独身貴族は冒険者ギルドに顔を出す
ナルシスとの食事を終えた翌朝。
「今日は写真を撮りに行くか」
爽快な目覚めを迎え、天気がいいことを確認した俺は本日の休暇を決めた。
ここ最近はクーラーの製作ばかりで王都にこもりっきりだった。
趣味である日帰りキャンプにも行っていないし、昨日写真についての話をしたせいか無性に写真を撮りに行きたくて仕方がなかった。
とはいえ、何も告げぬままに欠勤しては工房にいらぬ混乱を与えるので、休暇を伝えるために工房に寄ることにした。
「おはようございます、ジルクさん」
「ああ」
扉を開けると、入り口にある花瓶を掃除していたイスカが挨拶をしてきた。
「昨夜はお忙しい中、父とお会いしていただきありがとうございます。父もとても喜んでおりました」
「お陰でこちらも有意義な話ができた。段取りをしてくれたことに礼を言う」
というより、俺に声をかけるために入り口付近で待機していたみたいだな。
相変わらず真面目な奴だ。
「おはようございます、ジルクさん。今日はいつもと格好が違いますね?」
サーシャや新人の二人が入ってからは外に出ていなかったので、いつものスーツとは違った服装が珍しいようだ。
「今日は外に出るからな」
「そういえば、ジルクさんは冒険者でもありましたね。ルージュさんから聞いていたのですが、魔道具師としてのイメージが強いので忘れていました」
「冒険者はあくまで副業だからな」
副業のイメージが強くては魔道具師として困る。
「副業でBランクになって、Sランクの魔物も倒せるなんですごいですね」
「魔道具師になれるほどの魔力制御技術があれば、それなりの位置にはいけるものだ」
「へえー、そうなんですか!」
パレットが感心したような声を上げた。
「つまり、それほど魔力制御は重要だということだ」
魔力制御が上手ければ、効率的な身体強化ができ、効率的な魔法運用ができる。
それらの技能があるだけで、そこらの冒険者とは一線を画す技能を獲得していると言えるだろう。
「魔力制御の訓練を続けているな?」
「はい、続けています」
「ならいい」
パレットとイスカが揃って頷いたところで、ルージュが出勤してくる。
「そういうわけで俺は今日休む。ここに加工した素材をいくつか置いておく。各自やるべき作業を進めておいてくれ」
「わかりました」
マジックバッグから素材を取り出し、各々から返事の声が上がったことを確認した俺は工房を出た。
「ギルドに顔を出しておくか」
ここ最近は外に出ていなかったからな。王都周辺の環境を確認するためにも依頼を確認しておいた方がいいだろう。
そんなわけで工房から直接外には向かわず、中央区にある冒険者ギルドに向かうことにした。
ギルドにやってくると、いつもは解放されている二枚扉が閉め切られていた。
もしかして、ギルドが営業をしていないのか?
だが、俺が王都にやってきて冒険者が営業をしていない日など見たことがない。
試しに扉を開けてみると、ギルドは普通に営業していた。
ただ異様なほどに冒険者の数が多い。
「なんだこの人の多さは……」
「おい! そこのお前、早く扉を閉めろ! 冷気が逃げるだろ!」
いつもとは違う光景に呆然としていると、酒場の入り口近くに腰かけている男に怒鳴られた。
無言で扉を閉めると、微かにだがギルドの中がヒンヤリとしている気がした。
本当に微妙にだが。
にしても、この人数の多さが気になる。特別な依頼でもあっただろうか?
比較的ランクの低い魔物が大量発生などをすると、冒険者たちは報酬を目当てに参加してお祭り騒ぎになることがある。
しかし、目の前に広がっている光景ではそのようなお祭りのような雰囲気は感じられなかった。
「おい、これはどうなってるんだ?」
ギルド内の人数が多く、あまりにも不気味なので近くにいる受付嬢に尋ねた。
「前日ようやくギルドにもクーラーが届きまして、冒険者の皆さんが涼みにきてるんです」
「涼みにきてるだと?」
「魔道具だけあってクーラーはとても高く、誰でも買えるわけではありませんから」
受付嬢の口ぶりからして、これは今日だけでなく連日のようだ。
理屈はわかるが、なんと迷惑な奴等だろう。
ギルドに来るたびにこんなにも人で溢れていれば辟易としてしまう。
「依頼を受けない奴は追い出せ。邪魔だ」
「……冒険者の皆さんも一応は酒場で注文をされているので無下にもできないのです」
受付嬢の言う通り、酒場に居座っている奴等を見ると、全員がなにかしらの飲み物や料理を注文していた。
中には安いエール一杯で粘っている奴等もいる。まるで深夜のファミレスのようだ。
「いっそのことクーラーを撤去したらどうだ?」
「そんなことをすれば、暴動が起きてしまいますよ! それに私も困ります!」
なんてことを言っているが、職員たちの本音は後半部分にありそうだ。
一度でもクーラーの恩恵を知ってしまえば、クーラーの無い状態には戻ることは難しいのだろう。
「あの、ジルクさん。相談があるのですが、いいですか?」
「想像はつくが一応は聞いておこう」
「ギルドに特別にクーラーを卸してもらうこととかって――」
「できんな」
「ですよねー」
一縷の希望も見せることなく断ると、受付嬢はガックリと肩を落とした。
後ろで見守っている職員たちが「負けるな」「もっとガンガンいけ」「色目を使え」などと無責任な言葉を投げかけている。
この受付嬢も可哀想だな。
あくまでギルドは依頼の仲介所であって中立だ。大してお世話になっている覚えもないので特別な配慮をする義理もないだろう。
「おい、今の奴ジルクって呼ばれてなかったか?」
「ジルク? もしかして、あいつがジルク=ルーレンか?」
「クーラーを使った魔道具師か!?」
一人、二人の呟きがあっという間に伝播してギルドの中に広がった。
冒険者たちの視線が刺さって鬱陶しい。
そんな中、一人の強面の冒険者がテーブルに酒杯を叩きつけて叫んだ。
「おい、ジルクさんよ! ちょっとクーラーっていうのが高すぎるんじゃねえか!?」
「そうだそうだ! 俺たち平民の気持ちも考えろ!」
「知るか」
魔道具は高級品だ。高いのは当然だ。
冒険者たちの甘ったれた言葉を一蹴してやると、さらに大きな怒声が飛んでくるようになった。
……ここは動物園か。
「クーラーが欲しいのであれば、自分で稼いで手に入れるくらいの気概を見せろ」
「ジルクさんの言う通りですよ! クーラーが欲しければ、依頼を受けてお金を稼いでくださーい!」
「そんな正論は聞きたくねえ!」
「俺たちは楽してクーラーを手に入れたいんだ!」
俺の言葉に便乗して受付嬢が言うと、冒険者たちは揃って両耳を塞いでテーブルに突っ伏した。
本当にどうしようもない奴等だ。
いや、こんなどうしようもない奴等だからこそ、ここでたむろしているんだろうな。
よく見れば、高位のランクの冒険者はほとんどいない。向上心の高い奴等はクーラーを買うために依頼を受けているのだろう。こいつらも見習えばいいものを。
新作はじめました。
『異世界ではじめるキャンピングカー生活〜固有スキル【車両召喚】はとても有用でした〜』
異世界でキャンピングカー生活を送る話です。
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