プロローグ
前作「塔に幽閉されていた王女が王になるまで」の続編です。前作を読んでいた方が話が分かりやすいと思いますが、一応簡単な説明を入れています。
プロローグはとある動物目線です。
※2020/11/25加筆修正をいたしました。
この国に緑が戻って来た。
足元には沢山の草が生えるようになった。
私の子どもがその草の上で元気よく駆け回っている。
風が吹くと花の匂いがどこからか飛んできた。とても良い香りだ。
遠くを見ると、もうすぐ祭りがあるのか人間達は忙しそうにしている。
だが、なんだか嬉しそうだ。
忙しいのに嬉しいだなんて人間は変だなと思った。
「おかあさま!どうですか?ぼく、こんなにはしれるようになりましたよ!」
視線を我が子に戻すと、子はぴょんぴょんと跳ねるように草原を走っているのが見えた。
「まぁ!上手に走れるようになったのね。けれど、あんまりはしゃいだら怪我しちゃうから気を付けるのよ」
「はぁい!」
子はまだ短い毛をなびかせて駆けている。
早く鬣や尾の毛が伸びた姿が見たいと思った。
「お!凄いではないか!流石我らの子だな!」
私の夫が黒い毛をなびかせて颯爽と登場した。
彼は朝から仕事に行って来たのだ。
「おとうさま、おかえりなさい!」
「うむ、今戻ったぞ」
彼は異国の出身だが今はこの国に一緒に暮らしている。
出会った後すぐに別れてしまい、とても悲しい時間をすごした。
しかし、子どもが産まれる前に再びこの国に来てくれ、そのままずっと一緒に暮らしている。
子どもが楽しそうに駆けるのを見ながら、私達は話し始めた。
「お帰りなさい。どうだった?」
「うむ、相変わらず主の番いは鈍臭かったな。多少ましにはなっていたが、まだまだだな」
彼の主は私の主の主と番いになったらしい。
なので彼の主も一緒にこの国で暮らしている。
「そうなの?」
「そうなんだ。多少大きくなっていたから、もう大丈夫かと思ったが全然駄目だな。我以外の奴じゃ乗せてやれんだろうな」
私の主の主は若い雌だ。
彼は鈍臭いと言ったが、大体の人間はそんなものだ。
私達の主達は優れた技能を持っているのでつい忘れがちだが、私達を上手く乗りこなす人間なんてそういないのだ。
「未だに我が立ったままだと背に乗れんのだ」
「あら…」
と、思ったが彼の言うとおり、私の主の主は少々運動が苦手のようだ。
確かに運動が得意そうな見た目ではないが、そんなにだったとは。
「今日も何回も…五回はやったのに出来なかった。なので台を使って我の背に乗ったのだ」
「…乗ってからはどうなの?」
「そうだな。はじめのうちは姿勢が取れているのだが、すぐに出来なくなるな」
彼はすぐにと言ったが、朝から昼前までやっていたのだから慣れていない人間しては頑張った方だろう。
「なんのおはなししてるの?」
子どもは駆けるのに飽きたのか、私達の所にやってきた。
「お父様のお仕事のお話をしていたのよ」
「えー、なにをしたんですか?」
子は目をキラキラと輝かせた。
父親の仕事が気になるのだろう。
「なに、鈍臭い人間を我の背に乗せてやっただけだ」
「どんくさい?」
「そうだ、薄い色の毛をした人間の雌だ」
「へいかってよばれているにんげんですね!」
昔へいかと呼ばれていたのは今のへいかと同じ毛の色をした人間の雄だった。
何回か近くに人間の子どもがいた記憶があるので、多分その子どもが今のへいか、主の主だ。
随分と大きくなったものだ。
「ぼくのなまえをつけてくれたのですよね!」
「ああ、そうだ。ネヴィスキオよ」
この子の額には私達と同じように白くて模様があるので霙と名付けられた。
私達の名前も考慮したと思われる。
夫の名前はアイズベルクで氷山、私の名前はネーヴェで雪という意味だ。
「かっこいい名前ね」
「うん!なんだかつよそうですね!」
去年、大勢の人間が来たときは皆驚き怯えたが、今は何不自由なく幸せに暮らせている。
皆が美味しい草を沢山食べられるし、間食も食べられる。
主にもまた会えたし、主の子どもにも会えた。
主の子どもは私にもすぐ乗れた。
見てはいないが話を聞く限り、主の主よりは上手だろう。
まだ小さいのになかなか見所がある。
「ぼくも、いつかにんげんをのせるのですよね!」
「ああ、そうだぞ。人間は臆病だが威勢を張ってくるよく分からん生き物だ。背に乗せる人間はしっかりと見極めねばならぬぞ」
「うん!」
子は元気よく答えた。
この子の時代ではどうか幸せな日々が続きますように。
次回更新は日にちが空いてしまいますが9月21日(月)になります。
※アイズベルクは王配、ネーヴェは将軍の愛馬です。