EP4 膨らむ不安
パンタグラムスでは先頭に立って獅子奮迅の活躍、その時以外のキルカは、無駄口を叩くでもなく、用がある時以外は誰とも、何も話そうとしない。
ちゃんと話をするのは、パンタグラムスの事くらいじゃないかな。
不気味で暗い女。あれでタイプファイヤー? 信じられない!
みんな、そう思っている。
そんな世間の評価なんてお構いなし、燐火はやっぱり彼女らしく、キルカに対してだって笑顔を絶やす事はない
「ねえ、キルカはどう思う? タイプアースの件?」
「アタシは、今回タイプアースとのジョイントは無い、そう思っている」
「マジで? 今までうまくやってたじゃない? 何で?」
「嫌な予感がする」
「もしタイプアースとのジョイントがなくなった場合、何か策はあるのか?」
「ジョイントがなくなっても、戦い方は幾らでもある。けれど、ちょっと例の清水流の件は気になるし、出来る事ならジョイントはあったほうがいいに決まってる。とにかく今日、土野山の所に陽央子と一緒に行って、きちんと話をしてきてくれないか」
「うん、わかった」
土野山圭は土タイプアースのリーダー、フォアネームの持ち主だ。
家が近かった事もあって圭ちゃんとは同じ幼稚園。土のダブルである私は、圭ちゃんとも馬が合い、割と仲が良かった。
今でこそ一緒に遊ぶ事という事は少なくなったけれど、異なるエレメンツだからといって、憎みあっているわけじゃない。
とにかくタイプアースとのジョイントは、私たちにとってとても重要な事、それだけに今回の件は、キルカに言われなくとも気になる。
私たちがタイプアースとの連携で得られるものは、土を天敵=インソルトとする、私たちの天敵、水=タイプウォーターへの牽制だ。
逆にタイプアースは、私たちが土の天敵=インソルトである金=タイプメタルを倒す事で、そのタイプメタルを天敵とする木=タイプツリー、つまりは土の天敵に対してのバランサーとしての役割を私たちに求めているわけで、それは今までうまくいっていたハズだったのだ。
パンタグラムスでは、フィジカルとスキル、それに剣術の腕前、状況判断に戦力分析など、実戦的なものは確かに重要だ。
しかし戦略的な意味において、ジョイントも必須のものになっている。
ジョイントで自分たちにとって利のあるチームとの連携を得る事は、五つのチームが入り乱れて戦うパンタグラムスにおいて、その有無は勝敗を大きく左右する。
幼い頃に行うパンタグラムスならば、人数も少人数であるし、一人の優れたプレイヤーがいればそれだけで勝利する事も可能だったが、今の私たちの行っているパンタグラムスにおいては、単一のエレメンツの頑張りだけでは勝利出来ないのが現実だ。
ジョイントは、いかに信頼関係を維持し連携出来るか、そんな政治的な駆け引きが必須であり、実はそれが燐火の唯一の欠点でもあるのだ。
燐火は心底明るく、嘘のつけない性格だ。気が短いのも玉に瑕。
つまりは政治的な駆け引きなど出来るわけがない、という事。
「陽央子、ちょっといい?」
休み時間となり燐火が席を離れた時、キルカが声を掛けてきた。
「タイプアースの件、ジョイントが切れた場合、マズイ事になりそうだ」
「マズイ事? でも、さっき戦い方は幾らでもあるって言っていたじゃない?」
「燐火の手前、ああは言ったが、これは単にタイプアースだけがどうこうって話でもなさそうなんだ」
キルカの目が鋭さを増す。怖い目。
「少し前、燐火が怒りまくっていた事があっただろう? 清水流と会った後に? アタシは燐火から理由を聞いて知っているけど、今回の土野山の件は、その事と無関係ではないと思う」
「さっきも言っていたけど、清水流会長と何があったの?」
「あの女はアタシたちにとって天敵だというだけでなく、パンタグラムスという競技自体をダメにしかねない」
「パンタグラムスがダメになる? 何、それ?」
「とにかく、オマエがタイプアースに持ち掛けるんだ。それで土野山と清水流がどう出るか、確かめてみたい」
「持ち掛けるって、何を?」
「アタシがタイプツリーのクイーン木森を倒し、その首をタイプアースに差し出す。優勝をタイプアースにプレゼントする、それが今回のジョイントの条件だと土野山に持ち掛けろ。今までジョイントを組んでいた上、土のダブルで土野山とも仲が良い陽央子の申し出に、土野山がどんな言葉を返すのか、きちんと聞いてきてくれ」
それだけ言うと、キルカはもう何も話さなかった。
ジョイントミーティングは、基本リーダーとサブリーダー同志で行うものだ。キルカにいちいち注文される筋合いでなない。
司令塔であるキルカなりに考えがあっての事だろうが、偉そうに指示されるのは余り面白くない。
そもそも、清水流会長と燐火が何を話したのか、私は全然聞いてないし!
あーあ、圭ちゃんの事を探るようなマネ、したくないな。
私は放課後の事を考えると、少し気が滅入ってきた。