渾身の一撃
「工兵隊、急げ!」
「わーっとるわい!」
アルバートとドワーフたちが怒号を交わしあう。
アルバートの率いてきた兵は、強行軍にへたり込み、水を飲む余力もないほど疲弊していたのだが、同じように進軍してきたドワーフのタフさは半端ない。
砦は街道のそばの小高い丘に築かれていた。背面は崖で正面のみが進軍経路だ。
そしてその正面に陣地を築き、少しでも防御を固めようとしているわけである。
「茨よ、その棘をもって我らが祝福する地を守り賜らん」
アリエルが土塁に建てられた柵に、茨をまとわせた。
「うふふふふ、このとげが刺さったら敵にまとわりついてね、血を吸うのよ。うふふふふふふふふ」
楽し気にドワーフの工兵にいて聞かせるアリエルに、ドワーフたちはドン引きしていた。
「柵の裏側に、弓兵と槍兵は交互に並べ!」
砦に逃げ込んできた行商人なども矢を運ぶとかけが人の後送などの仕事を割り振られている。
そうこうしているうちに、ついに群れは丘を取り囲む形で到着した。
「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
ボスのオーガ上位種が雄たけびを上げると、率いられる群れも同じく雄たけびを上げる。それは、景気づけに鬨を上げているようだった。
「負けるな! 気合を入れろ!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
「必ず殿が助けに来る! 一の家臣たるアルバートが約束する!」
「ちょっと! アルバート! 一の家臣はわたしなんだけど!」
「は!? 貴様はまだ新参だろうが!」
「なにいってんの! そもそも1~2か月の話でしょ?」
「わずかな期間といえど、俺が先に殿に仕えたのだ。そこは譲らん!」
「ふん、剣を振り回すしか能のない脳筋のくせに!」
「「ああん!?」」
それこそ顔が触れ合いそうなほどの距離でに睨みあう二人。
「いいだろう。この戦いでどっちが手柄を立てたかで判断しようではないか」
「ふん、ドンパチは自分の専門だもんね。いいでしょう。相手の土俵で勝ってこそわたしの優秀さが際立つと言うものよね」
「くっくっく、お主が有能なのは知っておる。だがな、殿が認めるのは俺の方だからな!」
お互い示し合わせたように顔を背けると、互いの手勢に合流する。
「来ます! ゴブリンの群れ。数は500!」
砦の物見台からの報告があがる。土煙を蹴立ててトロールに率いられたゴブリンが気勢をあげながら突撃してきた。
「引き付けるのよ! エルフの誇りにかけて、空矢は出さぬように!」
アリエルは最前列で兵に交じって弓を構える。
「……今! 放て!」
エルフの精鋭が矢継ぎ早の妙技を見せる。まるで示し合わせたかのように別々の的を狙い射抜いて行く。
50の弓兵が5回矢を放つと、250のゴブリンがその身に矢を受けていた。
もちろん、当たり所によっては致命傷になるが、そうならない数の方が多い。
だが傷を負ってひるんだり、へたり込む者も出る。トロールはその巨大な腕を振るい、へたり込んでいるゴブリンを薙ぎ払った。
後方ではオーガの叫びに合わせてさらにゴブリンたちが進撃し始めた。
止まっていても死ぬと理解したゴブリンたちはその目を狂気にぎらつかせて再び前進してくる。
「撃て、撃て!」
アリエルも必死に兵を鼓舞し、矢を放つ。
だがその矢嵐のなかを突っ切って柵に取り付くゴブリンも出始めた。
また後方からの投石が始まり、矢を打ち返すにもどうしても手数が減る。
「突け! 突け!」
槍兵の指揮を任されているエルフが命を下す。
茨の棘を身に受け、動きが止まっているところを槍玉にあげられる。
茨を握り締め、思わず手を離したところ、そのまま転がり落ちて杭にくし刺しにされる。
戦場にはゴブリンの断末魔が溢れた。
その時、ひときわ大きな怒声が上がる。トロールがいら立ちに任せて突進してきた。
「出るぞ!」
アルバートが自らの配下を率いて土塁の間から出撃する。
「弓兵、曲射三連! ……撃て!」
アリエルはアルバートの進軍経路を想定して、その先にいる敵に向けて3連射を浴びせた。
「突撃!」
アルバートは剣を横薙ぎに薙ぎ払うと、アリエルがこじ開けた道に向け突き進む。
そして、トロールと向き合うと気合一閃、振り下ろした剣はトロールを唐竹割に両断した。
先陣が敗れたことを知ったオーガは、自ら前に出て全軍に突撃を命じた。叫び声にしか聞こえないけど、たぶんそんなニュアンスのはずだ。
オーガはその巨体を感じさせない速度で突進し、アルバートと激しく打ち合っている。
というあたりで、僕は戦場の真上に到着した。
「うら、うら、うらららららあああああ!」
オーガの拳を剣で受け、流し、斬りつけるが上位種のオーガの上皮を貫けない。オーガは力任せの攻撃でアルバートの防御を貫けない。そんな状況がしばらく続いた。
「GUAAAAAAAAAAAAA!!」
アルバートが体勢を崩した。その隙を逃さずオーガは拳を繰り出しアルバートが吹き飛ばされる。
その姿を見た瞬間僕の中で何かが弾けた。アルバートは僕に親切にしてくれた。何も持たない、ただのクロノだったころから。そうして今、僕を支えていてくれる大事な仲間だ。
「……なにしやがる」
僕は自分の口から出たとは思えない冷たい声で呟いた。
魔力を集約し、矢に変えて打ち出す。
4本の矢はオーガの両手両足を貫通し、そのまま地面に縫い付けた。
風を操ってふわりと戦場に降り立つ。身にまとった魔力はジワリとにじみ出るように戦場を覆った。
「僕の大事な仲間を……傷つけたね?」
周囲の空気が僕の体から漏れ出したエーテルで急速に冷却されていく。
「くたばれ」
頭上に向けて手のひらをかざす。手から放出されたエーテルが急速に圧縮され一本の矢になった。
矢はそのまま群れの上で爆散し、数千の針となって群れに降り注ぐ。
オーガには無数の矢が突き刺さり、苦痛に悲鳴を上げる。
そしてついに群れの魔物は断末魔すら上げるいとまも与えられず、砕けて魔石と化した。
「「……殿。やりすぎです!」」
いつの間にか僕のそばに来ていたアリエルとアルバートが異口同音に僕にツッコミを入れた。
砦に立てこもっていた兵や冒険者たちは僕に向かってざーーーっと跪いている。
「……てへ?」
軽くボケた僕の頭上に、アルバートとアリエルの振るったハリセンが炸裂した。
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