絆~祈りの声~
遠雷のような轟音が遠くから響いてくる。時には落雷のような閃光が走る。神々の戦いとはこのようなものだったのだろうか?
「急ぐんだ。ガルニアまではもう少しだぞ!」
避難民が次々と合流してくる。ガルニア周辺の生産拠点で働いている住民だ。
兵を指揮しながら避難民を鼓舞するのはケイオスだった。
「ったく、面倒ごとは全部俺だよ」
ぼやきが口から洩れるが口元には笑みが浮かぶ。
しがない冒険者だった自分がまあ、3000の兵の命を預かる立場なんて数か月前までは思いもしなかった。
人に縛られるなんてまっぴらだと思っていたころもあった。けど今は自分にのしかかる任務とやらが誇りに代わっていることを自覚する。
街道の先に見えるガルニアの城門は大きく開け放たれていた。
城壁の上から大声で兵に指示を出すのはドワーフのレギンだ。
「おう、兵が戻ってきたぞ! ものども、迎え入れる準備をせよ!」
ドワーフの工兵たちがどたばたと走り回り、城壁の上に備え付けられたバリスタを動かす準備をしている。
追手はいない。魔王がすべて焼き払ってしまった。それでも備えは必要だろう。
「負傷者を優先しろ! 戦える者は後方に回れ!」
ケイオスの下した指示に、配下の戦士たちが一斉に動く。
先日クロノが口にした言葉。
「ケイオスはすごく判断が速くて的確だね」
「ですな。指揮官としては俺より上です」
アルバートのお墨付きを得て、ケイオスは非常時の臨時指揮官に任命されていた経緯がある。
だから彼の指示に、先任であってもほかの戦士は従うのだ。
「城門を閉める時間を稼ぐ。防壁陣!」
「「応!!」」
「弓兵は城壁にあがれ! バリスタの操作ができるやつを優先だ!」
「承知!」
追手ではないが、混乱した状況で一部のダンジョンから魔物が溢れたようで。小規模な戦闘が発生したが、陣を敷いていたため被害は軽微だった。
戻ってきた部隊はその場で留守居の部隊と合流し、市内の各所に散っていく。そして城門前の広場には人々が集まってきた。
レギンが集まってきた市民に聞こえるようにわざと大声でケイオスに問いかける。
「ケイオス、見事な指揮だったぞい」
「レギン殿。お言葉ありがたく」
「状況は?」
「魔王が目覚めました」
その一言にどよめきが広がる。それでもクロノに対する信頼からか、市民が混乱することはなかった。
「クロノ様は無事なのか?」
「わかりませぬ」
その一言の直後、無数の光が乱れ飛び、互いにぶつかり合って轟音とともに弾け飛んだ。
それは無数の精霊が召喚され、それを操って撃ち合いをしているところだった。神代の戦いの光景を見て人々は言葉を失う。
「おお、おお……」
レギンが膝をついて右手を握り額の前に掲げる。槌を握る右手はドワーフにとってかけがえのないもので、祈りをささげる時のしぐさだ。
ただ、不信心でも知られるレギンが神頼みをする姿に、周囲の人々は驚きの表情を見せた。
「アルバート達は……?」
「クロノ様のもとに向かいました」
「……あのような戦場に赴いたというか」
「はい。私は兵たちを預かったため、共に行くことはかないませんでした」
「それもまたお前さんの役目だろうさ」
その直後、大気が震えた。膨大なエーテルが集まり一点に集約していくのがわかる。
「これは……?」
ケイオスの問いに、エルフの魔法使いが応えた。
「おそらくクロノ様が研究していた極大魔法でしょう」
「周りへの被害が計り知れないからと、実験すらしていない術だぞ!?」
レギンは驚愕を浮かべた後、再び祈りの姿勢をとる。
「ものども。祈るのだ。ガルニアの中心には都市のエーテル機構を回すための巨大なクリスタルがある。そしてそれはクロノ様とつながっているのだ」
「我らの祈りがクロノ様の助けになる!」
ケイオスが呼びかけ、その声に市民が応える。
「クロノ様、ご無事で……」
「魔王なんかに負けないで下せえ!」
「まだ助けてもらった恩を返せてないんです!」
「殿! 給料上げてください!」
この状況でボケた戦士が、周囲から袋叩きにされる。
「くろのさま、がんばって!」
ガルニアで生まれた幼子がたどたどしい口調で祈りの言葉を発した。
祈りをささげる人々からエーテルが放たれ、虚空に、地面に吸い込まれる。それは都市をめぐるエーテルを伝えるクリスタルの回線を伝わって、ガルニアのコアクリスタルへと供給された。
そして遙かな戦場で、膨大なエーテルがぶつかり合い閃光を放った。
次回決着!?




