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EP8 作戦会議

 マーズの中は約二十坪ほど。


 そこに大きな円テーブルと書棚とロッカーが置かれ、壁にホワイトボードがあるだけの、とてもシンプルな部室だ。


「今日はまず、明後日行われる、新学年になって初めてのルーティンマッチの作戦会議をしたいと思う」


 円テーブルに座った仲間たち、一年の螢火を入れても十六人。

 パンタグラムスは15人で戦うもの、つまり控えは一人。それが私たちタイプファイヤーの全メンバーだ。

 もっともメンバーが多い、タイプウォーターの六十三人とくらべると三分の一以下。


 けれどメンバーが少ない事は、決してマイナスばかりではない。ほとんど同じメンバーで戦いに臨める私たちの心は、固く結束している。


「さてと」


 いつもより硬い表情の燐火の様子に、緊張感が高まる。

 なぜか私たちより遅く来たキルカは一人、円テーブルから離れた所に座り、不機嫌そうな顔で腕を組んで黙っている。


「まず正直に言う。今回、タイプアースとのジョイントの確約が、まだ取れていない」

「おい、待てよ、それって大変な事じゃないか!」


 驚いて思わず席を立つ、照野青葉てるのあおば、三年生。

 火のシングル、木のトリプルの超変わり種。青紫の髪色をしているが、心は真っ赤な熱血漢だ。


「わかっている。ただ、まだジョイントがダメと決まったわけじゃないから」

「でも、明日なんだぞ、ルーティンマッチは?」


 苛立つ感情を抑えきれないように、青葉は乱暴に椅子に座りなおした。


「ジョイントが無くなっちゃったら、どうなっちゃうんだろう?」


 二年生の炭谷朱理すみたにしゅりは心配そうだ。少々気が小さい彼女は、顔を青くしている。


「おい、陽央子」


 その時、キルカが突然私を名指しした。いつもの事だが、そのキツい語調にシンと静まる室内。


「土野山の様子、どうだった? オマエの提案に、何と答えた?」

「悩んでいるって。それと、仲間の事を一番に考えたいって言っていた」

「他には? 何か言ってなかったか?」

「キルカに責任があるんじゃないかって。ねぇ、それってどういう事?」


 キルカは眉を顰め、天井を見つめた。何かを考える時によく見せる癖だ。


「そういえばキルカ、君、陽央子に言ったらしいね。清水流はパンタグラムスという競技自体をダメにしかねないって? それってどういう事なんだ?」


 キルカは燐火に強い視線を向けた。

 そして少しも目を逸らす事なく、燐火にだけ伝えるように、ゆっくりと話しだした。


「今までアタシたちは、利己的で強引な調和の元、戦ってきた。けれどそれが残酷な結果を生む事になるのは、目に見えていたんだ」

「どういう事だ? みんなにもわかるように言ってくれ」

「清水流がやろうとしているのは、今までと異なる秩序を造る事。今までよりもずっと平和的で平等なものになるのかもしれない。ただし、ぞれは退屈で歪なものだ。パンタグラムスとは元来、各エレメンツの力を最大限発揮し、各々の特性を伸ばすための競技のはずだ。違うか、燐火?」

「まあ、そうなのかもしれない」

「それは、結果としては不完全ながらも調和を生み出していたはずだ。それなのに…」


 キルカは強く唇を噛み締めた。


「清水流の唱える秩序、調和なんてものは、もはやパンタグラムスではない。でも、清水流がそんな事を考えたのは、今までアタシたちが行ってきた、利己的で強引な調和が原因である事も事実なんだと思う」

「君は何を言っているんだ? 全然わからない」


 燐火は引き攣ったような笑みを浮かべ、頭を捻った。


「アタシに責任がある、か…。ま、そうなのかもな」


 キルカはそう言い放ったきり、二度と口を開こうとしなかった。

 正直、私もこの時、キルカが何を言っているのか、さっぱりわからなかった。



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