独身貴族は嘆息する
「ジルクさん、新人の準備が整いました」
二時間ほど経過すると、トリスタンが報告にやってくる。
後ろにはパレットやイスカも並んで立っている。
トリスタンのデスクの両隣には新しいデスクが設置されており、魔道具作りの道具や事務用品が置かれていた。
賑やかに会話しながら移動する様子も見えていたし、工房案内も一通り終えたということだろう。
チラリと新人に視線をやると、やや緊張した面持ちを浮かべている。
「まずは新人たちの実力を確かめる。氷魔石と風魔石の加工をやってみろ。魔力を均一にな」
「「わかりました!」」
そのように伝えると、パレットとイスカが返事して頷く。
どの程度使えるのかわからなければ、仕事を振ることもできない。
まずはどのくらいやれるのか見極める作業が必要だ。
期待はしていないがルーレン家の工房で働いていたんだ。魔石の加工くらいできるだろう。
そう思ってトリスタンに監督させながら、自分の作業を進める。
しかし、数十分が経過しようが全く加工した魔石が上がってこない。おかしい。
トリスタンであれば五つは上げてくる。あいつほどの腕がなくても三つくらいの加工は終わっているはずだ。
「おい、纏めて見せるつもりか? 新人の実力を確認するためだ。一つ加工が終わったのなら早く見せろ」
「あ、いや。それが……」
じれったくなった俺が確認しに向かうと、トリスタンが歯切れの悪い顔をしながらごにょごにょと言う。
「できました!」
ハッキリとした報告を求めようとすると、パレットがそんな声を漏らした。
「見てください、ジルクさん! 氷魔石の加工ができました!」
額に浮かんだ汗を拭いながら晴れ晴れと言うパレット。
「こちらもできました」
パレットより遅れて、イスカが振り返りながら報告してくる。
二人の手の平には加工されたと思わしく氷魔石がたった一つだけ。傍には未加工の氷魔石が高く積まれている。
「……これだけ時間をかけてたった一つか?」
「「え」」
そんなことを言われるとは思ってなかったというような顔を見て、俺はため息を吐いた。
「まあいい。とりあえず、魔石を見せろ」
「は、はい」
加工スピードが遅いのは致命的ではあるが、しっかりと加工さえできていれば問題はない。
そう思って二人から受け取った氷魔石を確認する。
「論外だ。まったく使いものにならん」
「それは具体的にどの辺りがです?」
「一目見ればわかるだろう。魔力の均一化がまったくできていない」
「しかし、我々の魔力加工である程度ムラは抑えられているはずです」
イスカの主張にうんざりとする。そんな舐めた基準で仕事をやっているのかと。
「ある程度だと? 俺は魔力を均一にしろと言ったはずだ」
「でも、たでさえコントロールが難しい氷魔石を完全に均一化にするなんて不可能です」
などとバカなことをほざくパレットの前で、俺は受け取った氷魔石の一つをトリスタンに渡す。自分の手に残った一つには魔力を流して均一化させた。
「不可能なわけないだろうが。現にこうしてできている」
受け取った氷魔石は魔力加工が歪で濁った色合いをしていたが、きちんと加工処理がされた魔石は澄み渡った色をしていた。
「そ、そんな! ただでさえ加工の難しい氷魔石の魔力が、こんな一瞬で……ッ!」
「魔力のムラや淀みなんて一切ない。本当に均一化されている! なんて綺麗な色なんだ」
「まるで宝石みたい」
均一化された氷魔石を見てうっとりとしているイスカとパレット。
頬ずりしそうな勢いで怖い。
あくまで魔石は魔道具のための素材でしかないだろうが。
「ふう、ようやくできました」
「トリスタン先輩もすごい!」
「こちらも美しいです」
遅れて見せたトリスタンの加工魔石を見て、二人が驚く。
「加工が遅い。トリスタン」
「歪に加工されていたので、それを解くのに手間取りました……」
「それでも時間がかかり過ぎだ」
「ジルクさんが早すぎるんですよ」
歪な処理のせいで手間はかかるが、それでもこの程度の作業はもっと早くしてもらわないと困る。
「うちが求める魔力加工はこのレベルだが、お前たちにできるか?」
「で、できません」
「申し訳ありません」
魔石を示しながら尋ねると、パレットとイスカはそっと目を伏せた。
「でも、こんなのルーレン家の工房では教えてもらっていませんでした!」
しかし、次の瞬間、パレットはそのように開き直った。
イスカは口に出して反論こそしていないが、顔には不満が出ており、同じような意見を持っているのが見え透いた。技量不足だけならともかく、考えの甘さに嘆息する。
「工房は仕事場であって手取り足取り教えてくれる学校ではない。教えてもらおうなどと高慢で怠惰な態度で成長できると思うな」
「「…………」」
ただでさえルーレン家の工房は大量の従業員を抱えている。
俺の両親やアルト、イリア、フィーベルと優秀な魔道具師はあるが、彼らには彼らにしかできない仕事があり、全員の面倒を見切れるわけではない。
そのような環境下で上達するには、自分よりも少しでも技量が上のものから技術を盗み、自分で昇華させていく思考と行動力が必要だ。
それなのにコイツらはルーレン家の工房を学校かなにかのように勘違いし、ロクな努力もしていない癖に工房のせいにしている。
新人の考えの甘さに反吐が出そうだ。
「魔石の加工すらできないのであれば話にならん。クーラーの販売日までにここまでに仕上げろ」
「そ、そんな!」
「俺たちのように早く加工しろとは言わない。時間をかけても構わないから一つでもできるようになれ。それを雇用試験とし、期日以内にできなければ、ルーレン家の工房に送り返す」
「ジルク、さすがにそれは厳しすぎるんじゃないの? せっかくアルトさんが紹介してくれた人たちなんだし……」
ルージュが諫めにくるがここばかりは譲れない。
役に立たない者を工房に置いておく気はないのだ。
「優秀な人材ならともかく、使えない人材を雇う余裕も意味もない」
「……わ、わかりました」
「販売日までにこれと同じ魔石を作ってみせます」
「トリスタンの作業を手伝いながら励め」
俺がそう言うと、新人たちは頭を下げてすごすごと下がっていった。
それを見て思わずため息をつきたくなる。
ルージュやトリスタンの言ったように、期待しないでおいてよかった。
もし、新人を宛てにして大胆な生産戦略などしようものなら、とんでもない失敗をするところだ。
やはり他人には期待するべきではない。頼りになる自分一人の力だけだ。
新作はじめました。
【魔物喰らいの冒険者】
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冒険者のルードが【状態異常無効化】スキルを駆使して、魔物を喰らって、スキルを手に入れて、強くなる物語です。




