独身貴族は結婚式に行きたくない
「あっ! エイトさん!」
「こんにちは。お久しぶりです、ルージュさん」
ルードヴィッヒとバーで飲んだ翌週。
俺の工房にエイトがやってきた。
それにいち早く気付いたルージュが立ち上がって応対する。
エイトには魔道具のための素材採取を依頼したことがあって、エイトとルージュは顔なじみだ。
また同じ依頼関連でやってきてもおかしくはない。
しかし、今日のエイトはマリエラを連れてきていた。
今までエイトとは仲良くやってきたが、互いの住所や働き場所に干渉するようなことはなかった。それを踏み越えて工房までやってきたことに違和感を覚える。
俺の中で嫌な予感がムクムクと膨れ上がっていた。
「エイトさん、今日はうちの工房に何か御用でも?」
「少しジルクと相談したいことがありまして……」
「えっ? うちのジルクと知り合いなんですか?」
エイトが俺に用があると述べたことにルージュが戸惑う。
エイトは俺とは違ってコミュニケーション能力もあるし、人当たりも良い性格だ。
俺と繋がりがあるイメージがルージュの中では持てなかったのだろう。
事実、湖での出会いがなければ俺も絡んでいなかっただろうしな。
「ええ、まあ。ちょっとした繋がりで友人になりまして」
エイトの言葉を聞いて、振り返って目を剥くルージュ。
言葉には出ていないが「なんでジルクと?」という素直な疑問が見えていた。
デスクで魔石の加工をしているトリスタンも信じられないものを見るような目をしている。
相変わらずうちの従業員たちは失礼だ。
「そうだったのですね。ジルク、エイトさんがご相談があるって――」
「不在だと言ってくれ」
「いや、そこにいるのが見えてるからな!?」
「バッチリ視線まで合ってて、いないことにしようとするのにビックリだよ!」
こちらに寄ってきたルージュにそのように伝えると、エイトとマリエラが即座に突っ込んできた。
くそ、滅多に来客がないからといって、エントランスから丸見えの内装にするんじゃなかった。お陰で不在だと言い訳をすることもできない。
機密保持のことも考えてパーテーションでも設置しておくべきだろうか? でも、うちの工房に来客なんて滅多にないからな。
「なにふざけてるのよ。エイトさんには、素材の調達でお世話になってるんだからちゃんと応対してよ」
「……しょうがない。応接室に案内するから付いてきてくれ」
「ありがとう」
仕方なく立ち上がってエイトとマリエラを案内することにした。
普段はあまり使わない二階へと上がって、二人を応接室に入れる。
普段使わないのは俺とトリスタンだけで、ルージュはよく販売の打ち合わせをここでしているのでそれなりに綺麗に保たれている。
とはいっても、ブレンド伯爵家のような靴が埋まってしまうような絨毯や、高級ソファーはなく、それなりの家具や調度品がある程度だ。
エイトとマリエラをソファーに腰かけさせると、ルージュがやってきてコーヒーを持ってきてくれた。コーヒーを置いていくとルージュはササッと退室していく。
「前よりも味が洗練されている気がする!」
「本当ね」
二人はコーヒーに口をつけるなり驚きの声を上げた。
前回よりも味が良くなったとの感想がもらえると嬉しいな。
「前に作ったものよりも大分改良したからな」
ブレンド伯爵の件で忘れていたが、しっかりとしたものができたらエイトに売る約束をしていたな。話が終わったら売ってやるか。
「それで二人して俺に相談というのはどんな内容だ?」
コーヒーを飲んで一息ついたところで、俺はエイトとマリエラに本題を述べるように促す。
すると、二人は顔を見合わせると頷き、エイトが口を開いた。
「なんとなく察しているかもしれないが俺たち結婚することにした」
「そうか。それはめでたいな」
「ええ? 反応が軽くない?」
間髪入れずに祝福の言葉を入れると、マリエラが戸惑った反応を見せる。
「中央市場での買い物の様子を見れば、いずれそうなるんじゃないかと思っていた」
「見られてたんだ。なんか恥ずかしいかも」
それにバーでエイトがそんな願望の言葉を呟いていたしな。それで二人して揃ってやってくれば気付かない方がおかしいだろう。
「とはいえ、随分早い決断だな。あれから一か月半くらいしか経っていないんじゃないか?」
大人になると男女の進展は早くなると聞くが、こちらが予想していた以上に結婚までが早い。前世の言葉で言うならば電撃結婚だ。
大人とはいえ、普通はもう少し付き合って同棲してみたりするものなのだが……。
「俺とマリエラの場合、長い間パーティーとして一緒にやってきたからな。そういった部分は問題ないと思う」
「パーティーで二年くらい過ごしていたしね。その辺のカップルよりもお互いのことはわかってるかな!」
「エイトとの距離の縮め方がわからなかったのにか?」
「それに関しては言わないで!」
そのように突っ込むとマリエラが顔を真っ赤にした。
まあ、一緒にパーティーを組んで冒険をしていれば、互いのことは大体わかるか。
マリエラの言う通り、そこら辺のカップルよりも互いのことを知っているだろう。
そう考えると電撃結婚とは違うか。
「それでジルクに相談なんだが、俺たちの結婚式に出席してほしい」
「断る」
「ええ? なんで?」
「逆に聞くが、どうして俺に出席してほしいんだ?」
エイトは俺と違って交友関係も多い。確かに友人ではあるが比較的仲は浅い方だろう。マリエラに至っては一度会って、アドバイスをしただけの関係だ。知り合いと呼べる関係かも怪しい。大勢の出席者がいるだろう中に、わざわざ縁の薄い俺を呼ぶ必要はないだろう。
「だって、エイトと上手くやっていけるようになったのはジルクさんのお陰だから……」
確かにそうかもしれないが、それはマリエラの努力があってこそだ。俺も親身になって相談になったわけでもなく、適当に独身者の習性を述べただけ。
そのように感謝をされる謂れはない。
「ジルクは俺のことをまだ浅い仲だと思っているかもしれないが、俺の中じゃそうじゃない。この年齢まで独身でいる奴って少ないからな。俺にとってジルクは、同じ感性を持った貴重な友人なんだ。そんなお前に祝ってほしいと思うことはおかしいことか?」
マリエラだけでなくエイトまで真面目な表情で言ってくる。
マリエラが語っていた普段のエイトと、俺に接してくるエイトの態度の違いはそういうことだったのか。
俺は前世でそういう考えをしている奴とつるんできたし、貴族の友人の中には俺と同じような考えを抱いている奴もいた。
しかし、エイトはそうではなかったのだろう。
女性と結婚をして家庭と子供を作ることが幸せとされる世界だ。その中でエイトの考え方は割と異端で浮いている。
結果として友人は多くとも心から分かり合える奴はいない。だから、自分と似た感性を持っている俺に親近感を抱いていたのか。
「……まあ、そう思ってもおかしくはないな」
「で、どうなんだ?」
「…………」
エイトに改めて問われた俺は悩む。
「なにをそんなに嫌がっているんだ?」
「わかっているとは思うが、俺は独身という生き方を好んでいて結婚というものに心から賛同できない捻くれた人間だ。そんな奴が結婚式に参列する資格なんてないだろ?」
結婚式とは祝いの場だ。
マリエラはともかく、エイトは俺の普段からの言動を知っているし、どうして独身が好きかも知っている。
そんな奴が心にもない祝福の言葉を述べるなんて失礼だろう。投げかけられたエイトやマリエラも素直に喜べるわけもない。
俺がそのように行きたくない理由を述べるとマリエラとエイトが笑う。
「ふふ、ジルクさんって思っていたよりも真面目なんだね」
「……どういう意味だ?」
「だって、普通そこまで他人のことを考えたりしない。そんな風に深くまで考えるジルクさんは、他の人に比べるとよっぽど誠実だよ」
「ジルクがそう思っていようが、俺たちはお前に祝ってほしいんだ。だから、そんなことは気にせず来てくれ」
エイトは曇りのない爽やかな表情で言うと、結婚式の招待状を置いてマリエラと共に応接室を出て行った。
一人残された俺は綺麗な招待状を手に取って、どうしたものかと頭を抱えた。
楽しんでいただけましたら、ブックマークと、下にスクロールして☆を押していただけるとすごく嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!




