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大地の王

 坑道を進むにつれて重苦しい雰囲気はどんどんと増していった。地属性エーテルなのは何となくわかる。

 エーテルにはたとえるなら裏と表がある。俺たちが使うエーテルを表とすると、魔物たちがまとうエーテルは裏だ。

 互いに相反するエーテルは相殺しあい、互いにダメージとなって残る。

 要するに表のエーテルを持つ俺たちが裏属性のエーテルの中にいれば、徐々にその力が失われていくというわけだ。


「ぐぬう……」

 地属性の申し子ともいえるドワーフが苦しそうにしている。

 同じ属性であればダメージは軽減される。にもかかわらず彼が疲労を蓄積させられている。それぞれ自分の得意とするエーテルをまとってダメージを軽減させているが、それでも徐々に削られている。


「まずい……ですね」

「ああ、だがもう戻る余裕はないし、戻っても出られるかはわからん」

 もはや機械的に歩を進めているだけの俺たちの足元をネズミが追い抜いて行った。


「ん? おかしいですね」

「なにがだ?」

 疲労が蓄積し思考が妨害される。

「いま、足元をネズミが通り抜けていきませんでしたか?」

「ああ、そうだな。それがどうしたっていうんだよ?」

「これだけ濃密なエーテルの中でなんであんな小さな動物が身動きできるのか……?」

 その指摘にぎょっとする。

「まさか!?」

「魔物の可能性があります」

 負のエーテルは魔物を活性化させる。ネズミとはいえ魔物化していて、それが群れできたら……俺たちが骨になるまで数分だろう。

「大丈夫、一匹だけニャ」


 ある意味それも安心はできない。

 逆に的が小さすぎて攻撃が当たると思えないからだ。

 そして、気づいてしまった。さっきのネズミを見失ってしまったことに。

 弓使いは気にしなくてもいいと言った風情だった。

 とりあえずどうしようもない。彼女の警戒にひっからないのなら、俺にはどうしようもないだろう。

 

 騒ぎが収まってみると、なぜか少し体が楽になっていた。エーテルの圧が弱まった感じだ。

「……なあ」

「ええ、言いたいことはわかります。それで、どうしますか?」

 全身を覆っていた重苦しい圧が弱まり、体力も若干戻ってきている。

「引き返すことも可能じゃな」

 弓使いはじっとこちらを見ている。

「進もう。下がってもじり貧だ。なら少しでも可能性がある方に行こうじゃないか」

 仲間たちはそれぞれの表情でうなずいてくれた。


 再び歩き出すと、徐々に下がっていた道が目に見えて下り坂になってきた。

「……もう少し先に広間? 大きな空洞があるニャ」

 エルフの魔法使いも同じ意見らしくうなずいた。

 さっきまで軽くなっていた圧が再びのしかかってきていた。

「何があるかはわからない。けどここまで来て引き返すってのはないよな?」

「まあ、そうじゃの」

「ですよね」

「行くニャ!」


 そして、しばらく進むと唐突に視界が開けた。ひょろっと背の高いエルフの3倍ほどの天井の高さ。ガルニアの城門ほどの幅があって、その奥に巨大なクリスタルが見えた。


「なんだ、ありゃあ……」

 言葉が出ない。金色に輝くクリスタルはまがまがしいエーテルを周囲にはなっている。黒く濁った色合いの中で、中心部で何かが脈打っていた。

「もしや、あれは……?」

「知っているのか?」

「エルフの里に伝わる伝説の一つです。おとぎ話だと思っていたんですがね」

「ワシも聞いたことがあるぞい。大地の精霊王ベフィモスじゃな?」


 名前が出た瞬間、広間に漂っていたエーテルがぶわっとクリスタルに吸い込まれていく。そして、卵の外郭に亀裂が入るようにひび割れて、その中に封じられていたものが姿を現した。


「GURUAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 咆哮そのものが物理的な衝撃を帯びているかのようで、俺たちは吹き飛ばされて壁面に叩きつけられる。

 再び広間に満ちた負のエーテルに体力が削られていく。

「にゅあああああああああああああああああああ!」

 そんな中、弓使いが全身にエーテルをまとい抵抗している。

「みんな、ここで負けたら何のためにここまで来たのかわかんないニャ!」

 そして、弓に矢をつがえると、崩壊したクリスタルの後にたたずむ何かに向けて矢を放った。


「GURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 再びの咆哮。だがこっちもやられっぱなしではない。

「うおおおおああああああああああああああああああ!」

 負けじと叫ぶ。雄たけびを力に変えてすさまじいまでの圧に抵抗する。

 目の前でパリンと何かが弾けるような感覚があった。いつの間にか手には槍を構えている。

 

 吹き荒れるエーテルは、坑道の時と同じように砂礫が集まってゴーレムを形成する。

「ふぉおおおおおお、見える! ワシにも見えるぞ!」

 なぜか両手に二刀流のようにハンマーを手にしていた。じりじりとした足取りながら、ゴーレムの振り回してくる腕を避けてハンマーを叩きつける。

 するとこれまで全く歯が立たなかったゴーレムがコアを砕かれ崩れ落ちた。

 

「なんだと!?」

「ふふふ、今のワシはすごいぞ!」

「意味わからんわ!」

「見えるんじゃ!」

「あー、おそらくエーテルの流れの結節点を見てるみたいですね」

「なんだって!?」

「エーテルの流れの起点を叩けば、分断されてエーテルを遮断できるので。ただ熟練工クラスでもなかなか見えないそうですが……」

 ゴーレムではらちが開かないと判断したのか、放射されているエーテルが一点に集約していく。

 カッと輝いた後には、四足歩行の巨大な魔獣が現れた。


 直後に空中に巨大な魔法陣が現れた。

 そして膨大なエーテルが放射され、負のエーテルが中和されていく。


「光弾よ、わが敵を討て!」

 現れたエルフの賢者が攻撃魔法を放つ……あれはアリエル様じゃないか!?

「紅蓮なる刃よ!」

 両手持ちの大剣を振りかざし、真っ向から斬り下ろす。というか、すさまじい。ベフィモスにダメージが通っているように見える。

 そしてついに巨大なゴーレムを召喚した。天井から大きな石が落ちてきて、地面で砕ける。それがそのままゴーレムに成形された。

「ふん!」

 振り下ろされた巨大な拳。それだけで人間一人を平面に圧縮できそうなサイズだ。それを魔氏らから振り上げたハンマーで砕いた。

 あれは、工房長のレギン様じゃないか。


「おお、おおおおおおおおお!!」

 ドワーフの戦士がなんかすごくテンションの上がった声をあげている。


 そして、彼らの後ろに控えているのは……。

「領主様!?」

 俺のあげた声に、領主さまはこちらに視線を向けた。

 そして指先にちょっと意味が分からないほどの量のエーテルを集約し、それをベフィモスに放つと……全く抵抗がないかのように貫通した。

読んでいただきありがとうございます。

感想、ポイント、レビューなどは作者の原動力です。


よろしくお願いします。

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