EP1 私たちのエレメンツ
真っ赤な長い髪を春の穏やかな風に揺らしながら、彼女は颯爽と私の前を歩いている。
スラリとした長身、美しく整いキリリとした顔立ちは、長い髪がなければ男の子と勘違いされそうなくらい。
もちろん、とびきりハンサムの。
ルビーの様な真っ赤な瞳と揺れる赤い髪は、見ているだけで暖かい火の温もりを感じ、体も心もほんわかした気持ちになってくる。
思えばそんな姿を、私は幼い頃からずっと後ろから見てきた。
幼馴染というだけで、彼女のカバンにぶら下げたマスコットみたいに、私はいつだって彼女の背中にブラブラと揺られてきた。
私が彼女にしてあげられる事なんて、こうして一緒にいるだけだ。
ふと上を見上げてみれば、そこには雲一つ無い真っ青な空。
そんな空とデュエットするかのように鼻歌など歌い、まったく不安や心配の素振りも見せない彼女のその様子に、さっきまで沈んでいた気持ちも忘れ、思わず笑みがもれてしまう。
「ねぇ、燐火ってばー。明日のバタイユ、最終学年になって最初のバタイユなんだよ、わかってるの?」
「わかっているって。でも昨日までにやるべき事はやっただろ?」
「でもさ、やっぱり心配だよ。この間の土野山さんとのジョイントミーティング、急に中止になったじゃない? 何か、すっごく嫌な予感がするんだけど」
「でも、タイプアースとの連携はこの2年、ずっと問題無く続いてきたものだし、圭は急に心変わりするようなヤツじゃないさ。ま、ジョイントミーティングの時に、たまたま用があっただけだろう。陽央子は心配し過ぎだよ」
「なら、いいんだけど」
「でも、ありがとう。陽央子に心配かけないように、私も、もうちょっとしっかりするよ」
ドキッとするほどに私に顔を寄せると、火の女王に相応しい、赤くキラキラと光る瞳を向けながら、燐火は微笑む。
「それと、今日の帽子も可愛いね! 陽央子に良く似合ってる!」
「あ、ありがとう」
「陽央子、ホント帽子好きだよな。でも私、陽央子の髪色って大好きだから、あんまり帽子被って欲しくないんだけど」
「ありがとう。でも、私はあまり好きじゃないの、この髪」
ホント、恐れ知らずというか、自信満々というか、そういう所は昔から全然変わらない。
愛すべき明るさと天真爛漫さ。
能天気で無計画な所もあるけれど、誰もが燐火の輝きに引き付けられ、その元に集ってしまう。生まれ持ったカリスマ性ってこういうものなんだなと、燐火を見るといつも思う。
私とは大違い。
私の名前は日南田陽央子。
燐火と私は同じ、ここ五芒星女子学園高等教育学校に通う三年生。一応、タイプファイヤーのサブリーダー。
来年から大学に進学するので、今年はこの学校での最終学年となり、燐火と共にパンタグラムスを戦うのも今年限りとなるかもしれない。
タイプファイヤー? パンタグラムス? 何って思うよね?
パンタグラムス。それはエレメンツバトルとも呼ばれるスポーツの一つで、私たちは幼い頃からこのスポーツに打ち込んできた仲間でもある。
パンタグラムスは、5つのエレメンツに元に集った仲間と共に戦い、他エレメンツのキング(女子の私たちはクイーン)の首を取ったチームが勝利、というスポーツだ。
5エレメンツ、すなわち、木=タイプツリー、火=タイプファイヤー。土=タイプアース、金=タイプメタル、水=タイプウォーター、の5チーム。
スポーツとは言うものの、その実、5つのチームが入り乱れ、バトルフィールドを駆け回りながら剣を武器に戦う格闘技だ。全員総当たりのバトルロイヤル、まるで昔の合戦みたいな、肉体的にも精神的にも厳しく過酷な競技でもある。
そしてエレメンツ。それを知らずにパンタグラムスは語れない。
私たちの世界において万物は、5つの要素=5エレメンツにより形成されている。それは木火土金水の5つ。
木は燃えて火を生み、火は燃やしたものを灰にして土を生み、土はその中から鉱物、金を生じ、金は冷えて結露し水を生み、水は養分となり木を育む。
世界はそんなサーキュレーションにより造られ、調和している。
そして、そんな世界から生まれた私たちは、誰しもがエレメンツを持っている。エレメンツとは誰しも生まれつき備わっているものであり、私たちを形成する大切なファクターだ。そのエレメンツを決定するもの、それは「姓名」。
「姓名」が照らすエレメンツ、そのエレメンツには性質があり、それは私たちのパーソナリティにも大きな影響を与える。
5つのエレメンツの性質と関係性、それは次の通り。
木=樹木の成長、発育を表し、季節は春、方角は東、色は青。
火=燃えて輝く炎の様を表し、季節は夏、方角は南、色は赤。
土=全ての育成、保護を表し、季節は変わり目、方角は中央。
金=土中の金属の冷徹、堅固な様を表し、季節は秋、方角は西、色は白。
水=湧き出る水の霊性、胎性を表し、季節は冬、方角は北、色は黒。
エレメンツが与える影響は、性格や外観にも及ぶ。
外観で最も目立つのが髪と瞳の色だろう。例えば火のエレメンツは赤い髪に赤い瞳を、水のエレメンツは黒い髪に黒い瞳を人に与える。
各々の特徴的な性格はこうだ。
木=優しく情が深いが優柔不断な面がある。
火=陽気で情熱的だけど短気。
土=落ち着きが有り物事に動じないけど頑固で考え過ぎになる事も。
金=現実的で情に流されないが冷徹で激情的。
水=順応性があり柔和だが優柔不断で飽きっぽい。
エレメンツは残酷なくらい、明確に私たちを分かつのだ。
もっとも、これはあくまで各エレメンツの基本的な性格。各エレメンツには陽と陰があるし、各々の持つエレメンツは単一なものばかりでもないから、現実にはそんなに単純なものでもないんだけれどね。