。そのことがわかっておいで?」
それは貴族のマナーでも基本的なことだ。それぞれの纏う服の質を見れば、相手がどれくらの爵位を持っているかは一目でわかる。
仮にそれを見過ごすとしても、後者は特に致命的だった。主催者が楽しげに談笑しているところに割って入るなどあり得ない行いだ。
周りにいる者たちはそれがどれだけ失礼なことかわかっているのか、令嬢たちに冷ややかな視線を向けている。
これだけ衆目の前で失礼を重ねてしまっては、最早フォローのしようもない。こちらも面目を保つために知らしめる必要があった。
「え? あ、あの……」
まさかそのように言われるとは思っていなかったのか、令嬢たちが揃ってあわあわとしだす。
「お引き取りをお願いするわ。私は友人たちと交友を深めるのに忙しいから」
「そういうわけであっちに行ってくれ」
レナードとグレアスが鋭い視線を向けて帰れと促す。
俺は言葉こそ口に出さなかったものの、同じような意味を込めた視線を向けた。
しかし、令嬢たちは、その場を動くことなく微動だにしない。
「……どうしてこいつらは引き返さないんだ?」
「さあ? 言葉は通じているはずだが?」
「兄さんたちが怖い顔して言うからビビっちゃったのよ。それくらい察しなさい」
俺とグレアスが首を傾げていると、イリアが小声で言ってきた。
いや、ちょっと睨みつけただけだぞ? それだけで動けなくなるものなのか?
この状況をどうしたものかと悩んでいると、血相を変えて近づいてくる三人の男性の姿が。
恐らく、この娘たちの父親だろう。
「た、大変申し訳ありません! アクウィナス様!」
「いえ、気にしていないわ。それよりもお嬢さん方の顔色が悪いわね。一度、休憩室で休んだらどうかしら?」
「は、はい。そうさせて頂きます。失礼いたします」
俗に言う「今日は帰れ」という言葉を頂戴した父親たちが、粗相をした娘たちを連れて会場を出ていく。
「所作を見る限り、初めてのパーティーだったんだろうな」
裾を摘まんでの慣れない一礼を見る限り、パーティー慣れしていないことは一目瞭然だった。
「そうだとしても、基本的なマナーを覚えさせてから連れてきてほしいわね」
とはいえ、レナードの言葉はもっとものことなので誰も否定することはなかった。
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「気の毒ですね。あんな美形が揃っていたら舞い上がって声をかけたくもなりますよね……」
すごすごと会場を去っていく令嬢と男爵を見て、フィーベルは同情の言葉を漏らした。
「独身だし、外から見たら三人とも優良物件にしか見えないのが質悪いわ」
「あの三人は話しかけずに離れて眺める……というのが貴婦人の中での暗黙の了解らしいよ」
「納得だわ」
「納得ですね」
アルトの言葉にイリアとフィーベルは深く頷くのだった。
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