独身貴族は単身でオークキングと対峙する
緊急依頼に参加することになった俺はエイトをはじめとする王都の冒険者たちと共に東の森にやってきた。
「ジルクさん、顔色が悪いけど大丈夫?」
「誰かと足並みをそろえることにストレスを感じているだけだ」
「そんなに苦痛なの!?」
「ああ」
本当は独神の加護のせいで身体能力が落ちているだけだ。あの神の判定ではこうやって他人と一緒に行軍するだけでも減衰の対象になるようだ。
まあ、こいつらと離れて行動をすれば、減衰もなくなるので問題ない。
「エイト、これを渡しておく」
「これは?」
「【共鳴輪】という宝具だ。腕輪に魔力を流すと、共鳴して互いの腕輪に振動がいくようになっている」
今回の作戦は俺一人がキングの巣穴を壊滅し、エイトをはじめとする王都の冒険者たちがジェネラルの棲息する三つの巣穴を確固撃破することになっている。
面倒なのは相手が一点に集中して総力戦になることだ。そうならないためにタイミングを合わせて、それぞれが巣穴に奇襲を仕掛ける必要がある。これはそのタイミングを合わせるための宝具だ。
「めちゃくちゃ便利だな!」
「ちなみに腕輪一つで二千万ソーロだ。絶対に破損はさせるなよ?」
「カレン持っておいてくれ」
「……すごく嫌なんだけど」
「私たちは前衛だから後衛のカレンが持つ方が安心でしょう?」
「……もっともらしく言ってるけど、絶対に持ちたくないだけよね?」
カレンがそう言うと、エイト、マリエラ、ガウェインは一斉に視線を逸らした。
とてもいいパーティーじゃないか。
「……魔法を打ち上げるんじゃダメ?」
「オークたちに気付かれたら奇襲の意味がないだろう」
狼煙や魔法を打ち上げるのが一般的だが、それじゃ相手にも気配を気取られる可能性も高い。
しかし、この宝具は魔力を発することもなく、どれだけ距離が離れていようとほとんどタイムラグ無しで振動してくれる。奇襲の効果を高めるためには使わない手はないだろう。
「わかった。他のリーダーにも注意して持ってもらうよ」
「厳重にな。準備が整ったら魔力を流せ」
冒険者はどうも荒っぽい奴らが多いからな。エイトには念を押しておく。
「俺はそろそろ行く」
キングの巣穴は北の山脈の麓と、ジェネラルの守護している巣穴よりも遠い。
早めにたどり着いておかなければ、エイトたちを待たせてしまうことになる。
それにエイトたちと一緒にいると、独神の加護のせいか頭痛や倦怠感がするからな。一刻も早くこの場を離れたい。
「くれぐれも討ち漏らしはするなよ?」
「そっちこそ。キングが倒せないなんて泣き言は吐くんじゃねえぞ」
エイトとそのような軽口を叩き合うと、俺は一人先行して森の奥深くへと進むのだった。
●
【擬態外套】で一人オークの巡回を潜り抜けた俺は、オークキングが住処としている山脈の麓にまでやってきた。
入り口には武装したハイオークが立っており、中の様子を伺うことはできない。
ハイオークやオークが他に何体いるかはわからないが、迂闊に探ろうとすればキングに感知される危険がある。ぶっつけ本番で対処するしかないだろうな。
巣穴の様子を窺っていると、右腕にはめている腕輪が三回目の振動を告げた。
これでエイトをはじめとする他の冒険者の準備が整ったようだ。
これで俺のタイミングで一斉に攻撃が仕掛けられるわけだな。
準備が整ったのなら遠慮はいらない。
俺は腕輪に魔力を鳴らして、奇襲の合図を伝えると、【擬態外套】を羽織ったまま巣穴の入り口へと近づいていく。
ハイオークの目の前までやってくるが、姿が見えないせいか相手は何も反応しない。
俺は素早く外套を脱ぎ去ると、そのままハイオークの懐に潜り込んで首を斬りつけた。
「フゴオオッ!?」
二体のハイオークはくぐもった悲鳴を漏らしながら地面に倒れた。
「ブオオオオオオオオオオオオオッ!」
次の瞬間、巣穴の中から雄叫びが上がった。
あまりの音量に周囲の幹に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立っていく。
雄叫びが止むと、巣穴の中からドスドスという重低音が響いてくる。
「一本道から素直にやってくれるなら好都合だ」
俺は出てきたのが何かを確かめることもせず、マジックバッグから取り出した槍を投擲した。
しかし、それは肉斬包丁によって弾かれた。
「さすがにこの程度の攻撃を食らうわけがないか」
巣穴を出るタイミングが一番の隙となる。先手を取られている相手が警戒しないはずがないか。
巣穴からオークキングが姿を現す。
三メートル近くある巨体に黒い肌をした豚頭をした魔物。上半身を覆うように防具を纏っており、右手には巨大な肉斬包丁が握られている。濃密な魔力を纏っており、外敵である俺に向けて凶悪な目つきで睨んできている。
駆け出しの冒険者であれば、この殺気と魔力に呑み込まれて身動き一つとれなくなってしまうほどの迫力だ。
しかし、俺はBランク冒険者だ。魔道具の素材を採取するために魔物と対峙したことはあるし、宝具を手に入れるためにダンジョンにだって潜ったことがある。この程度の魔物を相手に臆することはない。
オークキングがこちらを見据えながら弾いた槍を拾い上げようとする。
しかし、それは手中に収まることなく、ひとりで動いて俺の手中に収まった。
「それは俺の宝具だ。勝手に触るな」
こちらの言葉を理解しているのかは不明だが、オークキングがわかりやすく苛立った表情を浮かべた。
これは【投擲槍】といった宝具で使用者としての登録をしておけば、手元から離れても勝手に戻ってくる便利な槍だ。外れても失う心配はないし、相手に奪われる心配も不要なので使い勝手がとてもいい。
ただ特別な攻撃力が付与されているわけではないので、オークキングのような魔物が相手では牽制にしかならないだろうな。
こちらに気付かないようであれば、このまま奇襲を繰り返してオークたちの数を減らそうと考えたがそうは甘くないか。先ほどの物音と血臭で敵襲だと気付いたようだ。
「フゴオオオオオオッ!」
オークキングが顔の脂肪を震わせながら雄叫びを上げると、巣穴から大量のオークとハイオークたちが姿を現した。
ざっと見ただけで三十体以上はいる。
本拠地としている巣穴だけあって、控えているオークの数が多いな。
まあ、いくら数を寄越そうが宝具の前では無力だ。
「【怠惰な杖】広域解放」
俺は【マジックバッグ】から新たなる宝具を取り出すと、発動キーワードを唱えた。
先端にある紫宝玉が輝くと、超重力が発動。
一斉にこちらへと近づいてきたオークとハイオークたちが地面に沈んでいく。
高出力で放たれた重力はオークやハイオークであっても身動き一つ取ることはできない。地面に蜘蛛の巣状の亀裂が入る中、さらに加重を加えていくとオークたちの体からバキバキとへし折れる音が響き、あちこちで血しぶきが舞った。
「これで雑魚は片付いたな」
先日、ギルドに絡んできた冒険者を相手にした時は殺さないよう加減に苦労したが、今回は加減をする必要がないので楽だったな。
ふと杖を確認すると、先端にある宝玉が輝きを失っていた。
「もう魔力切れか」
かなり広域な上に高出力で力を使ったせいで、一回で魔力切れになってしまった。
再使用するには魔力の充填が必要なので、今回の戦闘ではもう使えないな。
【怠惰な杖】は雑魚狩りにとても便利なのだが、如何せん魔力の消耗が激しいのが難点だな。
さて、雑魚がいなくなって相手はどう出るか。
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