独身貴族は宝具を駆使する
大量の手下が瞬殺されたがオークキングに動じた様子はない。
こちらの動きを観察するような理知的な瞳をしている。
手下をけしかけたのはこちらの情報を集めるためだったのだろう。狡猾だ。
こちらが杖を仕舞うと、オークキングが動き出す。
速い。
オークといえば、がっしりとした体躯のせいで鈍重なイメージがあるが、実際には分厚い脂肪の下には強靭な筋肉が凝縮されており、見た目とは裏腹な俊敏さを見せるのだ。
力強く地面を蹴ったオークキングが猛烈な速度で接近してくる。
三メートルを越えた巨体から繰り出される攻撃は言わずもがな。まともに食らえば、人間などひと捻りだろう。
「悪いが真正面からの勝負に付き合うつもりはない」
肉斬包丁を振り上げてくるオークキングに対し、俺は踵を打ち鳴らした。
宝具が発動し、俺の身体が勢いよく上昇した。
オークキングはすぐに視線を上げて、落下したところを迎え撃とうと肉斬包丁を構える。
しかし、跳躍した俺は落下することはなかった。
宙に波紋を広げながら浮いている。
これは【空靴】という宝具で魔力の続く限り空を歩くことができる代物だ。
オークキングが深く屈んで跳躍してくるが、俺は少し上昇するだけで射程圏内から逃れることができた。
地面に着地したオークキングを鼻で笑ってやると、わかりやすいくらいに憤慨を露わにしていた。
「フゴオオオオオッ!」
オークの言語は理解できないが、雰囲気でこちらを罵っているのは理解できる。
弱虫だとか卑怯者だとかそんなところだろう。
そもそも魔物と人間とは根本的な身体のスペックが違う。
まともに正面からやり合えば、こちらが敗北するのは明白だ。負けるとわかって相手の土俵に登るバカはいない。
オークキングの声を無視し、俺は指輪にはめている数々の宝具を一斉に起動させた。
すると、右手の指輪が赤、水、土、緑、黄と五色の色に輝き出す。
「お前のために用意した宝具だ。存分に味わえ」
照準を定めるように右手を差し出すと、それぞれの指輪から五色の光が放たれた。
火炎弾が着弾し、すかさず水槍が突き刺さる。地面からは土の杭が生え、風の刃が切り裂き、雷が落ちた。五属性の力を宿した宝具の砲火にオークキングの体はあっという間に見えなくなった。それでも俺は宝具を止めることなく、五属性の光を放ち続ける。
オークの体は頑丈な上に微弱ながら再生能力まで有している。
キングにまでなるとその再生能力はかなりのものなので、攻撃を加えるならば徹底的にやらなければ意味はない。
二分ほど宝具を放ち続けたところで指輪の光が弱まってきた。
「……そろそろ宝具の魔力が切れるか」
一度攻撃を中止すると、土煙の中から岩石が飛来してきた。
俺は慌てて左指にある【結界指輪 】を起動させて岩石を弾いた。
煙が晴れると、オークキングが目を真っ赤に血走らせながらこちらを睨みつけている。
宝具の砲火によって纏っていた防具は壊れ、露出した黒い肌のあちこちで出血していた。
しかし、それらの傷は持ち前の再生力ですぐに癒えていく。
鎧を破壊し、確かなダメージは与えられたが命を刈り取るまではいかないようだ。
「この程度の宝具では仕留めきれんか」
先程の宝具は戦闘を意識して、属性攻撃力と連射性に特化したものであり、威力は高い方ではない。やはりオークキングを仕留めるには、もっと威力の強い宝具がいるようだ。
一撃で仕留められそうな宝具はいくつかあるが、使ってしまうと魔力の充填に半年から一年ほどかかってしまう。
高位の魔法使いに魔力チャージを頼んだとしても出費がバカにならない。
オークキングの魔石や素材を買い取ってもらったとしても回収できるものではない。
明らかに赤字だ。さすがにこの程度の魔物を相手に赤字を出したくはない。
「少しは身体を動かすとするか」
赤字を出したくなければ、自分で穴埋めすればいい。
ここのところあまり外に出ておらず、弱い魔物としか戦っていなかった。
久しぶりにしっかり運動するとしよう。
宝具での戦闘は力の強い宝具がすべてじゃないからな。
俺は剣を引き抜くと、何もない空中を蹴って接近。
オークキングは上段から肉斬包丁を振るってくるが、俺は空中を横に蹴った。
急激な動作の変更にオークキングは対処することができず、俺の剣はがら空きとなった脇腹を捉えた。
「硬いな」
まるで分厚いタイヤでも斬りつけたような感触だ。
斬りつけられた脇腹には、裂傷が刻まれているもすぐに癒えてしまう。
刀身を魔力で強化し、斬撃性能を上げていてこれだ。
キングを称する魔物だけあって、そこらの魔物とはスペックが桁違いだな。
やはり、ただの剣では到底致命傷を与えることはできない。だったら別の手段を加えればいい。
俺はマジックバッグから茨を引き抜くと、それをオークキングの足元へ放り投げた。
オークキングは投げられたものを回避しようと足を一歩引くが、茨は蛇のように動き出して足へと絡みついた。
「ッ!?」
オークキングの注意が足元へいっている隙に、俺は剣を振るった。
それはオークキングの左腕に軽い裂傷を刻んだ。
――だが、それだけで十分だ。
次の瞬間、オークキングの足に絡みついていた茨が急成長し、鋭い刺が体を穿っていく。
「フゴオオオオッ!?」
傷みにオークキングが悲鳴を上げた。
これは【痛哭の茨】という宝具による自動攻撃。使用者が対象者に攻撃を与える度に茨が急成長し、対象者に攻撃を与えるのだ。
それがたとえどんなに小さな傷であろうと、茨が反応して攻撃を加えてくれるので非常に楽だ。頑丈で再生力の高い魔物を相手にするにはうってつけの宝具だな。
オークキングは足元に絡みついた茨を取り除こうとするが、茨を掴むことはできない。
「無駄だ。その茨からは逃れることができない」
その茨は魔力で出来ており、掴むことはできない。
茨から逃れるには使用者である、俺を倒さないと不可能だ。
そのことをオークキングも悟ったのか、肉斬包丁を猛全と振るってくる。
俺はオークキングの挙動をじっくりと観察しながら回避。
その速さと威力こそ脅威であるが、そこには洗練された技も駆け引きもない。
なまじその身体能力だけで生き残ることができたので、磨き抜かれることがなかったのだろう。
俺は相手の攻撃を回避すると、隙が出来たところで刃を走らせる。
威力がなくても問題ない。少しでも攻撃が加われば、宝具が自動的に起動する。
その度にオークキングは血を流す。
相手は大振りで攻撃をしてくるのに対し、こちらはできるだけ隙を出さない一撃離脱。
無理な一撃を与える必要はない。宝具が勝手にやってくれる。
剣を突き出す。
すると、オークキングは攻撃を食らいにくるような形で前に出て、肉斬包丁を振りかざしてきた。
自身の頑丈さを利用し、攻撃を受け入れながらのカウンター。
剣を突き出しているために通常なら動作を変えることはできないが、【空靴】を起動すれば予備動作無しでの急制動が可能となる。
オークキングの巨腕を潜り抜けた俺は、そのまま後ろに回って背中を斬りつけた。
【空靴】による立体的な俺の回避運動にオークキングはすっかりと翻弄されており、手も足も出ない。
小さな攻撃を重ねる度に茨は成長していき、オークキングの体の動きを阻害する。
動きが阻害されれば、隙も多くなって楽に攻撃を与えることができる。
さらに茨は成長し、傷が傷を広げてさらなる出血を生みだしていく。
こちらとしては楽な循環だが、相手からすれば地獄のような循環だろうな。
だからといって同情したり手を止めることはない。
俺は淡々とオークキングに攻撃を加えていく。
気が付けば、オークキングの体は血塗れになっており、自己再生も止まっていた。
度重なる攻撃に自己再生も底をついたらしい。
あくまでオークは強い自己再生を有しているだけで、不死身な存在であるわけではない。
何事にも限界はある。
ここらで留めだな。
荒い息を漏らしながら膝をついたところ俺は剣を手にして近づいていく。
「フゴオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「なっ!」
すると、オークキングは最後の力を振り絞ったのか、急に立ち上がって肉斬包丁を振り下ろしてきた。
その予想外の動きに俺は対応できず、脳天から真っ二つに割られてしまった。
そんな光景を目にしてオークキングが笑みを浮かべた。
獲物を仕留めたと思い込んだこその愉悦。
「残念ながらそれは幻影だ」
その空白を利用して後ろに回り込んだ俺は、オークキングの後頭部に剣を突き刺した。
頭蓋と脳を破壊されたオークキングにその言葉が届いたかは定かではないが、別に届こうが届いてなくてもどうでもいい。
「言っただろう。真正面からの勝負に付き合うつもりはないと」
【欺く光影】……幻影を映し出すことのできる宝具だ。
真正面から使ってしまえば容易に見破ることができるが、相手を騙して仕留めたと思い込んでいたオークキングに効果はてきめんだったようだ。
念のため剣を捻じり、しっかりと脳を破壊してから剣を引き抜いた。
剣を振り払って血糊を飛ばすと、オークキングが前のめりに倒れる。
今度こそ完全に死亡したことを確認すると、オークキングに絡まっている【痛哭の茨】に魔力を流す。
すると、体に絡みついていた茨は小さくなって、あっという間に体から剥がれた。
【マジックバッグ】を構えると【痛哭の茨】はシュルシュルと茨をくねらせて戻った。まるで蛇みたいだな。
宝具の回収を済ませると、オークキングの背中にナイフを突き立てる。
死亡して時間が経過した魔石には魔力の淀みが入りやすいので、討伐したらすぐに魔石を回収しないといけない。
一息つきたいところだが、先に素材の回収をしておかないとな。労働の価値が下がる。
「大きさも魔力の純度も申し分ない」
太陽に透かして見ると、綺麗な輝きを放っている。
内包されている魔力の質も高い。
これなら冒険者ギルドも高く買い取ってくれるだろうし、魔道具に使用してもいいだろう。
久しぶりにたくさんの宝具を使用したが、怠惰な杖以外は魔力チャージに時間がかかるものではない。
破損した装備はなに一つないし、良質な魔石も手に入った。
今回の戦闘は黒字だな。
俺はオークキングの遺骸をマジックバッグに収納する。
陥没した地面にはたくさんのハイオークとオークの遺骸があるが、【怠惰な杖】のせいで遺骸がぐしゃぐしゃな上に地中深くに埋まっている。
さすがに一人で素材を採取するのは面倒だ。大きな利益となる魔石も潰れてしまっているだろうし。
俺は宝具による火魔法を発動すると、地中に埋まっている遺骸を焼き払うことにした。
適当に放置してアンデッド化でもされたら困るからな。
宝具で炎を鎮火させ、洞窟の中に他のオークがいないかを確認すると、俺はエイトたちと合流するべく踵を返した。
新作はじめました。
『異世界ではじめるキャンピングカー生活〜固有スキル【車両召喚】はとても有用でした〜』
異世界でキャンピングカー生活を送る話です。
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