EP5 パンタグラムスの戦い方
パンタグラムスとは。
私たちは初等学校に上がると同時に、男女にかかわらずこの競技を行う。私たちの世界においては最も親しみもあり人気の有るスポーツであり、体育の必須科目でもあるから。
学内で行うパンタグラムスは、ルーティンマッチという各学期の中間と学期末に行われる定期考査のような、年に5回行われるポイントバトルが基本となる。
その合間に2回、ルーキーズセプトという、新入生やバタイユ経験が少ない者が対象の、HP増強を目的としたポイントバトルも行われる。
学内パンタグラムスの目的は、一年間戦い最も多く勝利を挙げMVE(Most Valuable Elements)となる事。
MVEに選ばれたチームは学校を代表し、春休みの時期に行われる全国大会、ジュニアエレメンツチャンピオンシップに臨む権利を与えられる。
成績や内申書など、個々の生徒に付与される特典も、勝者を目指すモチベーションに繋がっている。
そして何よりもパンタグラムスの有力校である、この五芒星女子高等学校に入学してからは、学校で行われるパンタグラムスは地域のTVでも放送されるため、世間からの注目度も高い。
私たちは町中の人気者なのだ。
それに、もう一つ。私たちには、燐火にプレゼントしたいものがある。
卒業時に、最も多くの勝利を挙げたクイーンに与えられる称号、真のクイーンの証、レーヌ・ドゥ・ラ・レーヌ。
燐火には、それを取るチャンスが十分にあるから。
パンタグラムスが人気の理由は、そのエンターテーメント性にもある。
パンタグラムスは拡張現実、オーグメンティッド・リアリティ(AR)で争われ、学園の誇る巨大なバトルフィールドが、時には古代メソポタミアの砂漠地帯、時には中世ヨーロッパの古城、はたまたNYマンハッタンのタイムズスクエアへと変幻自在、見る者の目を楽しませてくれる。
リアリティあふれる様々な舞台で、私たち可愛いJKが剣を手に戦いまくるのだから、見ていて面白くないはずがない、というワケ。
さて、その内容だけれど。
パンタブラムスの試合の事をバタイユ=戦闘といい、プロレスで言うところのバトルロイヤル、つまりは総当たりでの戦いとなる。
しかし試合の基本は1対1、剣を使っての勝負。それに勝ち抜け、再び他の者との戦いを重ねていく。
いずれかのエレメンツクイーンの首が取られるまで試合は続き、試合が続く限り、個々のバタイユも続く。それは死=デッドとなるまで。
各エレメンツチームのいずれかに所属すれば誰でも参加する資格を有するが、実際のバタイユは前述の通り激しいスポーツな上、各エレメンツ十五人で争われるため、プレイヤーとしてバタイユに出るのは簡単な事ではない。
バタイユに使われる武器は剣だけど、私たちに備わるエレメンツの要素によって形状が決められ、個人のHP量によってバタイユにおける戦闘力が決まる。
もちろん剣とはいうものの、当然ながら実際に切れたりするワケではない。
しかしVRで可視化された剣だとはいえ、その威力は物理的にも再現され、大技を食らうとマジで吹っ飛ばされるし、切られるとリアルに痛覚を刺激される。
つまり、スッゴく痛いのだ!
良く出来ているとは思うけれど、マジでいらなくない? こんなサディスティックな要素?
だから誰しもポイントのためだけではなく、自らの身を守るために必死で戦う。
各人のHPポイントだが、初等教育学校、中等教育学校、高等教育学校と、積み重ねていくもので、当然、その成績次第で個人差が出てくる。
バタイユは、ピストという5メートル四方の円形の戦闘エリアで戦う。
ピストに入り、先手を奪ったほうから攻撃権が得られる。
先手を初太刀と言うが、初太刀を取るにはARゴーグルで相手を1秒間捉え、視線入力する
事が必要だ。要は早いもの勝ち。
これをキャプティブと呼び、この初太刀は勝敗を決するとも言わるほど大切なもの。
攻撃権は受け手側が相手の剣を受け返すか、完璧に避け視線を1秒切る事によって死に体とみなし、相手に移る事になる。これをパラードという。
パラード出来ない限り、攻撃が繰り返される事になるわけだ。
また、バタイユが始まると勝敗がつくまでピストは不可侵領域となり、誰も入る事が出来ず、出る事も難しい。
けれど、脱出=エシャピーという技を使う事でバタイユから脱出し、試合から離脱する事ができる。
エシャピーは相手の視線を3秒切る事で、可能となる。
しかし、戦闘中に相手の目線を3秒間切る事は容易ではなく、またその「逃げる」という行為を嫌う者も多い。
バタイユは、こういったスキル、そしてそれを行うためのフィジカルがあってこそ勝利出来るわけで、それだけに日々の練習の過酷さは他の競技に負けるものではない。
しかし、せっかく個々のバタイユの能力が高くても、チーム戦であるパンタグラムスは、戦術無くしての勝利は有り得ない。
攻撃を仕掛けるのは主にオフェンス、積極的に動き回れるタフネスでフィジカルの強いプレイヤーが、敵陣深くまで攻め込んでいく。
クイーンを守るディフェンスは、陣形を作りクイーンを敵の攻撃から守るのが役割だ。
自陣で抜群の強さを誇るシングルエレメンツが担うのがデフォだが、クイーンを狙うデストロイ対策として、オーバーアクトを持つメンバーがスイーパーとしてクイーンの側に置く事も多い。
オーバーアクトはデストロイにとってのデストロイとなるからだ。
スイーパーは防御の網から零れ落ちてくる敵を掃除する役目。火にとってのデストロイは水、その水のデストロイは土。つまりは、土のダブルである私が、燐火のスイーパーなわけだ。
そう、私は立派に燐火の役に立っているわけだ!
クイーンは自陣で動かず、司令塔として支持を出す役割を担う。
けれど燐火は自分でも戦いたいという願望が強いためか、放っておくとバタイユへと自ら身を投じてしまう事が多く、まったく目が離せない困ったクイーンでもある。
いずれにせよ、クイーンのために戦う、その強い意思がなければ全く戦いにはならず、パンタグラムスは成立しない。
クイーンは私たちのエレメンツを代表するシンボルでありプライドでもあるから。
これがパンタグラムスの戦い方なんだけど、わかったかな?
もう少し詳しい説明は、「パンタグラムスの戦い方」という読本にしたから、良かったら読んでみて!