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EP6 水の女王 土の女王

 タイプツリーのクイーン、圭ちゃんと会うため教室を出た所で、私たちはもっとも会いたくないヤツと出くわしてしまった。


 腰近くまであるつやつやとしたストレートの黒髪は、まるで流れる水のよう。

 怖いくらいに整った顔立ちの美しい少女。

 女性らしい柔らかなスタイルと物腰、そして張り付いたような笑顔。


 彼女は清水流一瀬きよずるひとせ、タイプウォーターのクイーン。

 家柄も申し分なく、穏やかで優しい物腰と高校学らしからぬ大人びた雰囲気で、校内一の美少女の呼び名も高い。学業も優秀で生徒会長も兼任する。


 火の女王、紅炎燐火の天敵、水の女王。


 清水流一瀬は燐火と同様、二年生の頃からクイーンを任されているせいか、いつだって余裕がある。

 清水流の横には、ピッタリとへばりつくように清滝氷女きよたきひめがいて、その後ろには江波泉美えなみいずみ池澤冬海いけざわふゆみ、お伴三人は清水流のお気に入り。


「ごきげんよう、紅炎さん。わたくしたちもいよいよ最終学年、長く続いたあなたとの対戦も今年限りだと思うと、少し寂しいですわ」

「あいにく私はもう君の顔は見飽きてしまった。正直、清々するよ」

「あら、それは残念ですこと」


 余裕綽々の清水流の笑顔。ホント、むかつく!


「何度もお聞きするのもどうかとは思いますが、今年度もあなたは、自分の望む通り自由に戦う、それでよろしいのですよね?」

「そうだ。それが私の戦い方だし、パンタグラムスとはそういうものだからな」

「それは大変結構な事ですわ。けれど、わたくしが望んでいるのは、出来るだけ多くの者に、均等にHPを得る機会を与える事。誰しも、自分の仲間を思う気持ちは強い。けれど、広い目で周りを見回してみれば、各エレメンツが計画的にポイントを得ていく事も、決してパンタグラムスにおいて唾棄すべき事とも思えないのですが」

「君はまだ私に、ワケのわからないバタイユをしろと言う気か?」

「いえ、わたくしはもう何も申しませんわ。けれど、なぜわたくしがあなたにお声掛けしたのか、慮って頂けると嬉しいのですが。わたくし、あなたが思うよりはずっと、あなたの事をお嫌いではなくてよ?」


 最後まで嘘くさい笑顔を張り付けたまま、清水流たちは去っていった。


「何、ワケのわからないバタイユって? 前に燐火が怒ってたのって、その事なの? いったい会長と何を話したの?」

「ゴメン、あの件は、あまり口にしたくないんだ」


 燐火は唇を噛みしめ、髪色と同じくらい顔を赤くして、その背中を睨みつけていた。


 私は苛立つ燐火をなだめながら、土野山圭を訪ね階段を上がった所で、ちょうど教室から出てきた彼女と鉢合わせになった。

 少し驚いた様子で私たちから目を逸らす、黄色い髪をボブにした大柄な彼女。

 圭ちゃんを幼い頃より知っている私には、その様子は、やはり何か隠し事をしているように見えた。


「圭ちゃん、昨日はどうしたの? ジョイントミーティングの約束だったよね?」

「…ちょっと、急に用事が出来たから。ごめんなさい、連絡すれば良かったんだけど」


 私の言葉に、少しだけ間をおいて答えた。


「用があったなら仕方ないね。それで、次のルーティンマッチの件なんだけど、今まで通りって事でいいのかな? もう明日の事だし」

「ちょっと、場所を変えていいかしら?」


 私の言葉に少し戸惑いながら、彼女は人目を避けるように校舎裏の用具室前に私たちを連れていった。


「ジョイントの件、陽央子と燐火さんには隠しておきたくないから言うけど、ちょっと難しいい話を持ち掛けられていて、困っている所なの」

「一瀬だな? あいつ、何を言ってきた?」

「ごめんなさい、詳しい事は話せないわ。正直、悩んでいるの。今までのタイプファイヤーとの関係が不満というわけじゃないのよ。けれど、私もクイーンだから、自分のエレメンツの事を、仲間たちの事を第一に考えないといけなくて」

「それはわかる。でもね、聞いて欲しいの。今回のバタイユでは、圭ちゃんにタイプツリーのクイーン、木森さんの首をあげるつもりなの。もちろん、チームとしての勝利も。それに、メンバーの子たちのサポートもして、みんながしっかりHPをもらえるよう、キルカが取り計らう。約束するわ。だから…」

炎林錦流圭ほばやしきるか、そう、彼女ならそれも可能でしょうね。彼女がいるから燐火さんも思いっ切り暴れられる。あなたたちは、大きな武器を持っていて羨ましい」

「え、どういう事?」

「悪いけれど、私、これから練習だから」


 立ち去ろうとする彼女に、私は必死に縋った。


「ちょっと待って、お願いだからもう少し話を聞いて。私たちにとってタイプアースとのジョイントはとても重要なの。今までオーバーアクトとなるあなたたちとのジョイントを、私たちは真摯に努めてきたはずよ。だから…」

「本当にごめんなさい。でも、陽央子、よく考えてみて? この事って、炎林さんにも責任があるんじゃないの?」


 寂しそうな視線を私と燐火に向けると、圭ちゃんはゆっくりとクラブハウスへと向かった。


 私と燐火は顔を見合わせて溜息をつき、同じように練習のためクラブハウスへと向かった。けれど、キルカにも責任って、何の事なのだろう?

 この時の私には、さっぱりわからなかった。


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