EP7 火の仲間たち
クラブハウスへ向かう道すがら、一人で誰かを待っている様子の見なれた小さな姿を見つけた。
「お疲れー、螢火」
「あ、燐火先輩、陽央子先輩、お疲れ様です」
「そうそう、ねぇどうした、例の子たち? 日明圭土ちゃんと熊本陽菜ちゃん? 彼女たちタイプファイヤーに入ってくれそう?」
「えーっと、まだ、そのー」
「まぁ、そんなに慌てなくてもいいけど、とにかくタイプファイヤーに入ってもらわないとだから。頼んだよ、螢火」
「はい」
「で、誰を待ってるの?」
「穂菜南なんだけど、先に教室出たはずなんだけど、まだ来ていないんですよね」
「炬火穂菜南ちゃん? どうしたんだろうね」
灰地原螢火はトリプルネームの新入生。
火の象徴の赤色に、木の青色と土の黄色が交じり合った、明るい紫の髪をポニーテールにした可愛らしい後輩。
初等学校でも中等学校でもタイプファイヤーの仲間として一緒に戦い、勝利の喜びも負けの悔しさも共有してきた大切な後輩であり、バタイユでも頼りになる今年期待の新入生の一人だ。
三つのエレメンツを持つ螢火はキルカを尊敬していて、ある意味キルカの唯一の信奉者と言える。
一年生は夏休みまでどのエレメンツに属するか決めなくても良い事になっているが、螢火は以前からの顔なじみという事もあって、タイプファイヤーに入る事を早々に宣言しクラブハウスにも出入りしているほど。
すでに私たちの仲間みたいなもの。
螢火には友人たちの中から、タイプファイヤーの一員となるよう、名前に火性を持つパンタグラムス経験者を中心に、積極的に働きかけてもらっている。
日明圭土ちゃんは火と土のダブル。中等学校時代の実績も申し分なく、タイプアースも狙っているようで、本人はまだ悩んでいるらしい。
熊本陽菜ちゃんは火と木のダブル。パンタグラムスの経験は浅いものの、剣道の県代表になった運動能力。うまく育てば、大きな戦力になるかもしれない。
とにかく、二人とも絶対にタイプファイヤーに入って欲しい。
そして、炬火穂菜南ちゃんは燐火に憧れてこの学校に来たという螢火の友人。
なにせ火のトリプルネーム、パンタグラムス経験者で、中等学校では司令塔の経験もある、超有望な新入生。
螢火同様、すでに私たちの中では顔なじみのタイプファイヤー決定の子だ。
彼女には螢火と共にこれからのタイプファイヤーを引っ張っていって欲しい。
もちろん私たちも、苗字だけでなく名前に一文字でも火の要素のある一年生には、とりあえず経験を問わず片っ端から声を掛けている。
ただでさえ火性の苗字が少ないのだ。
新入生の中から、一人でも多く仲間になってくれる事は、私たち全員の願いでもある。
向かった先、パンタグラムスのクラブハウスは、各エレメンツの部屋を五角形に配置した、その名もペンタゴンという。
名前もそうだけど、見た目も構造的にもアメリカ国防総省のアレと似た感じと思ってもらえればいいかな。
木=ジュピター、火=マーズ、土=サターン、金=ビーナス、水=マーキュリーの各エレメンツの部室の扉には、各々の紋章が誇らし気に飾られている。
私たちは、マーズの炎を象った真っ赤な紋章を目で追いながら、さっきまでのモヤモヤを吹き飛ばすように元気よく扉を開いた。
「遅いよー燐火! ドーナッツ食べる?」
「また練習前にオヤツかよ。夏美ってホント、よく食べるよな。あと、口に物入れたまま喋るなよ」
「ゴメンゴメン、だってハラペコでさぁー」
赤いショートカットの少女が、ドーナッツを頬張りながら声をあげる。
彼女は小日向夏美、私たちと同じ三年生。
いつだって笑っている様に垂れた目、そして呆れるくらいに屈託の無い明るさは、緊張感いっぱいのバタイユ前の息苦しいような空気を和ませてくれる、ウチのチームのムードメーカーだ。
夏美の隣でニコリと微笑んで頭を下げた二人は日暮明日名と南早陽。
二人とも二年生でフォアネームとトリプルネーム。次のリーダー候補のライバル同士でもある。真っ赤な髪は、シングルエレメンツ、純粋な火の女の証。
「珍しいじゃない、燐火と陽央子がこんなに遅いなんて」
「ごめん! ちょっと用があってさ。そういえば、来てないよね、穂菜南ちゃん?」
「うん、まだだよ」
同じ三年の赤木晶が答えた。私よりちょっとだけ赤みがかったオレンジの髪。そんな髪が左右に揺れる。
「失礼します」
そこに綺麗な青紫色の髪をボブにした南池山夏菜が姿を見せた。
夏菜は可愛いけれど、ちょっとボンヤリした不思議ちゃんな二年生。エレメンツを4つも持つのは、学校でも夏菜だけだ。
その夏菜が不安そうに外を見ながら、ポツリと呟いた。
「おかしいなぁ? あれ、穂菜南ちゃんだと思ったんだけどなぁ?」
「穂菜南ちゃんがどうしたの?」
「うーん、わたしの見間違いかもぉ。だってぇ、まさかねぇ…」
「夏菜?」
「ゴメンなさーい、何でもないでぇーす」
少々思わせぶりな夏菜ではあったが、ハッキリしない物言いはいつもの事と、私たちは特に気にも留めなかった。