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夜を駆ける

「総員起床!」

 アルバートの号令が響くとテントの中から兵たちが転がるように出てくる。

 ただ、その姿はまちまちで、ほぼ装備を取り払っている者もいた。


「30秒やる、すぐに用意しろ!」

 今度は怒声だ。寝ぼけ眼の兵たちの背筋に筋金が入る。


「28、27、26……」

 アルバートのカウントダウンに合わせて兵たちが息を切らせて動き回る。


「傾注!」

 ケイオスが号令をかける。いつの間にか戦士たちの間で一目置かれる存在になっているようだ。


「これより実戦だ。間もなくゴブリン、コボルトの群れと戦闘に入る。どうだ、嬉しいだろ?」

「「サー、イエッサー!」」

 彼らはほとんどが元冒険者だ。当然実戦経験はあるし、砦などの防衛戦に参加したことがある者も多いだろう。

 それでも、互いに背中を預けあって戦うのは初めてだ。

 それでも眦を決して即座に覚悟を決めている。それは……。


「お前たちは軍を愛しているか! 殿に忠誠を誓うか!」

「「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」」

 うん、なんかいろいろやりすぎている気がする。


「お客さんが来たニャー!」

 セリアが駆け込んでくる。彼女は自分の部隊を率いて、敵の群れの先頭に一撃くらわせていたそうだ。


「よし、貴様ら、訓練通りに動け! 夜戦陣!」

「応!」


 セリアが走ってきた方向に向けて、重装の兵が横並びに並んで壁を作る。


「全軍防御!」

「応!」

 暗闇の向こうに赤く光る目が見える。それは次々と数を増やしていく。ぶわっと生ぬるい風が吹き、生臭い獣臭を運んできた。

 先頭を走るひときわ大きな体躯の獣人が雄たけびを上げようとして、セリアに射抜かれた。


「うてうてうてーーーー!」

 セリアの激に応え、弓兵が一斉に射撃を始める。前衛の兵も投げ槍を投げ込んだ。

 ふとアルバートを見ると肩をすくめて苦笑いを浮かべていた。

「機先を見事に制しましたな」

「そういうもの?」

「ええ、敵の攻撃を一度受け止めて、勢いが弱まったところで反撃するつもりでしたが、先陣の中ボスを叩いてひるんだところに攻撃を仕掛けるあたりは、なんといいますか……」


 すると目の前でさらに戦況が動いた。

「続け!」

 乱戦向けの短い槍を掲げ、ケイオスが軽装の歩兵を率いて切り込んだ。

「いまニャ! 挟み打ちにゃ!」

 重装の歩兵が地響きを立てて敵に突っ込む。短槍を突き出し、勢いのままにぶつかり敵の前衛が砕けた。

 

「誰だ、セリアは指揮官に向かないって言ってたの」

「はっはっはっはっは、ぐほあっ!?」

 アルバートは朗らかに笑ってごまかそうとしていたが、アリエルに足の甲を踏み抜かれて悶絶する。


「殿、全軍突撃の号令を」

「うん」

 僕は手を天に付き上げ、叫んだ。

「ぜんぐんとつげきゅ!」

 ものすごい勢いで噛んだ。

「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」

 なんか聞かなかったことにする感じでみんな敵に向けて駆けだす。

 一人後方からその姿を見て、耳がすごく熱く感じる。

 ぽんと肩を叩いてくれるチコの笑顔がいっそ痛かった。

 

「かかれええ!」

 そこから4か所で魔物の群れと戦い、すべてに勝利した。

 今回の収穫は、猛将セリアの存在だっただろう。

 細かい戦術とか理論とかすべてをすっ飛ばして、兵たちを奮い立たせ、的確に機を制す。

「ありゃ天才ですな」

 前線を任せる指揮官としては最高の人材、だそうだ。

 同時に粘り強く兵を保たせるケイオス。攻防併せ持ったコンビとして認知された。

「いやあ、俺の出る幕がなくて、ですな」

「アルバートは総指揮官としてドーンと構えてればいいんだよ。兵も安心して戦えるからね」

「はっ!」

 少し安心したような声色で応える。

 うん、僕がアルバートを不要だなんて思うはずがない。だって彼は僕の最初の家来で、恩人だから。


「追撃ニャ! いけ、いけえええええええええ!!」

 ウッドゴブリンと呼ばれる、木の葉のような服を着た一群を追う。

「セリア! 追撃を止めるんだ!」

 アルバートの言葉に、セリアも即座に停止を命じる。

「どーしたニャ?」

「うむ、奴らの逃げっぷりがよすぎる」

「そいえば確かにニャ。死体が少ないニャ」

 奴らが逃げていく先は……森だ。

「奴らの格好は草木が多いところで戦うためのものだろう」

「地味に硬いニャ。真正面から刺されば貫通するけどちょっとでも角度がずれると綺麗に受け流されるニャ」

 どうしたものかと考えていると、アルバートが力技で何とかした。


「焦熱の刃よ!」

 アルバートの得意属性は火。同じ属性を持つ戦士と兵を率いて突破口を開いてきた。

 そしてもう一つの問題にぶち当たる。


「なんてこった……」

 入って行った兵が戻らない。呼びかける声は聞こえるが、姿が見えない。

 すぐ隣にいるはずなのに声が虚空から聞こえる。


「ダンジョン化してます」

「お、おう」

 アリエルが調べたところ、入り口はそこら中にあり、魔物が出入りする。追いかけた兵はそのままダンジョンにのみ込まれる。

 彼らは冒険者なので、ダンジョンに入った経験もあるだろう。たぶん。


 しかし通常ダンジョンに入るには相応の準備をしていく。もちろん入って行った場所がダンジョン化している場合もある。

 それに備えての携行品は当然持ち歩いている。しかしそれは緊急時の備えで、救助までの時間を稼ぐためのものだ。


「救助隊を編成急げ。出入口は小隊を置いて封鎖。奇襲を防ぐんだ」

 アルバートが指示を出し、戦士達が走り回る。

 さすがにここまでの事態は想定していなかったので、若干の混乱はある。

 それでもなんだかんだでてきぱきと動いているのは訓練の成果だろうか。


 そして、戦士達が選抜される。僕の前に突入メンバーがやってきた。


「じゃあ、行こうか」

 僕の言葉にアルバートがあっけにとられた。

読んでいただきありがとうございます。

出張しんどい(´・ω・`)

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