神代の戦い
暑さにやられてダウンしてました
「「焦熱の光よ」」
互いに異口同音に同じ呪文を唱える。
赤を通り越して白く透き通った火球が互いの中央でぶつかり、すさまじい衝撃波を放って対消滅した。
「「裁きの雷よ、下れ」」
ぶつかり合った雷は互いの中間で反射する。周囲に散らしておいた土属性の魔力球が雷を流して無効化する。
「「風浪の刃よ」」
同時に放たれた鎌鼬は互いの中間でぶつかり合い、つむじ風となって消えた。
「「氷雪よ、集え!」」
これも同じくつららの矢が互いにぶつかり合って消滅。
「ふん、らちが明かぬな」
「同感だよ」
そう言いつつも、短い詠唱で出せる呪文をぶつけ合う。仮に呪文同士の相殺をすり抜けても互いの魔法障壁を打ち破れない。
こういう時は精神の平衡を乱した方が負ける。神経戦になるが互いに崩れる様子はない。それはそうだ。ルーツを同じくする同一人物だからね。それこそ、撃ちそこないすら同時だった時は苦笑がもれた。
呪文の出力は術者の器と、乗せるエーテル量によって決まる。エーテルをより多く放つには詠唱が必要だ。
器が同じで、同じ詠唱なら全くと言っていいほど同威力の魔法が発動される。
……ふむ、これで行こう。
僕が何かを思いついたことを悟ったのか、魔王が自らに風の魔法を浴びせ距離を取った。
「クク、何を考え付いたのかは知らぬがやってみるがいい」
そして目を閉じて魔力を集約する。
「ああ、やってやるさ!」
「古より閉ざされし棺よ、氷雪により封じられたその力いま解き放たん……」
上位の氷魔法、それも古代魔法だ。使えるものは限られているが魔王ならば使えるだろう。
そして、氷魔法に対応する魔法は火魔法だ。
「火神招来、来たれ、サラマンデル!」
エーテルを編み上げて火トカゲを形作る。今まで何度となくやってきた使い魔を作り上げる手法。それをそのまま召喚魔法の術式として、自らが作り上げた素体に憑依させる。
「いま新たる契りにより冥王の刃、ここに賜らん……」
魔王の振り上げた手の上には吹雪が渦を巻き巨大な氷の刃がこちらに切っ先を向けていた。
詠唱を終え、目を開いた魔王が見たものは……100を超えるサラマンデルがその口を開き、炎のブレスを佩こうとしている姿だ。
「なんだと!?」
驚きはしても術の制御は乱れない。半ば反射的に手を振り下ろすと、巨大な氷の刃が僕に向けて飛来する。
そこに連射された100を超える火球。一つ一つの威力は劣っても、弾幕による飽和火力は術の強度の差を覆した。
氷刃は砕け、もうもうと上がる水蒸気の中を無数の火球が飛来し、魔王を直撃する。
「ぬわああああああああああああああああああああああ!!」
断末魔のように聞こえる魔王の声。
「やったか!」
集約された熱エネルギーが膨張し、爆発する。
爆発が収まった後、そこにいるのは衣服が焼けて若干ぼろくなっただけの魔王だった。
あれだけの熱量ならば障壁が崩壊するのはわかっていた。そのうえで何かの切り札を使って切り抜けたのだろう。
防御なのか、回復なのか……おそらく回復魔法の類だろう。
「ククク、クハハハハハハハハハ!」
魔王が哄笑した。目は虚空を見つめ、それこそ、自分でも何がおかしいのかすらわかっていないようだ。
「今まで自らの命をチップにして戦ったことはなかった。そうか、あれが恐怖か。
そしてこれの高ぶる感情。これが生の実感か。我は生きている」
「ああ、そうだな。だからなんだ?」
「ふふ、並び立つものがいないというのもなかなかに寂しいものでな。といっても貴様は我か。しかし、根源が同じというだけで自我は別なればもはや他者だな」
何やらよくわからないことを言い始めた。
「くく、こうか? 雷精よ来たれ!」
ぶわっと広がったエーテルはすぐに形を成した。不定形の雲のようなもやもやが出来上がったかと思うと、周囲の大気からエーテルを吸い上げ風を巻き上げる。巻き上げられた風と大気中のちりがこすれ合って静電気が起きた。
周囲に浮かぶ無数のちいさな靄はバチバチとスパークを起こす。
「放て」
ぼそりとした一言で靄の塊が一斉に雷撃を放った。半ば自立で動くサラマンデルも火球を放つ。
無数の攻撃が行きかい、数秒後には戦場は静寂を取り戻した。
「ふむ、わかったか? 貴様にできることは我にもできる」
「ああ、そうだな、わかるさ」
互いに互いを滅ぼしうる一撃を放つことができることは当たり前だろう。僕は最初からそのつもりで戦っている。
「「召喚!」」
互いに100を超える精霊を召喚して使役した。
今度は複数の属性の精霊を呼び出している。呪文を唱えるまでもなく再び風が炎が雷が氷雪が飛び交う。
それは天地創世のとき、あらゆる属性が暴れまわり、溢れすぎた力を互いに鎮めあったとされる光景だった。
たがいにぶつかって消滅した精霊を自動化した術式が補充する。
戦いは再び激しさを増していた。
「さて、そろそろ決着をつけようか、我よ」
「どうやってつけるんだい?」
あざ笑うかのような表情を浮かべる魔王に、僕も精一杯に不敵な笑みを浮かべて対する。
「我らが最も得意とする術をぶつけ合うほかあるまい?」
「ああ、たしかにね。手っ取り早くいくならそれがいいかな」
早く決着をつけるに越したことはない。最悪でも相打ちだろう。それに……こっちに向かって走ってくる彼らを巻き込みたくない。
暴れまわる精霊は即座にエーテルに還元された。その漂うエーテルを操り虚空に魔法陣を描く。
「「大いなる創世の神に祈る。我は汝と契りを結びし者なり!」」
詠唱が始まると、周囲のエーテルは魔法陣に吸い込まれ、凝縮されていく。
決着のときは刻一刻と迫っていた。
次回「絆」
お楽しみに




