表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
独身貴族は異世界を謳歌する~結婚しない男の優雅なおひとりさまライフ~  作者: 錬金王
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/157

独身貴族は根回しを面倒くさがる


「ただいま!」


 夕方になると外回りに出ていたルージュが工房に戻ってきた。


「おお、これがクーラーってやつの涼しさか! すげえな!」


「……涼しい」


「ここは天国だな」


 ルージュの後ろからずいっとやって来たのはバイスをはじめとする、魔道具店のおやじたちだ。


 お得意様周りを終えて、今度は魔道具店のおやじたちに説明してきたのだろう。


 工房の中にむさ苦しいおやじたちが入ってきたせいで、室温が五度くらい上がったような錯覚に囚われた。


「どうしてバイスたちがいる?」


「クーラーの素晴らしさを知ってもらうには、やっぱり体感してもらうのが一番だからね」


 実物があるのであれば、見せた方が手っ取り早いということか。


「そうか。もう既に味わっただろう。バイスたちは帰れ。暑苦しい」


 ぞろぞろと大勢の人がいると気が散って仕方がない。


「おめえ、それがお得意様に対する態度か。冷たいお茶くらい出したらどうなんだ?」


「生憎とうちは工房であって喫茶店じゃないんでな」


 ここは冷たい飲み物を提供する場所ではないし、そもそも来客の対応は俺の仕事ではない。


「すみません。気が利かなくて。トリスタン、お茶を用意してくれる?」


「はーい」


 ルージュに声をかけられて、トリスタンが作業を中断して動き出す。


「涼しい場所で冷たいお茶。最高だな」


「これだけ快適だとエールが呑みたくなるな」


「ルージュちゃん、冷たいエールも頼む!」


「うちは飲み屋じゃないので、ありません」


 ルージュにバッサリと斬り捨てられて、おやじ共は嬉しそうに笑う。


 返答の意味自体は俺がバイスに返したものと変わらないんだがな。


「ごめんね。騒がしくしちゃって」


「営業には実物を見せるのが手っ取り早いからな。仕方がないだろう」


「ありがとう。それでクーラーなんだけど、追加の分はどのくらいできてる? できればバイスさんたちにも試作品を使ってみてもらいたいんだけど……」


「中型を十台。小型を五台作って二階に置いてある」


「さっすがジルク! 仕事が早いわね!」


 完成数を報告すると、ルージュが嬉しそうに背中を叩いてくる。


「あれだけお膳立てされれば誰だって作れるだろ」


 トリスタンを早めに出勤させて素材を加工し、俺が組み立てに専念できるように整えられていた。


 クーラーに関する素材は前もって発注していたのか、素材は倉庫に潤沢にある。


 俺は一切の下処理や雑事に煩わされることなく、クーラーを作り上げることに専念するだけだった。


 これだけ環境を整えられれば、誰だってある程度の数は作れるだろう。


「そんなわけないでしょ。そもそも普通の魔道具師は一日に何十個も魔道具なんて作れないから」


「単純に魔力が少ないとたくさん作れませんし、魔石の調節や繊細な魔力回路の調整。よくずっと集中していられますよね」


「魔力に関しては幼い頃から使い続ければ、自然と増大して制御も習熟する。魔道具なんて一度作ってしまえば、同じものを再現するのは容易いだろうが」


 などと主張すると、ルージュとトリスタンは呆れたようにため息を吐いた。


 俺の考え方がずれているのだろうか? 


 ここ最近は他の魔道具師の作業を見ていないせいか、一般的な魔道具師の作業ペースというものがわからないな。


「まあ、いいわ。それじゃあ、完成させたものをバイスさんたちに渡してくるわね」


「待て。クーラーを置いてあるのは二階だぞ?」


「バイスさんたちに運んでもらうわ」


「作業部屋だぞ? あそこに部外者を入れるわけにはいかんだろ」


 一階の作業デスクにはパーテーションを設置しているし、機密書類なんかもそれほど置いてはいな

い。


 しかし、二階の作業部屋には設計図や製作途中の魔道具が剝き出しで置かれていたりと、客人の目に触れられると困るものも多いのだ。


「あ、そうだったわね。それじゃあ、トリスタンに廊下まで出してもらって……」


「いや、俺がやろう」


「いいの?」


「マジックバッグを使えばすぐだし、大した手間じゃないからな」


「うえええっ! そんないい方法があるなら言ってくださいよ! 大型クーラーを二階から下ろした俺が馬鹿みたいじゃないですか!」


「気付かない、トリスタンが悪い」


 それにあの時は眠くて動く気になれなかったからな。


「ごめんね。それじゃあ、お願いするわ」


 素直にルージュが頷くのを確認して、俺は二階にある作業部屋へ。


 そこに置いてあるクーラーをすべてマジックバッグに収納し、一階へと降りると空いているスペースに取り出した。


「これが中型サイズか! これなら俺の店でも邪魔にならず置けそうだぜ!」


「小型サイズもいい感じだ。ちょっとした事務スペースに設置するだけで、夏の仕事が楽になりそうだ」


 中型と小型のクーラーを見てがやがやと騒ぎ始めるバイスたち。


 それを横目に俺は昼間に作成した資料をルージュに渡す。


「これは?」


「中型と小型の大まかな性能データと注意点だ。検証する際に参考にしろ」


 纏めてあるのは今朝、トリスタンに話したクーラーの影響範囲や特性、それに建築素材との関連性などについてだ。


「あ、ありがとう。すごく助かるわ!」


 資料を受け取ったルージュは喜んで目を通し始めた。


 しかし、次第に資料から視線がそれでチラリと伺うようにこちらに視線を向ける。


 何か言いたそうな顔だ。


「なんだ? 人の顔をじろじろと見て」


「いえ、ジルクがここまで手伝ってくれるとは思わなかったから。ちょっと驚いて」


「俺は俺がやるべき仕事を果たしているだけだ」


 クーラーについては設計者である俺が一番に知っている。


 営業を担当するルージュに詳細を伝え、共有するのは当然のことだ。


 それをせずに営業させるのは、組織の一員としての責務を果たしていないということになるだろう。


 俺が関知する必要のないところには関わらないが、やるべき責務は果たすのは当然だ。


「そう。ありがとね」


 俺がそのように言うと、ルージュは嬉しそうに笑ってバイスたちのところに戻っていった。


 ルージュのどこか含みのある笑い方に妙に気になるが、気にしても無駄だ。


 騒がしさから二階の作業部屋に撤退した俺は、一人静かにクーラーを作り続けた。




 ●




 室内が随分と暗くなっていることに気付いた。


 窓の外を眺めると、既に太陽は沈んでおりすっかりと空は闇色に染まっていた。


 一階ではバイスたちがおり騒がしくしていたようだが、賑やかな声は聞こえてこない。


「そろそろ帰るか……」


 クーラー作りに夢中になっていたせいか、いつもより遅くまで作業をしてしまった。


 中型クーラー二台と小型クーラーを三台。


 今日だけでクーラーを二十台作ってしまったな。


 一日の作業ペースとしては悪くない方だろう。


 身体を軽くほぐした俺は一階へと降りていく。


 一階の作業部屋では魔力灯がついており、ルージュがデスクで黙々と作業をしていた。


「……まだいたのか」


「ええ、販売までにやることはいっぱいあるから」


 ルージュはクーラーについての仕様を外部に伝えられる範囲で取捨選択して資料として纏めているようだ。


「お前の家には旦那と子供がいるのだろう? 早く帰らなくていいのか?」


 販売のためとはいえ、家族のことを第一にしているルージュが遅くまで残っていると心配になる。


「なに? 心配してくれるの?」


「従業員が過労では倒れられたりでもしたら、工房長である俺が非難されるからな」


「ひっどい心配理由ね。大丈夫。旦那にはちゃんと事情を伝えてあるし、子供の面倒は母さんと父さんが見てくれているから」


 苦笑いしながら語るルージュ。


 どうやら家族はルージュの仕事状況を理解し、それを応援するべく動いてくれているようだ。


「そうか。それならいい。くれぐれも身体は壊すなよ」


「ええ、わかってるわ。あたしが倒れたら、クーラーの販売は来年になっちゃうもの。無理はしないから」


 倒れられる方が工房としての損失はデカいからな。そのこともルージュも十分にわかっているらしく、しっかりと頷いた。


 わかってるのならばいい。


「あっ、クーラーの試作品なんだけど、ブレンド伯爵様のところにも持って行ってもいいかしら?」


「問題ないだろう」


 アルバートなら試作品でも嫌がらず、喜んで使ってくれそうだ。


「それと王族の方にはどうする?」


「……スルーじゃダメか?」


「冷蔵庫を販売した時に、王族の方から文句を言われたとか言ってなかった?」


「ああ、言われたな。こんな便利なものがあるなら、早く回せとかなんとか……」


 以前、冷蔵庫を販売した後に王族に呼び出されてしまった。


 なにを言われるのかと警戒していたら、前もって根回しをしてくれなかったことが不満だったらしく、くどくどと文句を言われたものだ。


 それ以降、冷蔵庫のような画期的なものを作った時は、こちらに早く回せとか言っていたな。


「クーラーは画期的な魔道具に入ると思うか?」


「間違いなく入るわね。先に見せておかないと文句を言われると思うわ」


「ならルージュが――」


「無理無理! こればっかりは無理よ! ジルクが行ってきて!」


 言葉を最後まで言い切るよりも前に、ルージュが慌てて被せてきた。


 顔色の真っ青にして身振りをしながらの拒否。


 よほど王城に向かうのが嫌らしい。


 王族からすれば平民の命なんて塵のようなもの。少しでも機嫌を損ねたり、無礼を働けば首をはねられる。そんな風に思っているのだろう。


 まあ、それくらいの権力を持っていることは間違いないが、少なくとも今の王族はそんな狭量ではないはずだ。


「営業はルージュの仕事じゃないのか?」


「工房長が行かず、平民の従業員が出向くなんて失礼過ぎるでしょ」


「ちっ……仕方がない。俺が行くことにするか」


「申し訳ないけど、そっちに関してだけは頼むわ」


 営業に関することを一手に引き受けると言っていただけに、申し訳なさそうな顔をするルージュ。


 前回、叱られたわけだし俺が顔を出さないと色々とマズい気がする。


 俺が行くことにしよう。王族の一人は俺の知り合いでもあるわけだしな。


「わかった。俺は先に上がる。戸締りはしっかりしておけ」


「ええ、お疲れさま」


 憂鬱な気持ちになりながらも俺は工房を後にするのであった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
[気になる点] ルージュにお前がやるなら勝手にやっとけ的なこと言いつつも働くのなんでなん?ツンデレ?
[一言] 熱交換の仕組みが魔石になるなら室外機がいらないのは確かに、と思いました。 ジルクのいる国の気候はわかりませんが、多湿な地域で普及した時に内部で結露した水が溜まって水を吐いたりとか起こりそうで…
[一言] 最新話まで一気読みしました。面白かったです! 我が道を行く自由人だけれど一王都民としての節度はそこそこ持っていて好感が持てます。 力押しだけではない俺強要素が面白い。 料理やお酒、作っている…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ