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白猫くんは撫でられたい Ver.A

作者: SchwarzeKatze

 個の世は弱肉強食。和やかに群れている雀達。悪いけど、犠牲に鳴って貰う。あの子の為に。

 僕は一番手前の雀に狙いを定めて、一気に踏み込む。

 僕の目論見通り。狙いを定めた雀は、逃げ遅れて僕の牙にかかる。僕から逃れた雀達は、安全なところから仲間が餌食に鳴ったところを見下ろしている。

「お命、頂戴!」

 僕はせめて苦しまないように、捕らえた雀の喉に牙を食い込ませる。暴れていた雀は次第に動きを止めてゆく。


 失われる命。

 それを糧にする命。

 命の代償に命は紡がれる。

 僕が生きるためには、雀は犠牲になって貰う。


 でも今日の狩りは趣旨が違う。今日はおみやげとして。あの子にご褒美の撫で撫でをしてほしいから。なんだかあの子に撫で撫でして貰うと、初めて狩りが成功したときのことを思い出す。

 優しかったお母さん。いっぱい誉めてくれた。なめて毛繕いをいっぱいしてくれた。

 でも。

 でも、僕が狩りを成功させてから程なく。お母さんは僕を嫌うようになった。僕にはなぜそうなったのか分からない。なぜそうされたのか分からない。

 その当時は。

 今は違う。

 巣立ち。僕達に与えられた運命の輪。命の輪。僕もいずれ恋をして、命をはぐくむのかも知れない。僕も命の輪を紡ぐのかも知れない。

 けど今は、あの子に撫で撫でされたい。

 僕は気楽な猫。毛皮が白だから、狩りが下手な猫。

 獲物を捕まえて、あの子にプレゼントするんだ。あの子にもおなかいっぱい食べてほしいから。ちょっと細ってて僕は心配。だからもっといっぱい食べてほしい。プレゼントを受け取ってほしい。

 この間は鼠をプレゼントしたけど、あの子は驚いて逃げてしまったから。きっと鼠は好みでは無かったのだろう。今日は雀。雀が嫌いな猫は居ない。だから、きっとあの子も喜んでくれるだろう。

 でも、一つ大きな問題がある。

 ヨボヨボ。

 あの子の巣に住む、老人だ。

 僕はヨボヨボに見つからないように、そっと身を隠しながら、あの子の巣に忍び寄っていく。

 しかし。

 ヨボヨボは目ざとく、僕を見つけてきた。

 そして、ヨボヨボが持っていた棒を振り上げ、僕に向けて振り下ろす。

 とっさの出来事。

 僕は身を守るのが精一杯で、あの子へのプレゼント。雀を落としてしまう。仕方がない。僕はまずは子のヨボヨボに一戦交えて、その後にプレゼントは回収する。僕はヨボヨボに対して臨戦態勢で挑む。

 精一杯の威嚇をし、声をあらげ、毛を逆立てて。そして僕はヨボヨボに飛びかかる。ヨボヨボの腕に僕の爪痕を付ける。まだ浅い! もう一度お互いに向き直り、ヨボヨボと僕、お互いに視線を絡ませる。

 その時。

 優しいあの子の声が聞こえてきた。

 あの子は、ヨボヨボに何かを言うと、あの子の巣にヨボヨボを引っ張っていった。

 その後僕のところに来て、撫で撫でしてくれた。

 僕はこの子の言葉は分からない。

 でも、一部聞き取れることはある。

 僕のことをこの子は、「シロ」と呼んでいる。僕もこの名前は嫌いではない。ヨボヨボとのことは輪ずれて、僕はこの子に撫でられる温もりを名いっぱい感じた。

 そして。

 僕を撫で撫でしながら、僕のプレゼント。雀にこの子が気がつく。

 ため息混じりで何かを言うと、僕をもう少しだけ撫でてくれる。

 鼠の時は、逃げ出したけれど、雀はまだ大丈夫みたいだ。

 今度も雀をプレゼントしようと、巣に戻るあの子を見つめながら、僕も寝床に帰って行った。

 またこの温もりに包まれたいから……。





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